343話「野外授業⑱ 終わりにレポート提出!」
あの後、解散した。
オレもヤマミもマンションへ真っ直ぐ帰っていった。部屋へ入るなり、真剣なヤマミが振り返る。
「さて、ここからが本題ね」
「ああ」
黒い花吹雪がズズズと渦を巻いて、オレとヤマミは吸い込まれた。
ヤマミ独自の亜空間の中に着地すると、怯えるナリアがいた。
リョーコさんに殺されそうなギリギリだったからか? どの道、オレたちが来たってのもあるだろうな。
「あなたの事だから殺すのは気が進まないでしょ? だからアバターと入れ替えて死んだように見せかけてあげたけど……」
「悪いな……。手にトマトで暗示をありがとな。あ、あとお願いできねぇか?」
「なに?」
「コイツが悪意を持って何かしようとしたらバツが当たる『刻印』付けられねぇかな?」
「分かったわ。こういう事もあろうかと組み立てておいたから」
ヤマミは頷き、ナリアへ歩み寄る。
尻餅をついたナリアはそのまま後しざりしていくが、ヤマミは構わず詰めていく。
「や、やめてよ……!」
「大丈夫よ。あなたが同じ事をしてたのをそっくりするから」
しゃがみこんだヤマミに腕を掴まれて、ナリアは怯えるしかない。
そしてナリアがしてきたのと同じように、ヤマミから赤い刻印が流れ出してきて渡っていく。
それはナリアの刻印を囲むように記された。封印してるみたいに見える。
「はい終わり」
「くっ! 我が名において命じる! 我の隷属となって我が力となれ!!」
ヤマミを支配しようと唱えていくが、ピリッと激痛が発生した。
「あぎゃあああああああああああああああッ!!!!」
ジタバタもがいて転がっていくナリア。
ヤマミは薄ら笑みを浮かべて「一生そのままだからね」と立ち上がる。
妖精王レベルの呪縛は、どんな熟練した創作士でも解けない。
オレは一息を付いた。
「後はどうすんだ? 世話すんのか? オレたちはまだ養子を持てる年齢じゃないぞ」
「児童養護施設に預けるわ」
「そ、そんなのいや!! あんな汚いところへ──」
ヤマミが張り手で頬を叩く。パン!
「そこで一から学び直しなさい! これまで当たり前だった世界の方がいかに醜く汚いか思い知るためにね!」
「ううう……!」
ナリアは頬に手を当てて、悔しがって涙が溢れていく。
たぶん死んだ方がマシだと思うくらい惨めだと思ってるのかもしれねぇ。
だが、これからが新しい人生のスタートだ。
「もう狂った事はしなくていいからな。真っ当に生きれよー!」
オレはナリアを撫でながら柔らかい笑みを見せた。
しかしガブリと手を噛まれた。
「ギエ────!!」
「ぎゃあああああああああ!!」
オレが痛みで声を出すとともに、ナリアまで激痛に悶え苦しむ。
ヤマミは「全く……」と呆れる。
だが、よく分かった。これなら他の人に憂さを晴らすとかもできねぇ。なんつーか弱いものイジメやりそうだしな。
とりあえずコレでナリアの加虐性は抑え込められるか。
その翌日、オレたちはナリアを『時空と心の神殿』という創作士児童養護施設に預けた。
「こいつを頼む。一から鍛え直してくれ」
「うむ」
職長さんは緑色の肌をしてて白いローブを着てて杖を持って厳しそうな顔しとる。
なんか「滑芽九サマカミ」って名前らしい。変わってんな。
そばにターバン巻いた黒い人がいる。
彼らが受け持つ大勢の子どもはどいつもこいつも歴戦の戦士かってくらい真剣な顔で落ち着ききっている。
恐らく地ごk……独自の教育を受けてきた子どもたちだ。面構えが違う。
「ナリアよ。これから現実では一週間だが中では一年になる部屋で過ごしてもらう。そこで重力一〇倍で空気薄い環境に慣れるのだ。昼は暑くて夜は寒い。だが乗り越えて見せよ」
「イヤあああああああああ~~っ!!!」
……なんかすごい教育始めてる気がするが、でぇじょうぶだろう。
なんとかなるさ。たぶん?
