332話「野外授業⑨ なぜか“リョーコさん”現れる!?」
モエキはプルンと巨乳を揺らし、アサガオ型拳銃で光弾を連射。
並み居るモンスターを蜂の巣にして、次々と霧散させていく。
「終わったわ」
自慢げに、優雅っぽく胸を張って余裕の笑みで一言。
腕を組んでいる男スミレと腰に手首をつけているエレナ、そして静かに佇むカグヒメル。
「この程度のモンスター。私一人だけで十分ですわ」
「過信したらダメだろ」
「いつもはナッセ気にしてるのにねッ」
「わらわが手を下すまでもないが、モエキは苦手じゃのう」
スミレとエレナのような先輩はともかく、同級生であるカグヒメルに苦手意識持たれたら疎外感がしてしまう。
集団の中のぼっちは耐え難い。やめてよぉ……。フルフル……。
「あああああああああああああッ!!!」
モエキは錯乱し、突然走り出した。
「バカ! 一人で突っ走るんじゃねぇ!!」
「最初は自慢げに気取ってそうな感じだったのに、なんかキレたッ!?」
「……だから苦手なんじゃ」
錯乱したモエキは立ちはだかるモンスターをツルで縛り上げて、バンバン射撃して粉砕していく。
モンスターの方が気の毒だと思うくらい、錯乱モエキの無双が続いた。
スミレたちは慌てて追いかけていった。
「……いい腕してるとは思うんだがな」
「錯乱キャラッ!?」
「ダンジョンだからと、遺憾なく錯乱を開放しておるのじゃな。常時錯乱してはわらわたちも大変だったのだろうが」
走る先で死屍累々と肉片散らしたモンスターがボシュンシュンと霧散していく。
「ああああああああああああああああああああああ!!!!」
慟哭しながらツルで標的を縛り上げて射撃。
モンスターでさえその剣幕に怯んでしまい、なすがままにされている。
もはやモエキの独壇場だ。錯乱しているので、取ってつけたような優雅な態度も何もない。
ただただ敵を駆逐する殺戮兵器だぞ。
【RESULT】 テロテロテッタッタ──!
美牧モエキ(威力値:9650→11500)
美牧モエキ(威力値:11500→13300)
美牧モエキ(威力値:13300→15900)
美牧モエキ(威力値:15900→17600)
美牧モエキ(威力値:17600→19000)
美牧モエキ(威力値:19000→22000)
「一時間も錯乱してて、よく疲れないな……。ある意味すごいというかなんというか」
「すごいッ! どんどんレベルアップしてゆくッ!」
「たぶん、一年生二年生含めて撃墜数トップじゃなかろうか?」
スミレ、エレナ、カグヒメルはただ追いかけているだけだ。
それもモエキは「あああああああッ!!!」と錯乱したまま、モンスターを駆逐し続ける。
「あいつ本当は狂戦士なんじゃねぇのか?」
「マジでそれッ!」
「そんな気がしてきたのう……」
それでもモエキのスペックは平凡のはずだ。
器用に戦えるベテランなのは確かだが、特に血脈の覚醒者でもなければ、スペリオルクラスでもない。
ただ錯乱して見境なく暴れてるだけだ。
場所が場所なだけに、思いっきり暴れられるせいで威力値が三〇〇〇〇近くに上昇してきている。
しかも一時的なバフでこうなってるわけじゃない。
【RESULT】 テロテロテッタッタ──!
美牧モエキ(威力値:26000→31000)
「マジかよ……!?」
「アニマンガー学院一、普通にレベルアップで急速成長すぎッ!」
「よく力尽きぬのう」
スミレは驚愕するしかない。
普通なら、あっという間にMPをカラにして力尽きるはず。なのに勢いは衰えない。
もしかしたらナッセみたいに大容量じゃないのか……?
ってか、誰が止めんの??
「誰でもいい、コイツ止めてくれー!!」
トンッ!
