303話「イキった一年生に目をつけられたぞ!?」
授業が終わり、オレはヤマミと一緒に学院を出た。
「オレたち、もう二年生なんだよな」
「そうね」
「……また大事件とか起きなけりゃいいな。そのまま卒業して異世界へ行きたいし」
インドの四首領ダウートみたいな大事件みてーなのは勘弁して欲しいぞ。
あれ、マジで死ぬかと思ったし……。
「待って!!」
振り向くと、切羽詰まった様子の少女……。
ピンク髪で前髪が切り揃えられたロングヘアー。しかも猫耳と尻尾があって可愛らしい女の獣人だぞ。
訝しげにヤマミは目を細める。
「誰?」
「あ! 申し遅れました……。私は一年生の玉緒ミャコです。クラスは弓兵です」
緊張からか、ぴんと片耳がはねる。可愛い。
「あの城路ナッセさんですよね……!」
「え? ああ……? そうだが??」
「それと夕夏ヤマミさん……」
「ええ。ナッセの彼氏よ」
付け入る隙などないと言わんばかりにヤマミはオレの腕に抱きつく。
心配しなくても心変わりしないんだけどなぁ。
ミャコが超絶可愛いといっても、そんな事で鞍替えなんて考えられない。
「妖精王さまなんですよね??」
「ああ、うん……」
「そう。ナッセと私ともね」
ヤマミがギュッと体を重ねて更に密着してきて、柔らかい胸ががが!
「玉緒ニコ知りませんか? 私の妹なんです」
「えっと……??」
「五年前に行方不明になって、それで……探す為に私が創作士になって、学院に入学しに来ました」
「そう」
「でもオレは……その人を知らないぞ」
なにやら切羽詰まった事情らしいが、聞いた事ないぞ。
あと、ヤマミのほおが俺のほおにくっついている。ぐりぐり密着しすぎ……。
なんか密着度がドンドン増していくぞ。
「仲いいんですね……お二人さん」
「うん……」
「当たり前よ」
さすがのミャコも後頭部に汗をたらして引いてるぞ。
だってクールな美女が冷淡な顔のまま、オレに甘えるような抱擁をしてりゃな……。
抱きしめてくる腕力はほぼ束縛レベルで強め。
「なぁんだ!」
声に振り向くと、青髪ショートの青年がズカズカ歩いてくる。
割と長身で顔立ちが整っているイケメン。着てるのは青い色調の学生服みたいな感じ。
ミャコも「あっ!」と振り向く。
「大魔王倒した男と聞いて、顔を拝んでみりゃリア充の軟派チビじゃん。こんなヤツが英雄とか世も末だね」
冷めたような目で見下してくる。
「ってか一年生……?」
「あ、うん。同じクラスメイトの清香ミキオです。クラスは遊撃士だそうです」
「アンタもさ、妹の事あちこちに聞いててウゼェよ」
「す……すみません……」
ミキオは強気な性格で、縮こまるミャコにも容赦しない。
「へへっ! ナッセが英雄なのが気に入らねぇんだろ? 正義の味方サマのクセにな」
「あんたっ!!」
あらぬ声に振り向くと、ボサボサな赤髪のイケメンがゆったりと歩んでくる。
荒んだような顔で、笑みをこぼす口に魚の骨が咥えられていた。
赤いジャンパーがダボダボで、白シャツがだらしなくズボンから漏れている。
「おう、自己紹介してやろうかね。先輩の方々もいる事だしな。俺ぁ一年生のクラスで古鏡サラクだ。槍士ってトコだ」
手に持つブッキーが槍に変化して、それを両肩に乗せて挑発気味に笑う。
ミキオもブッキーを抜き出し、ジャキーンと刀身が伸びる。
……こいつら仲が悪いのか? かなり険悪だぞ。
「リア充のナッセ先輩が羨ましいんだろ?」
「くっ!」
ミキオは震えながらキッと睨みつけていく。
「ああ! 羨ましくて何が悪い!?」
「ん?」
「さっきから見てりゃ、生徒会長みたいな美人と軟派チビがイチャイチャしてて悶々しちゃうんだよおおおっ!!」
「おいおい?」
「こいつら、きっとズッコンバッコン交尾したんだああああああっ!!!」
マジ顔でミキオがオレたちを指差して絶叫しとるぞ。
さすがのサラクもドン引き。
いや、まぁ……確かにそういう事はしてるが……。
ヤマミを見やれば頬を赤らめて火照っていて、準備オッケーな顔してる。
逃がさないようにガシッとオレの首を抱きしめ、ヤマミの唇が近づいて……。
「おおー!! やるのか!? やるのかあああっ!!」
「おー見せつけてくるか」
なぜかミキオが興奮してギンギン凝視してくる。サラクはケラケラ笑う。
「来ます!! エンカウント!」
ミャコが咄嗟にブッキーを取り出すとボウガンに変形して右手に装着される。
黒い円が地面から広がっていって、現実空間そっくりの亜空間へ転移されてしまう。
オレとヤマミはバッと離れて身構えていく。
いつものグルグルスライムとクミーンが数十匹ヌーッと現れてくる。
ナイスタイミング! 危うく公然キス魔になるところだった!
