336話「野外授業⑪ コマエモンアナザーは下僕!?」
二年生枠のノーヴェンとコマエモンと、一年生枠のコンドリオンとマレンがキョロキョロ見渡していた。
気づいたら水晶の世界みたいな奇妙なところに迷い込んでいたのだ。
水晶のような地面と氷壁や氷柱はまるで鏡のようにツルツルで反射光が煌く。空を見上げれば両側の地平線を繋ぐリングと三つの五大衛星が見える。
「……天王星の空とすれば特徴が合致しマース」
「どういう事だ?」
こんな事態にも落ち着いているノーヴェンにコマエモンは怪訝に眉を潜める。
「し、知ってるんですか??」
「どういう事……?」
コンドリオンとマレンは戸惑っている。
ノーヴェンは『鏡面世界』を知っていたようで、説明をした。
原因は分からないが、並行世界を繋いでいるらしい奇妙な世界。行方不明が多い原因にも入っている。うまく使えばショートカットにもなりうる。
どういう事か天王星の特徴と一致する空が窺えるので、場所的にそうなんじゃないか?
そして別世界のアナザーが出てくる所でもある……彼が知ってるのはこれぐらいだ。
「む……、並行世界へ繋がる鏡面世界……!?」
「初耳です……」
「私も」
ノーヴェンは苦い顔をした。
「もしかしたらナッセたちは知らないかもしれまセーン。事前に説明しておけばよかったかもしれまセン」
「これからどうするのだ? 引き返すのか?」
「イエス! まだ一時間進んだ程度ですが……ナッセたちの様子が気に掛かりマース」
するとザッと誰かの足音が聞こえて、緊迫が走って振り向く。
「おお!! 主様!!」
なんとコマエモンに酷似した背の高い男が歓喜してやってくると、ノーヴェンへ跪いた。
「オー!? コマエモンですカー!?」
「四首領“叡智”ノーヴェンさま!! 生き残っていたのですね……。光栄の至りです」
同じコマエモンは呆然としている。目の前のコマエモンがノーヴェンを慕っている上に、嬉しそうな顔をしているからだ。
まるで下僕のように跪いていて奇妙だ。
「そちらの方は新しい部下か? む、同じ顔の……??」
「整理しまショウ! ミーは別世界のノーヴェンデース」
「こちらはコマエモンにござるが……、まさか同じ顔とは……?」
すると下僕コマエモンは怪訝な顔をする。
「そうか……。ここは『鏡面世界』……。アナザーが出てくる所。そのような可能性もあったか」
「そちらの四首領ノーヴェンとはどういう事ですカ?」
下僕コマエモンは苦い顔をして立ち上がる。
「……信じられないかもしれんが、我らの地球は『聖愛戦争』の果てに星獣を呼ばれて滅ぼされたのだ」
「セイハート戦争ですカ?」
「そうか、それを知らない世界か……。『聖愛』は万物の願いが叶う奇跡Bランクの遺物だ。我らが偉大なノーヴェン様はそれにより星獣を召喚し、従わせようとされた」
ノーヴェンはピクッと眉をはねた。
星獣云々はナッセで知っている。ナッセが仲良くなって召喚獣になった。
……そしてそれまでナッセ自身が『鍵祈手』として多くの並行世界に生まれ変わったが、星獣によって何度も世界を滅ぼされた。
「そうカ! さしもの『聖愛』ですら星獣を従わせるには至りませんでしたカ」
「うむ。かような事態になるとは……無念!」
下僕コマエモンは「くっ!」と即座に俯く。
コマエモンとコンドリオンとマレンは言葉を失っていた。
「差し出がましい事を頼みますが、その滅んだ地球を見せてくれませんカ?」
「……む」
下僕コマエモンは怪訝に顔を顰めたが、それでも目の前は別世界とはいえ同じノーヴェンなのだ。
しかも話をすぐ飲み込んでくれるので同様に知性があると察した。
「承知した」
下僕コマエモンを先頭に、ノーヴェンたちが追従する。
しばらく歩き続ける最中で、周りの風景は万華鏡のようにころころと変わり続けていた。
もし『地図作成』でもなければ、引き返すルートが分からなくなるだろう。
「ここからだ。気をつけられよ……」
「イエス! では念の為にテキオーラをみんなにかけておきまショウ」
ノーヴェンは魔法を発動し、暖かい光がボウッとコマエモンたちを包んだ。
これをかけておけば酸素のないような世界に出ても通常通りに活動できるのだ。
それは宇宙ですら例外ではない。
意を決して踏み込むと、水晶の世界がぬぐい去られて瓦礫が散乱する大地が現れた。
空は夜空……。
未だ引き裂かれた大地に溶岩の池が所々ある。
「こ……れは…………!?」
「まるで終末の世界……です」
コンドリオンもマレンも青ざめるしかない。
周囲を見渡したら、かつて都市だったであろう残骸が無残な瓦礫となって転がっている。
同じ大阪とは思えない。
あちこちで火を吹いていて、テキオーラがなければ相当蒸し暑くなっていただろう。
「四首領クラスの力を持ってしても星獣には歯が立たぬ……。拙者は吹き飛ばされたものの、運良くここにたどり着けて彷徨ってでござる」
下僕コマエモンは無念というように歯軋りする。
ノーヴェンはメガネでカチカチスイッチを押していた。撮影するとともに、生命反応をサーチしていた。
「残念ながら生きている人はいないのデス。幸い星獣は役目を終えたようでいなくなってますガ」
「しかし、これは確かに絶望的だな……。ううむ……」
コマエモンは苦い顔で見渡す。
ナッセもヤマミもこれを多く見てきたのだろうか? 星獣に大陸を破壊し尽くされて何度も絶望を味わったのだろうか?
こんな凄惨たる世界を何度も見てきて、よく正常を保てたものだ。
すると下僕コマエモンが正座し、腹を剥き出しにして小刀を……!
「ノー!! ウェイト! ウェイトデース!!!」
「止めてくれるな! もはや拙者は主様を失った!! 生きる目標もない!!」
「ムンッ!」
なんとコマエモンが峰打ちでドスッと当身を食らわして気絶させた。
「……ここは帰還しまショウ」
「そうですね」
「麗しいマレン……無事に帰れたら婚約しまショウ」
「嫌です」キッパリ!
「WHOOOOOOOOOOOO~!!!!」
さりげなく二度目の婚約を申し込んだが、マレンに嫌そうな顔をされてオーバーリアクションでショックを受けたぞ。
悶えるようにグネグネしながら転がるノーヴェン。
コマエモンはジト目で「馬鹿な事をやってないで、さっさと帰るぞ」とキツめに言った。




