312話「浪人テンスケ ~平成浪漫譚の始まり……?」
「ここが大阪でござるか……?」
新幹線から降りた一人の青年。短身痩躯。左頬に十字の傷。赤く染まったポニーテール。
しかし「ああッ!!」と後ろから叫び声が聞こえると、バシャンとバケツの水が青年を覆った。
すると染料が流されて金髪に戻ってしまう。
「大丈夫か!?」
「うお……? 濡れたでござる」
素っ頓狂に振り向く青年。純真な丸い瞳。左頬からペロンと十字傷シールが剥がれてしまう。
「う、おわたた!! 傷シールがっ!?」
「ごめん! 清掃してて、つい……」
「うん、まぁ……。仕方ないでござるよ。拙者は浪人テンスケにござるから」
にっこりと優しい笑顔を向けるが、こめかみに怒りマークが浮かんでいた。
「浪人さん。すみませんね~」
「いやいや。浪人とは二つ名で、苗字は所野。所野テンスケにござる」
「ふふっ。面白い方ですね~。では……」
「御仁もお気を付けられよ」
てめ~~~~!! なにするんじゃあ!! ボケナスッ!!
せっかくの傷シールが台無しじゃねーかよ!!
あと、せっかく赤く染めた髪が元に戻ってしまったじゃねーか!!
心の内に怒りが渦巻くも、憧れた漫画のキャラになりきる為に微笑みに終始する。
ダンジョンめいた大阪駅をやっと出ると、人通りが多いのにも驚く。
東京も多かったが、それにも負けず多いでござるな。
「しかし拙者は気の向くままに流れるでござる」
青い着物に白い袴。左腰に一本の刀を差している。その柄尻に手を置く。
ゆるりと歩き出す。
右手に持った紙切れを見ながら、アニマンガー学院へ向かっていく。
あの大魔王をも倒したと言われる英雄ナッセへ会いにいく為に……。
気の向くままに流れる浪人ぶっておきながら、実はゴールデンウィークを利用して目的を目指していたぞ。
人々が多く、迷うほどの入り組んだ都市。
テンスケ自身も戸惑いつつもキョロキョロ見渡しながら地図を何度も確認して、足を進ませていた。
すると地面から黒い点がポチャンと発生し、それは黒い円となって広がっていく。
「エンカウントでござる!」
緊迫しながら左手で鞘の笄部分を掴み、キンッと鍔を親指で押し上げる。
大阪駅付近ではいつものスライムやクミーンが複数出現してくる。
初めて見るテンスケにとっては「東京のとは違うでござるな……」と、身を屈めて鋭い目を見せて構える。
「昇龍秘剣流……!」
スライムとクミーンが数十匹、こちらへ襲いかかってくるに対し、テンスケは地を蹴った。
神速によって自身をすら消してしまう。シュオンッ!
「龍爪迅ッ!!」
モンスターどもを通り過ぎ、フッと姿を現すテンスケ。足元から煙が流れる。
チンと鞘に刀を納刀すると、モンスターどもは真っ二つに裂かれてボシュンと霧散していった。
「いつかは逆刃刀を買うつもりなので、しばしゴメンにござる」
キリッとテンスケは後ろを見やるが、セリフは言い訳っぽいぞ。
どこを探しても売っていないのでオーダーメイドするしかないけど、きっと高いんだろうなとか頭を駆け巡ってたりした。
というか刀の斬れ具合からして、こっちの方が攻撃力高いから捨てがたいかなとか迷ったりする。
「拙者は不殺を信念とする浪人……。死ぬまで貫き通すでござるよ」
優しく微笑むが、モンスターを斬って捨てていたので全く説得力がない……。
ようやくついたアニマンガー学院。
テンスケは見上げて「ジャキガン学院と比べれば、やや小さいでござるな」と呟く。
これでも『仮想対戦・明治魔導聖域』を優勝した学院なのだ。
テンスケは鋭い双眸を見せた。
「拙者は不殺主義ゆえ参加はしなかったが、この目でしかと一回戦を観戦してでござる」
不殺主義とは言ったが、普通に補欠で参加できず観戦するしかなかった。
しかし、あのナッセがいる学院だったので刮目していた。
無敵と思われるジャキガン学院一軍メンバーを相手に初っ端から三大奥義を披露したり、互角に競り合ったりして、判定勝ちに持ち込めた。
さすがは大魔王を倒した英雄なのだと、テンスケは感激してしまった。
銀髪のチビなのにキリッとしてて、鋭い剣技に加え卓越した体術を繰り出す男。
中性的な顔立ちで妖精王にも変身できる神秘的な男。
美しくも苛烈な創作士だ。
「ん? 城路ナッセさまですか? 今日は通学してません。つかゴールデンウィークですよ?」
ちっちゃな妖精の受付嬢がカウンターの上でゆっくりしていたようだ。
カウンターサインの名札には『受付嬢・輝乃ミサカ』と書かれている。
アニマンガー学院出入り口のエントランスで来客者への応対・案内をやるのが主な仕事だ。
彼女はこう見えても上位生命体。
そしていざという時の防衛もこなす。これ後付けキャラだがな。メタァ!