【スパイラルスライム】(スライム族)
威力値:1200
ナッセが一番最初に戦ったモンスター。一つ目で丸い口に沿った牙。見た目が怖い。群れで出てきて、獲物を取り囲んでグルグル回りながら齧り付く。かなり強い顎でサメ並。齧られると肉片持ってかれる。ピラニア以上に出会いたくない。下位種。
【クミーン】(カタツムリ族)
威力値:1400
バイク位の大きさ。殻に篭って高速回転攻撃する。最高速度は時速100km未満。下級下位種。
「いいところだったのにー! 邪魔すんなー!!」
ミキオは剣をかざし、真上に水玉の『衛星』を浮かす。
こいつ水属性の創作士!?
「ブルーポンド・レインニードル!! はっ!!」
ミキオが突き出した剣に従って、水玉は無数の水トゲを斉射。スライムやクミーンを串刺しにして霧散させていく。
同時にミキオは駆け出して、次々と剣でモンスターを切り裂いていった。
「ハッ! そんな程度かよ!」
張り合うようにサラクが槍を高速回転させてから、ブンブン軽やかに振るう。
遠い間合いに届くかのように斬撃が広がっていってモンスターを両断していく。
そして!
ガキンッ!!!
なんとミキオの剣とサラクの槍が交差し、ギリギリ鍔迫り合いになる。
それを見てオレはゲンナリな気分に陥った。
「あ────……」
一年生にコンドリオンやエガラとナガレと妙なカグイヤーンに目が行きがちだが、こいつら新入生もいるんだよな。
やはりオレたちにも負けずかなりの個性派ぞろいだなぁ。
ヤマミは目を細めて「イキってるわね」と呆れている。
「今日こそケリをつけてやるっ!! 万引さん!!」
「おうよ! クソ正義サマよ!」
モンスターを全滅させてエンカウント空間が解けようとしているのに、サラクとミキオはガンガンと得物で格闘している。
同じクラスメイトのミャコもおろおろしている。
犬猿の仲ってやつっぽいな。しかし……。
「威力値としてはサラクは約五〇〇〇……。ミキオは約三〇〇〇くらいか」
「だいたいそんなトコね」
万クラスの人が多いからマヒしていたけど、数千の創作士でもベテランクラスなんだよな。
新入生でこれくらいだと将来有望とも言える。
コンドリオンやカグイヤーンが異常なだけで、彼らの方が普通なんだよなぁ。
何か見計らってか、ミキオが剣を下げる。
「もういい。エンカウントは終わったから勝負はお預け。今度、仮想対戦センターで付き合ってやるけど?」
「おう! 今度と言わず、これからでもいいぜ? 俺ぁヒマだからよ」
「じゃあ受けて立ちますか!」
「いいねぇ。臆病者だったら見損なってたところだぜ」
「なにー!?」
売り言葉に買い言葉、挑発の応酬。二人は顔を近づけ合って睨み合う。
「「ああ!?」」
ミキオとサラクは火花を散らしながら、一緒にズカズカと仮想対戦センターの方向へ歩き去っていった。
こちらの事など蚊帳の外だなぞ……。ホッとした。
「ミャコだったっけ? ニコちゃん見かけたら言うからさ……。姿形とか特徴教えてくんねぇかな?」
「あ、はい……。ニコちゃんは……」
一応聞いたが、特徴が当てはまる人物は心当たりない。
ミャコはペコペコしてから去っていった。血気盛んな二人と違ってええ子や……。
「一年生って、ムダに元気ね……」
「全くだなぞ」
すっかり夜になって明かりが騒がしい大阪で、オレたちは腕を組んだまま歩いていく。
愛しい気持ちで顔を傾け合って和む。
そんな後ろ姿を見たコハクは満面な笑顔で「リア爆しろ!」と呟いた。




