316話「ナッツとテンスケ、シジツ一派に加わる!?」
ナッツとテンスケがショボンと並んで正座するのを、ジュミは腕を組んで見下ろす。
偽のナッセだと自白した後である。
「……ったく紛らわしい事すんじゃねーよ!」
「「すみません……」」
もはや焼くなり煮るなりされてもおかしくない状態だ。
大柄な包帯男のシジツ、異様なハチマキで目を隠す痩せぎすの男、青い着物を着た紺色のロン毛の男、そして血気盛んな姉御っぽいジュミ。
そんな怖そうな連中に、ナッツとテンスケは震えるしかない。
「まぁ、憧れる気持ちは分からんでもない。かくいう俺も『くろうに刀心伝』のラスボスに憧れて、このカッコだからな。似てないと自分では思うが」
シジツは自分を親指で指す。
「え? あなたも?? じゃあそっちの心眼的な男も!?」
「いや……これは単に呪術のヤツの……」
「そっちかぞ……」
「目隠し、猫背にオールバックキメてたから、てっきり……」
「いやいや、ハチマキに心眼描いたり、亀の甲羅を背負って短槍持ってたりとかしてないぞよ」
ギョヌはそう否定したが、現在はまだ二〇一〇年である。
呪術は二〇一八年から始まった未来の漫画。一体どうやって知った……?
「ちぇ……本物じゃなけりゃ意味ねーな。本物はどこに行ったんだよ?」
「オレたちもナッセと会いたくて来てたんですが、夕夏家へ帰郷したらしくてゴールデンウィーク中には帰らないそうです」
「うんうん」
バツが悪そうな顔のジュミに、ナッツとテンスケが行方を教えた。
シジツは「ふむ」と頷く。
「……逆に言えば、ゴールデンウィークさえ終われば大阪に戻っているって事か」
「ふむ、そのようだな」
ギョヌも相槌を打つ。
「なんだそりゃー!? せっかく大阪まで来たっていうのにー!!」
ジュミは不満げに叫ぶ。
本当はシジツが大阪を制覇する名目で来ていたが、ジュミとしては最強の創作士であるナッセが目当てのようだった。
ギョヌは友人シジツに付き合ってあげていて、セコは友人ジュミに付き合ってあげている状態だ。
そんなセコは呆れながら一息。
「だったらさ、あの“鏡面世界”へ入ってナッセのいるところまで行けば?」
「知ってて、それ言う?」
ジュミは苦い顔で振り返る。
「“鏡面世界”……?」
ナッツとテンスケは聞き慣れぬ単語が気になった。
シジツたちは一斉に振り返る。
「ん? 知らなかったか?」
ナッツとテンスケは首を振る。
シジツがギョヌに振りむくと、肩を竦められる。
「ふと踏み入れると、鏡のようにそっくりの現実世界の形をしている異世界。名前の通り、全てが鏡のように磨かれたようなツルツルの材質。そこでは時間も距離も曖昧になる」
「うむ。しかるべき順路を通れば電車に乗らずとも距離を飛んで目的地にたどり着ける」
「あたしたちはそーやって大阪に来たんだよ」
ジュミが両手を腰につけて言い、セコはウンウン頷く。
「……例の“洞窟”ではないのか? でござる?」
「あっちも異世界に繋がってるとか聞いてるぞ」
しかしシジツは首を振って「あれとは違う」と否定。
「いつから現れたのか知んねーけど、裏の世界ができてて距離を飛べる裏技みたいなのができた。知ってるヤツはそれを使ってるらしいけどね」
便利な事を言っている割にジュミの顔は神妙だった。
「だが……誤ると二度と帰ってこれない。行方不明が多い原因がこれに入る」
「なんと……!?」
「そんな事が!?」
シジツの言葉に、ナッツとテンスケは思わず背筋を伸ばす。
ジュミも深刻そうな顔をしてくる。
「飛ぶ距離が遠ければ遠いほど、帰ってこれなくなるリスクも増える。一体どんな次元空間なのか、誰も分からないままだからね。創作士センターから調査団が何度か派遣されたみたいだが、未だ謎が多い」
「……だからか!」
セコに苦言するみたいな事になってたのは……。
リスクさえなければ、誰でも好きなところへワープできるみたいな事ができる。
某漫画で言う『どこでもドア』のようにな。
「ついでといっちゃなんだが、一緒に見に行くか?」
シジツたちに誘われて、気になっていたナッツとテンスケは頷いた。コクッ!
昼はシジツ一派と一緒に喫茶店で飯を食い、難破、天王寺などを巡って楽しんだ後、夕方頃に電車に乗ってゴーストタウンとなっている鶴橋の商店街へ向かった。
着く頃には、すっかり暗くなってて夜だぞ。
老朽化が目立ち、草が伸び放題になってたりする、人気のない地域だ。
元は賑わっていたらしいのだが、行方不明が多くなったりエンカウント現象があったりで、過疎っていって一人もいなくなったという町だ。
「不気味に静かでござるな……」
「こういうゴーストタウンは全国各地で増えてきているらしいと聞いたぞ」
テンスケが怯んでいるのを見て、ナッツはそう付け足した。
現在、世界規模で人口が減っていく傾向にある。カルマホーン伸ばして魔界オンラインへログインしたり、エンカウントしてモンスターに殺されたり、はたまた他の原因などで減ってるらしいとの事。
「……そしてこの“鏡面世界”も原因に入っているかもしれない」
シジツが指差す先に、商店街の遠くまで届く奥行……。どこか“おかしい”と分かる。
緊張してかナッツとテンスケは息を飲む。
コオオオオオオ……!
「よーく見な。鏡のようになってるだろ?」
「「え?」」
ある地点を境に、反対側まで景色が反転して見える。
後ろへ振り返ると同じ景色が見えている。交互に見渡せば、まるで反転しているかのように見えるのだ。
「そっちの空を見てみな」
ギョヌに指差されて、目で追うと空に月が五つも浮かんでいるではないか?
後ろへ振り返ると「無い!?」と気づいた。
そう、鏡合わせのようになっているのに向こう片方だけに浮かんでいるのだ。
「なんだ……!? あの複数の月はっ…………!?」
「ただの月じゃないぞ……??」
「ああ。あの衛星を見るに“ミランダ”“アリエル”“ウンブリエル”“チタニア”“オベロン”とそっくりだ。つまり“鏡面世界”とは“天王星”なのかと……」
『天王星』
太陽系第七惑星であり、三番目に大きな惑星と知られている。
薄らリングを備えているらしいガス惑星。そして五つの衛星を有する。
「なんで、向こうの世界が天王星でござる!?」
「あたしらもよー分からん」
「だな。気付いたらこうなったって話だよ」
テンスケが驚き戸惑い、ジュミとセコがそう付け足す。
そう、本来天王星とは地球から二六億キロメートルほど離れていて、肉眼でも見るのさえ難しい。
そして五つの衛星は地球からは見えないはずだ。
「これが“鏡面世界”の一番はっきりと分かる特徴だ。空に天王星の五大衛星が見える」
ナッツとテンスケは驚き切羽詰った顔で「なん……だと……!?」と口走った。




