318話「まさかのナッセアナザー登場!?」
兵庫県中央区の三宮商店街。
多くの人々が行き交うであろう広い通路、左右に立ち並ぶ店。今は無人。
……その内の店の上の屋根で座っていたナッセが立ち上がる。
「ここは天王星の魔女ワンダーが作り出した“鏡面世界”……。安易に踏み入れるな、と忠告したんだがな」
ナッツとテンスケは震えていく。
ツーブロックだが紛れもなく銀髪で首に両端が浮くマフラーを巻き、青いパーカーを着込む青年。
聞いていた身長よりは高いが、紛れもなくナッセそのものだ。
「む、そっち側のナッセを連れてきたのか? もう一人のサムライかぶれは知らんが……」
「えっ!?」
城山ナッツは身を竦ませた。
もう一人のナッセが開けている左目で睨み据えてきたからだ。右目には傷跡が走っていて開いていない。
サムライかぶれと言われたテンスケは気まずそうな顔をする。
「ゴメンなさい……。憧れてコスプレしてるだけです」
「……そうか」
「はい……」
ナッツは萎縮したままペコペコと頭を下げ続けている。
呆れて一息をつくナッセ。
「つーか、ここはショートカットする為の場所じゃねぇ。二度と来るなっつってんだろ」
「本当に……ナッセでござるか?」
訝しげなテンスケが恐る恐る聞く。ナッセは視線を移してくる。
「ああ。正真正銘オレはナッセだ。ただし別の並行世界からだがな。そっち側のナッセは知らんが生きているのか?」
「あ、ああ……。生きているでござる。大魔王を倒した英雄。今はゴールデンウィークだから夕夏家に行ってるようでござるよ」
「夕夏家!?」
ギン、とナッセが見据えてきて、シジツ一同は身を竦ませた。
一気に威圧が膨らんできたからだ。
「……おい! 夕夏家……ヤマミとナッセはどういう関係だ!?」
「え? いつも一緒でリア充を満喫しているぞ」
「拙者も去年の全国大会を観戦していた。確かに夫婦のようにコンビで戦っているのを見届けてでござる」
「本当か!?」
ナッセは訝しげだ。
「ああ」「そうでござる」
ナッツとテンスケが頷き、ナッセはしばしの沈黙……。
少し俯いて「そうか……、こっちとは違うんだな……」と呟く。
「もしかして、そっちはフラれたバージョンのナッセか!?」
「まさか……」
「あはははは!! ザマァないねぇ」
シジツ、ギョヌは察し、そしてジュミは笑う。
セコは「……」と押し黙っている。
「ともかく、ここはヤバいところだ。長居していい場所じゃない。分かったら、さっさと出ろ!」
笑われてさえ意に介さないナッセは再度忠告してくる。
しかしジュミは笑みながら一歩一歩ナッセへと向かっていく。
「自分だけで使うってかい? そいつズルいんじゃねぇか?」
再び龍を象る業火のオーラを噴き上げた。
周囲に震撼をもたらし、商店街に亀裂がビシビシと走っていく。
吹き荒れる烈風にシジツたちは「ぐっ!」と腕で顔をかばいながら踏ん張る。
「……懲りないな。前にやられたばっかりだろ」
「うるせぇッ!!」
床を爆発させ、瞬時にナッセへ飛びかかるジュミ。
ドゴオオオンと、三軒ほどの店が木っ端微塵に破壊され、ナッセは悠々と飛んで床に足をつける。
再びジュミが破片を散らしてナッセへ猛スピードで突っ込む。
それを見てシジツは「一人で行かすな!」とギョヌとセコに呼びかけて、自分は飛び出す。
「くたばりやがれッ!!」
血気盛んなジュミに対し、あくまで冷静なナッセ。
腰に差していた剣を引き抜き、右手の刻印が灯り、閉じていた右目をカッと見開く。
するとボコボコとウロコ状の分厚いエーテルが右腕から浮かび出していく。
濃密度のエーテルが液状化して硬質化している。そのウロコが連なっていって、右腕を半透明の竜の大きな腕が覆い、剣にはドラゴンをモチーフにした形状のエーテル剣で包む。
「竜魂剣……!」
《だから言っただろし!!》
なんとナッセの剣を覆うエーテル、その鍔部分から浮かんだドラゴンの大きな頭が生き物のように両目を開き、口を開けてきた。
ナッツとテンスケは驚いて言葉を失う。
ガッ!!!
