315話「一触即発!? シジツ一派とテンスケ&ナッツ」
この死々王シジツ、最大のピンチに陥る……!
「なぜっ!? ナッセがここにッ……!?」
間違いなく銀髪でクリーム色のマフラー。青いパーカー。なぜかメガネで出っ歯だが、間違いなくナッセの特徴と一致する。
サムライみたいな風貌の短身痩躯はきっと知り合いか何かだろう。
マズい……。
「うむ、なんか印象が違うが……。実物などそんなものだろうな」
ギョヌはナッセっぽい男を見て本人だと確信した。見えてるのか?
セコとジュミはニヤニヤして「せっかく出会ったし、お望み通り行こうか」と焚きつけてくる。
シジツは頬に汗を流し「うぬ……」と呻く。
ナッセの雷名は聞いただけではなく、様々な活躍をモニターでも見てきた。
普段は消極的な性格だが、いざとなれば勇猛になって流星を思わせる剣技を繰り出す最強の剣士。
しかも妖精王に変身したり、三大奥義を繰り出したりと、強キャラ満載。
例えドラゴンの力を宿したジュミですら敵わないだろう。
最近じゃ『仮想対戦・明治魔導聖域』で連覇優勝校を破って優勝し、インドの四首領ダウートを倒すのに一役を買った。
こんなん敵うわけないだろう!
「ひえ……!」
そして城山ナッツも、強そうな大柄な男にビビっている。
夜の都会を散策してたら、ヤバそうな不良グループに出くわしたようなもんで震え上がるしかない。
トゲトゲ金棒を肩に抱えた大男など怖い要素しかない。
「待つでござる。同じ創作士として無益な争いは望まぬでござるよ」
なんと所野テンスケがキリッと掌を差し出して訴えかける。
本当は内心ビビっているが、憧れた漫画の主人公なら同じ事をすると思っての行動だった。
これこそ不殺の信念!
それでもナッツにとってはありがたい助け舟だった。ホッとした。
「こ……こんばんは……。ついさきほどエンカウントしてな、別に争う気はないぞ」
シジツは金棒をブッキーに戻してサッと懐に入れた。
セコとジュミはジト目で白けていた。ギョヌは「うむ」と頷く。
「それならいい」
「ま、まぁ……ご苦労だったなぞ……」
テンスケはキリッとした顔を緩め、ナッツは引き攣りながら労う。
二人とも内心安堵していた。
見た目に反して大男が穏やかな感じで良かった……。
「あんたねぇ! せっかくナッセと会ったんだからさぁ!! やらな……むぐっ」
しびれを切らしたジュミが食ってかかろうとするとシジツが回り込んで口を塞ぐ。
本当なら血気盛んなジュミとしては、邪魔されるのもムカつくから吹き飛ばしてやらァって感じだが火照ってしまって体が思ったように動けない。
彼女にとってシジツは大柄で筋肉がたくましく顔立ちも整っていて、戦闘力ではほぼ自分と互角。
彼と出会うまでやさぐれていたのだ。
「ぷぱあっ! 窒息死させんのかよっ!!」
「悪い……!!」
大きく逞しい手を跳ね除けて、頬を赤らめたジュミはシジツに怒鳴る。
ドクンドクン高揚する体を抑えながらも「もぅ……急はダメだよ……」と横目になって萎びていく。
シジツは「ああ。スマン」と後ろへ一歩退く。
セコもギョヌも「…………」と沈黙し、ジュミの意外な恋心を察した。
「さて……ナッセ」
ジュミは気を紛らわそうとナッセへ振り返ると、いなくなっていた。
ヒュウウウ……、と虚しい風が吹いた。
「ああ~~~~ッ!!! 一度はやり合いたかったのにいいいいッ!!!」
ジュミは慌てて見渡すも影もなにも見えない。
「ゴールデンウィークなのにナッセが大阪にいたのは意外だったが……」
「うむ、しかし……ナッセといえばヤマミが一緒にいるのだが、いなかったな」
「一日中一緒にいるわけでもなかろう。焼肉食いにいくぞ」
セコはジト目で「つまんなーい」と吐き捨てる。
