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326話「野外授業③ 唐突な鏡面世界!?」

 さっきまで黄灰色の神殿『洞窟(ダンジョン)』だったのに、気づいたら水晶のような世界に迷い込んでいたのだ。


「これは……!?」

「どこなんだ!?」


 ミャコもミナトも、ただならぬ異変だと感じ取っているようだ。


「シジツたちが言っていた『鏡面世界(ミラーワールド)』かぞ!?」

「何が起こるか分からない。私たちから離れないで!」


 オレとヤマミにミャコとミナトが近づいていく。

 風景は反射光が煌くような『洞窟(ダンジョン)』になっているが、恐る恐る歩き出したら風景がすぐ移ろいゆく。

 まるで風景が高速で流れているかの様な錯覚だ。

 シジツたちは()()を利用して兵庫県と大阪を行ったり来たりしていたらしい。


「まさか『洞窟(ダンジョン)』でも、こんな現象が……!?」


 漆黒の魔女アリエルの仕業かと思ってしまうが、四首領(ヨンドン)の会合やシジツとの情報交換などで事前に聞いている。

 天王星の魔女ワンダーの仕業なのだが、どういう意図で地球に干渉したか分からない。

 そもそもアイツがどんなやつなのかも知らんぞ……。


「やはり……地平線を結ぶ輪と、複数の月……。シジツたちの言ってた通りね」


 いつの間にか夜景が広がっていて、三つの月が見える。

 シジツたちは五つと言っていたが、たぶん残りは地平線に隠れてしまってるからだと思う。

 そして向こうの地平線から反対側まで『(リング)』と思わしき真っ直ぐの帯が横切っている。


「間違いない……あの月は“ミランダ”“アリエル”“オベロン”……、天王星の大きな衛星だ。この鏡面世界(ミラーワールド)は天王星だって言うのかぞ!?」

「天王星って??」

「別名ウラノス。太陽から二八億七〇〇〇万キロと遠く離れた第七惑星。地球と違って横倒しの自転軸を持ち、約四十二年おきに昼夜が入れ替わる。太陽の光は地球と比べて1%にも満たない。だからほぼ夜。そしてマイナス二二〇度の極寒のはずなんだ」


 それなのに体感的に一五度ぐらいで、ちょっと涼しいかなってぐらい。


「天王星はガス惑星では……?」

「うん」


 怪訝なミナトと、その言葉に頷くミャコ。


「そうなんだよな。元々、天王星はガス惑星。こんな水晶みたいな世界じゃあない。固体の地表なんて存在しない。そのはずなんだ……」


 メタンやヘリウムを含む水素ガスで構成する分厚い大気と水とアンモニアとメタン氷のマントルなので、立てる地表は存在しない。

 そもそも酸素とかないので生存できるような環境ではないはず。

 やはりこれも『空想(ファンタジー)』の影響か?


「……戻ろう」

「その方がいいわね。興味本位で踏み入れていい場所じゃないわ」


 ヤマミも頷く。

 幸い『地図作成(マッピング)』でルートは確保できてるから、来た道を引き返せば元通りの場所へ帰れるはず……。

 ミャコとミナトも「分かった」と頷いてくれた。

 そもそも野外授業だから、一年生を巻き込むわけにはいかない。


「あらあら? ナッセ? まだ生きてたのね?」


 刺してきた殺気にハッとして振り向くと、衛星(オベロン)を背景に大男が聳えていた。

 黒い肌をしているが赤いメイプルリーフの仮面をつけたフクダリウスそのものだった。そしてその肩にちょこんと座っている可愛らしい少女がいた。

 年頃は小学生ぐらいで銀髪ロング。濃い青いロングコート。黒い軍帽。無垢そうな可愛い顔なのに殺気が滲んでいる。


「フクダリウスと……少女?」

「あなたは……?」


「んー? もしかして別世界のナッセぇ?? 女の方は知らんけど」


 少女は屈託のない顔を傾げる。

 緊迫感に包まれたオレは星光の剣(スターライトセイバー)を生成して身構える。


「ま、どーでもいっか。どうせ殺すし。アハッ」


 ゾワッと寒気を覚えるほどの殺意こもる笑顔を向けてきた。

 黒いフクダリウスが「ウウウウウ……」と凶暴そうに唸り始めていく。少女と同調しているのか?

 肩から離れた少女が「壊して!」と掌をかざすと、ブラックフクダリウスが大地を爆発させて超高速で迫る。


「グオオオオオオオ!!!」


 振り下ろしてきた巨大な拳が大地に食い込み、ズオッと周囲に波紋状の衝撃波が数キロ範囲に広がり、怒涛と岩盤がめくれ上がってバラバラになっていった。

 氷のような土砂を噴き上げてキノコ雲に象っていく。ズゴゴゴ……!!