ジュミの振り下ろした業火の爪を、ナッセのかざされたエーテル剣が防ぐ。
ズンと足元から窪んでクモの巣のような亀裂が広々と広がる。粉塵とともに大小の破片が浮く。
「地獄金棒・壱の型!! 煉獄葬!!」
なんとジュミの後ろから、シジツが火炎をまとった金棒を振りかぶって飛びかかる。
しかもギョヌもモーニングスターをブンブン回転させて連携に組み込もうとしてきている。
三人で同時攻撃だ!
《ザコどもがうるせぇしッ!!!》
なんと剣のドラゴンが吠え、ナッセが横一線に剣を振るうと、凄まじい轟音を響かせた爆発が三人を吹き飛ばした。
マイシが得意としていた『炸裂剣』だ!
「「「ああああああああああああッッ!!!!」」」
吹き飛ばされた三人は後ろの商店街へ突っ込んで、バゴオオオンと衝撃波で爆ぜて破片が飛び散る。
それを静かに見据えるナッセが恐ろしく見えた。
ナッツとテンスケは竦んで動けなかった。
シジツ、ジュミ、ギョヌも相当な実力者のはずが一蹴されたのだ。
《お前もお前だ! 甘いし! あんなん懲りねぇから潰しとけし!》
「オレたちの世界ならいざ知らず、別世界の人を潰したら理に反する」
《ケッ! 律儀だなし!》
エーテルが模るドラゴン頭がそっぽを向く。
「い、生きてるのか……??」
《あん?》
「まるでジュミみたいなのが憑依しているみたいでござる!?」
《その小娘なんかと一緒にすんな! あたしは灼熱の火竜王のマイシだし!!》
グワッとドラゴン頭が吠えてきて、ナッツとテンスケは竦んだ。
そしてナッセの右目がドラゴンのように縦スジになっている事にも気づく。
「オレたちは共同体だ……。この『刻印』によって、この身に火竜王を憑依させてドラゴンの力を得た。この眼もマイシのを借りてる」
《好きでこうなったわけじゃないからなし……!》
ナッセが右手の刻印を見せてきて、エーテルだけの存在のマイシが不満そうに言ってきた。
「い、一体何があったでござる!?」
「こっちのナッセは妖精王だったのに……!?」
「オレたちは一度死んでる。……まぁ、話すと長くなる」
《話す必要ないし!! つーか、ダベってる場合じゃないだろし! 魔女が気づくぞ!》
「そうだな」
火竜王マイシを憑依させているナッセ。
憑依させて長年慣れているのか二人で掛け合いしているみたいで奇妙に思えた。
「ここは三宮だったっけな。そこから出ろ」
「待ってください! オレたちは東京から────」
「じゃあ電車で帰れ!」
ナッセが左手で突き出すと、ナッツとテンスケは見えない何かに吹っ飛ばされて地面を滑っていく。
呻きながら身を起こすと、戸惑った人々がこちらを見ている。
慌てて身を起こしてキョロキョロ見わたす。さっきまでがウソのように賑やかで多くの人々が行き交う。
「見るでござる!」
なんとポイポイとシジツ、ジュミ、ギョヌが放り出されて行き倒れみたいに横たわる。
そして悠々とセコが現れる。
まるで突然現れてきたみたいだ。
「あーあ。ヤツに見つかっちゃったね。残念」
こちらに舌を見せてセコは悪戯っぽく笑ってから、屈んでシジツたちを揺する。
さっきまでは白昼夢だったのか、とナッツとテンスケは呆然……。
そして向こう側のナッセが脳裏に焼き付き、荒んでいる雰囲気が漂っている印象した。
「竜紋ナッセ……」
「ああ。こっちの妖精王ナッセとは違うでござるな」