しかしジュミは初めてシジツの大きな手に触れられて、その温もりを味わったので満更ではない様子……。
シジツは肝を冷やしたのか、気分は穏やかではなかった。ドギマギドギマギ……。
無口のギョヌは内心「一体何をしに来たのだろうか?」と自問自答だった。
こうしてこの場を離れた。
ホテル前で、ナッツとテンスケがハァハァ息を切らしながら壁に手をつけて俯いていた。
「やばかったぞ……。オレをナッセと思ってケンカ売ってきそうだったぞ……」
「あの色っぽい女でござるな……」
ジュミとシジツが変な雰囲気になっている隙に逃げ切れたが、肝を冷やしたのは間違いない。
たまたま恋絡みになってくれなかったら、と思うと怖い。
「……アイツがナッセのコスプレをヤメた気持ちが分かるよ」
「ああ。ロジロウか」
「うん……」
トボトボとホテルに入っていって、テンスケの一室でくつろぐ。
夜景が見渡せる大窓前のイスに座って二人は「はぁ~~~~……」と深い溜息をついた。
ナッツは夜景を遠い目で見やる。
「憧れで英雄のコスプレしたのは安易だったかな……?」
「ナッツ……」
「ああ。オレの名前も似てるんだよな」
「そうか。偽名ではなくて本名だったのでござるか。今更だが」
「学院に登録してる時点で本名なのは当たり前だろ…………」
「それもそうか」
城山ナッツ……、城路ナッセと名前が非常に似ている。
当時は似てる事に喜んでコスプレして、ナッセになったつもりで通学を繰り返していた。
光の剣を生成する為の刻印を張り付けたりして能力を限りなく近づけた。
そんな気分だけでも英雄になったつもりで満たされていた。
「ジャキガン学院はコスプレが許されているところでござる」
「どこの創作士学院もそんな感じだぞ……」
「そっか。確かに大会でも変わった服を着てる選手多かったでござるな」
「そうそう」
ビール缶を空けて二人はグイッと飲む。
ダンと空き缶をテーブルに置く。
「ナッセはヤメようかなと思う」
「そうか……」
「さっきみたいに勘違いされてボコられたら、と思うと怖いだろ?」
「まぁ……、その気持ちは分かる……でござる」
「今更語尾付けなくたっていいぞ?」
そう言われ、テンスケも俯く。
自分も憧れた漫画の主人公のコスプレしてるだけと分かってる。
ただ外見を似せただけで、実力も信念も備わるとは限らない。
「ナッツもそうかもしれないが、拙者は憧れた漫画の主人公を再現したかったんだ。あの強さを、貫き通す信念を、現実でも適うと思ってな」
「分かるよ。オレもナッセと同じになりたかったんだ」
「だよね……」
イスの背もたれに背中をあずけてギシッと軋む。
「二年間学院で勉強してたのになぁ……」
「ああ」
「それなりに強くなった実感はあるが、それだけだもんなぁ……」
「確かにな……。でもナッセは一年生の内に英雄になったでござるか?」
「それな。一体何が必要なのかぞ?」
「それか、元々強かったかもしれぬでござるよ」
「ありそうだなぞ……」
そんな風にマジトークを繰り返し、酔いも手伝ってか睡魔が強くなっていく。
朧げながら夢が浮かび上がる……。
ナッツが本物のナッセとなって数多の技を繰り出して敵を無双し、テンスケは『くろうに刀心伝』の主人公になってカッコよい技を繰り出して悪を駆逐していく。
ぐがー! すかー! ぐおおおおおお……!
その翌日、スッキリしたテンスケとナッツは「よし、大阪を旅行していくか!」と意気投合して部屋を出た。
同時に隣の部屋からもシジツ、ギョヌ、セコ、ジュミが出てきた。
互いに素っ頓狂な顔を見合わせてしまう。
「「「「あっっ!?」」」」
まさか隣の更に隣にシジツたちが泊まっているとは思わず「ぎょえええええ~~っ!!!」と揃って絶叫してしまったぞ。
その大響音はホテルをグニャグニャ変形させるほどだ。