「あ、いえね……。住んでる場所はどこかなと……」
「ナッセさまの友達ですか?」
「はい。遠いので携帯でやり取りしてたんですが、ぜひ会いたいと思って大阪に来ました」
「ああ。そうでしたか……。では」
……ウソつきました。妖精さん、ごめん。
こうでもしないと怪しまれて教えてくれないかもしれないしな、でござる。
マンションが見えて、テンスケはドキドキと緊張して心音が高鳴っていく。
ついに英雄ナッセに会えるのだ。
しかし入り込むなり、エントランスの受付にいたオバサンは肩を竦めた。
「ああ、城路ナッセは出かけたよ。夕夏家へ帰郷したって言ってたかね」
「そんな……」
テンスケは愕然と膝をつく。
せっかく二万ぶち込んで大阪まで新幹線でやってきたのに、不在だなんて最悪だ。
つか、ゴールデンウィークなんだから旅行とか帰郷とかするよな、と自分で納得する。
そこまで考えに至らなかった自分が恨めしい……。
前話の通り、ナッセとヤマミは四首領の会合に呼ばれているのだ。
仕方なく空いているホテルでチェックインを済ませ、一室へ入り込んだ。
フカフカなベッドへ腰掛けて「はあ~~~~」と深い溜息。
ゴロンと仰向けに倒れる。
「ちぇ……、色々教えてもらいたかったのに~~……」
ナッセが繰り出す技も、憧れた少年漫画の技に似通っていた。
本人も参考にしたんだろうと思うが威力はケタ違いに強く、最強のマジンガやソージを相手に戦えるほどだった。
剣戟の一撃が鋭くて重く、カッコいい技を繰り出す。まさに少年漫画の主人公そのものだ。
「流星進撃だっけ? どうやったら、あんな重い連撃放てるんだろう?」
背景に天の川が映って見えて、同時かと思うほどの数十発の剣戟を撃ってくる。
あれこそ『くろうに刀心伝』の主人公が放つ『天龍秘剣流・九龍閃斬』に近いレベルを再現している。
あんな小柄なチビなのに、巨漢が棍棒で叩くみたいな重い攻撃でラッシュとか、超人の域だ。
「三大奥義も捨てがたいが、やっぱり流星進撃のコツ知りてぇ!!!」
足をバタバタさせて悶える。
あとがき
番外編の『ナッセが貴族転生し、婚約破棄されていろいろ面倒になってきたのだが!? 』で名前だけ出ていたキャラがついに登場しましたw
5章『世界最大ダンジョン編』でカイガンの登場に伴って、ナッセがテンスケのフリをしつつ誘導尋問で設定を聞いてたやつねw
所野テンスケ。ジャキガン学院の生徒であり、抜刀斎コスプレキャラ。
カイガンは名前から「トコロテン抜刀斎」と揶揄していたそうです。
少年漫画のとある主人公に憧れてコスプレしたものの、強さが伴わずレギュラーになれず出番がなかったのです。
なのでナッセとは面識がありません。