なんと大柄な何者かがモエキの首を手刀で軽めに打って、失神させた。
足を止めたスミレとエレナは驚愕して見開く。
「なんじゃ? もう止まったかの?」
カグヒメルも足を止めた。
「り、リョーコ……なのか!?」
「うんッ! 間違いない……けどッ!?」
金髪オカッパで赤ジャンパーにピンクシャツ、赤ジーパン……。
体つきは胸が大きく、魅惑的なラインをしている。
いつもは陽気でいい加減な性格で、よくナッセたちにつるむ良き友人。
「……スミレ? …………エレナ??」
目の前の大柄でムキムキなリョーコが異質だと、スミレとエレナは察し戦慄を感じた。
涙が頬を伝っていて、無表情っぽいリョーコ。事情は分からないが“大切なものを失った”心境だというのが見て取れた。
「生きてたんだ……!」
グッタリしているモエキを片手で持ち、歩んでくるリョーコ。
スミレもエレナも心音が高鳴っていく。
「生きててくれた……生きててくれた…………! 良かった…………!」
目の前のリョーコは安堵して笑みを漏らした。
スミレは唇を震わせ「なにが……あった?」と聞きたくない事を聞こうとした。
戦々恐々のエレナも息を呑む。
ズズズズ……!!
凄まじくオーラが立ち上っているリョーコ。
いつものナイスバディではなく、筋肉ムキムキで二メートル強の体躯。女性としては大柄だ。
フクダリウスを連想したが、全く質が違う事にスミレもエレナも瞬時に察した。
「……違う!」
「内包するオーラで筋肉を強化しているんじゃないッ! あれはッ……!!」
今のオーラを垂れ流している状態ですら、おそらく妖精王ナッセとヤマミでさえ足元に及ばない。
本気を出せば大陸さえ揺るがすだろう。ひょっとしたら威力値一〇〇万オーバーの四首領クラスに切迫してるんじゃないか?
いつかはリョーコ自身がたどり着く境地。
絶え間なく数十年も鍛え上げてようやくたどり着けるはずの……。
「どれほどの代償を払えば、それだけの……力を…………!!」ざわ……!!
リョーコはモエキを床にそっと寝かす。
そして懐かしそうにスミレとエレナを見たが、なにか察したのか無表情に変わっていた。
「そうか……別世界の…………」
「おまえリョーコなのか……?」
「一体何があったのッ!?」
「のう? 話が見えんのじゃが? リョーコなのじゃろう??」
スミレはモエキに近寄り、確認すると気絶しているだけだった。
本当に優しくアリを摘むぐらいのパワーで大人しくさせただけだ。まだ冷静なはずだ。
「そっちのナッセは……元気?」
「う……、うんッ! ヤm……むぐッ!?」
「待て!」
咄嗟にスミレがエレナの口を塞いだ。
恐らく今のリョーコの情緒は限界ギリギリのはず……。それも今に壊れそうな……。
向こうで何があったか知らないが、相当の精神的負荷を負っているのは分かる。
「こっちの世界のナッセは大魔王を倒した英雄になっている。今も健在だ。そっちは……?」
「四首領ノーヴェンに殺された……!」
両膝をついてリョーコは後悔の涙を流した。肩を震わせて嗚咽する。
大柄な見た目とは裏腹に、心はこれ以上にないほどに弱っている……それが分かった。
「あたしのせいで……あたしのせいでッ…………!! 世界も、スミレもエレナも……大好きなナッセまでもッ…………!!」
うわあああああああああああああああああああああ~~~~~~!!!
遺跡に響くほどの慟哭に、凄惨たる悲愴さが痛いほどに伝わってきた。
一体何が起きたのか分からないが、別世界のリョーコは強い悔恨に苛まされるほど全てを失ったのだろう。
それが元となって、リョーコは自分の人生と才能を投げ打つ事で絶大な力を得たのだろう……。
こちらのリョーコとは全くの異質な存在。
「……間違いねぇ! リョーコさんだ!!」
「ガチでリアルゴンさんッ!!」
リョーコアナザーは、まさかのリョーコさんだったぞ………………。