「アッハハ! 死んじゃったぁー?」


 少女は球状のバリアを張ってて高みの見物のようだ。

 余韻として煙幕がもうもうと立ち込める最中、それを渦巻き状に跳ね除けてオレは光の剣を正眼に構えてブラックフクダリウスへ突っ込む。


流星進撃(メテオラン)────!!」


 少女はハッとする。

 ナッセの背後に星々煌く夜景が移り、天の川が斜めに横切っている。

 繰り出された剣戟の軌跡が、怒涛と降り注ぐ流星に見えた。


「二〇連星ッ!!!」


 二十撃がブラックフクダリウスの各部位に炸裂し、凄まじい衝撃音を響かせた。

 あの五メートルもの巨躯が吹っ飛んで、向こうの巨大氷柱へ突っ込んで破片を散らしてズズーンと地響きをもたらした。

 ミャコとミナトはポカーン。


「ふう……」


 オレは着地し、向こうを見据える。


「アンタ、なんなの……?」

「もう知ってるだろ? 別世界の城路(ジョウジ)ナッセだぞ」


 少女は険悪な表情を見せて歯軋り……。ギリッ!


「自己紹介しなくたっていいぞ。話し合いの余地なさそうだし、このまま倒させてもらう」


 敵意満々だし、説得聞かなさそうだからな。

 先ほどの話しぶりだとナッセを殺したみたいだし、なんの目的でそうしているか分からんが敵なのは間違いない。

 こんな非常事態だし、悠長に事を構えてられねぇ。


「あー、もうムカつく!! あたしには興味ないっていうの!?」

「ないぞ」

「そのままやっちゃって」


 オレもヤマミも冷たい目で敵対の視線を向けたままだ。


「あの……まだ幼いですよ?」


 案の定、ミャコが懐疑的に聞いてくる。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 なんと瓦礫を吹き飛ばして、ブラックフクダリウスが飛び出してきて少女のそばへ降り立つ。

 ドン、と大地に亀裂を入れるほどだ。

 そしてこちらを「グルウゥゥ……」と歯軋りして敵意を向けている。


「あっちは殺す気満々だからな……。あのガキが何を目的としてるか知らんけど、殺しを楽しんでいるようだぞ」

「ナッセさんの言う通りだ。出会い頭に攻撃するのは敵以外何でもない」

「そんな……」


 ミナトにも言い切られ、ミャコは尻尾を下ろして萎縮する。


「そっちの猫ちゃんはてんで甘いわね! こちとら殺るの楽しいんだから哀れみを向けないでよね! 不愉快だから! そーだ殺してあげよっか?」

「ウガアアアアアアッ!!!」


 ミャコがブルッと怯み、サッとミナトが前に立ちはだかる。

 オレを先頭に、ヤマミがその後ろ。

 少女は「物分りの良い方のナッセは面白そうね。気に入ったわ」と薄ら笑みを浮かべる。


「殺人鬼に気に入られたくねぇな……」

「まぁそう言わないでよ。これまであたしをガキだと思ってナメた人多いからね。そーゆーの叩き潰してきたから。アハッ」


 もう殺しに躊躇もない。それさえ喜べるほどに倫理観が狂っている少女……。

 オレは戦慄するしかない。


「こんばんは。改めて自己紹介してあげる。初めまして、あたしはナリアナン・デスケド・グレイナール。ナリアでいーよ。アハッ」


 殺意を孕むナリアの冷たい笑み。


「クラスは『騎手(ライダー)』で、高位の魔道士の家系。史上の天才魔道士として名を馳せているの。そしてコイツは隷属しているタイタン衛星出身のタイタン族のクロダリウスよ!」

「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……ッ!!!」


 まるでドラゴンの咆哮のように、大気を震わせて烈風が吹き荒れるほどだ。

 ビリビリと威圧が響いてくる。

 ブラックフクダリウスならぬ、クロダリウスとは……!?


「見た目、フクダリウスそっくりなんだけどな……」

「ええ、メイプルリーフ仮面もつけてるし」


 ってかタイタンって土星の衛星? まさかフクダリウスは実は宇宙人だった……?


「とんでもない事になったな……」


 色々整理つかない事だらけで頭を抱えたくなる。

 しかし少女ナリアは「さぁ始めましょ。愉しい殺し合い。アハッ」と笑う。殺る気まんまんだなぞ。

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