ちなみに並行世界から来た、他の人は────……。
邪険モリッカは深夜抜け出してて、俊敏に建物の上を飛び移ってかなりの距離を渡っていた。
しかし目の前でフクダリウスが仁王立ちで立ちはだかっていた。
ビルの上で二人は対峙し、冷たい風が吹き荒ぶ。
「もう深夜に外出は遅いぞ? トイレ行くには寝ぼけすぎるのではないか?」
「くっ!!」
邪険モリッカは鋭い攻撃を仕掛けるが、フクダリウスに右手で顔を鷲掴みされてしまう。
「離せ! 離せっ!!」
太い腕に攻撃をガンガン加えてもビクともしない。
邪険モリッカはなすすべがなくて足をジタバタするしかないぞ。
「……外は冷える。帰るぞ」
「離せえええええええッ!!!」
──何度も邪険モリッカが抜け出そうとも、フクダリウスが先回りして事なきを得た。
まさに『お釈迦様の手の上の孫悟空』だぞ。
リョーコさんはというと……。
「なんだか奇妙だわねー。まさか自分のアナザーが実家で暮らすなんてー」
「まるで双子ができたみたいだ。ははは」
「そうね」
なんとリョーコの実家で暮らす事になったぞ。
もう地球滅んでるし親も大切な人もいないから、同じリョーコの家で余生を過ごした方がいいと思っての事だ。
ちなみに事情は話したが、父と母はすんなり受け入れてくれた。
「お父さん……お母さん…………!」
リョーコさんは二度と会えるはずのない優しい父と母に感涙したのだった。
孤独の身に暖かい家族の温もりに、傷ついた心が癒されていった。
ちなみにリョーコはまたマンションへ戻って一人暮らし。
下僕コマエモンはやはりノーヴェンのトコで部下やる事になったそうだ。
「かたじけぬ……! もはや身寄りのない拙者に再び拠り所を与えてくださって至極恐悦でござる!」
「オー! 安心してくだサイ! 同じファミリーデース!」
同じコマエモンなので、忍者のように仮面をかぶって区別化できるようにしたらしい。
こうしてノーヴェンの家族を守る護衛役として新しい場所を得た。
男マイシは「フン! きさまらに付き合ってられるか!」と空飛んでって行方知れず。
どこにいるのかは頭が痛いなぁ……。
妖精王マイシはというと?
「しばらくあなたの部屋に居候させていただきますし」
「ふざけんなし!! 明日出て行くし!」
「では晩もハンバーグ作りましょうし。こう見えても肉料理得意なんですし」
「ちっ! なら好きなだけ居ろし……」
「オケっしょ」
妖精王マイシはマイシのマンション一室で同居する事になった。
本来ならマイシは断るんだが、妖精王マイシは料理がものすごく上手いので胃を掴まれて同居オッケーになったらしいぞ。
毎日肉料理ばっかりだけど偏ったりしねぇんかな?
勇者ナッセと魔法少女リョーコは他と違って帰れる世界があるんだが、迷ってしまったので帰れないみたい。
なので、彼らはポジティブにオレたちの世界を満喫しようと言い出してきた。
他と違って無害な存在だしなぁ。
「これから東京へ行って、ここの世界のジャキガン学院行ってみるお」
「わー! 楽しみ!」
こちらとあんま変わらないので、滞る事なく東京まで新幹線で行っちまった。
今頃、あっちの学院へ着いたんだろうか?
オレたちはこれをレポートに書いて、先生に提出したぞ。
ドラキー先生は困惑していた。
生徒たちのレポートが荒唐無稽な内容だったが、全て真実だった為に観念するしかなかった。
自分で『鏡面世界』へ行かせたようなもんだから、多少の責任感はあった。
「……野外授業の場所を間違えた。くうっ」
「ピー」
「まぁまぁ、気を落とさずにな……。そういう事もあるさ」
スライム騎士先生が、ドラキー先生の肩に手をついて慰めた。
こうして波乱万丈な野外授業は終わったぞ。




