295話「バレンタインデーの真相!」
ヤマミがエレナとサシで真剣な恋の話をした後──……。
二十一時も過ぎた夜、ナッセの部屋でヤマミがなに食わぬ顔で読書していた。
するとナッセの携帯が震え、通知音が鳴る。
待ってたかのようにヤマミが振り向く。
「エレナね」
「んん……?」
確かにエレナからメールが送られていた。
「え? 明日にデートしたい?? なんか真剣な感じだけどぞ……」
ナッセは目を丸くして、ヤマミへ振り向く。
急にエレナからデートの誘いが来たのだ。やっぱりね、とヤマミは素っ気ない顔で首を傾けた。
「こんなバレンタイン当日で誘われるとか浮気みてーだし……断r」
「構わない。付き合ってあげて」
「え……? ええ?? ヤマミ……??」
普通ならヤマミは「断りなさい!」と仏頂面で言いそうなのに、逆の答えが来るとは思わなかった。
確かにこの社会は重婚も可能だ。
しかしヤマミとしては一夫一妻のみを希望している。オレと二人きりで付き合いたいのだ。
なのに、今になってエレナのデートに付き合ってあげてとか正気を疑う。
「明日バレンタインデーだけど、エレナにとっては気持ちの整理をつけたい」
「……気持ちの整理?」
「エレナも分かってんのよ。あなたの事が好き。でも私がいる。答えは分かりきっている。それでも気持ちが感情がそれを許さない」
それを聞いてナッセは息を呑む。
ヤマミも真剣な顔をして、語ってきているのだ。
「あ、ああ……。確かに……エレナに限らず、誰かが告白しても断るつもりだが……」
「きっとエレナは……、ナッセを好きだという強い感情を押さえつけたまま生涯を過ごしたくないと思う。後悔の念だけが今後の人生に残るからね」
「なんとなく分かるが……」
確かにオレも好きだった初恋の人もいる。
今はもうフラれて後悔など何もなくなってしまっているが、もし告白しなければ同様に後悔が残り続けてたんだろうな。
「だから“最後”に付き合ってあげて」
「……分かったぞ」
エレナの気持ちを理解し、後押しするのはヤマミの友としての矜持か。
もう結果は分かりきっている。……が!
「もし、オレが心変わりしてエレナの告白を受け入れたらどうするんだ?」
「そんな浮ついた男なら、私は好きになっていない」
ヤマミも真剣な顔で返してきた。
決して揺るがぬナッセへの信じる心。それがあるからエレナのデートを承諾した。
万が一もないと彼女は分かりきっている。
それにオレだって裏切る気持ちもない。
例え、絶世の美女が誘ってきても、自分は頑なな断る。突っぱねる。
「そうか。愚問だったなぞ」
「そういう事ね」
目を細めて艶かしく笑む。
その翌朝、ヤマミが「おはよう」と部屋へ訪ねてきた。
そして手元のプレゼントを手渡ししてきた。
「おはよう。おお、バレンタインデーのチョコか。ありがと」
「ふふ」
まず、本命のチョコを朝一番に受け渡しをする。
それでオレたちは確固たるカップルとしてケジメをつけた。ナッセとヤマミは相思相愛の仲だと誇示するかのような行為である。
軽く朝飯を二人で済まし、オレは出かける準備をしていった。
「いってらっしゃい」
ヤマミは満足してか笑顔で手を振ってくる。
「……ああ。行ってくるぞ」
「ふふ」
ナッセの部屋で留守する事になった。
こうして覚悟を決めたナッセは出かけて、待ち合わせの場所でエレナと会った。
「おはよッ! ナッセッ!」
「あ、おはよう。エレナちゃん」
嬉しそうなエレナの顔だが、どこかしら真剣な気配はあった。
「……今日にデートだったか?」
「こんな日に悪いけどもッ、ヤ……」
言葉を止めたエレナに、オレは察した。
「いやいいよ。ヤマミは楽しんできて、と言ってたしな」
エレナが安堵していくのが見えた。
そうしてデートを称して付き合う事になった。映画を見たり娯楽施設でスカッとしたりしていたが、お互いに手を繋いだりはしなかった。
距離を保っているのは察していたからだ。
「次はどこにする?」
エレナが、どことなく人気のないところまで歩いて行ってから敢えて聞いた。
恐らく彼女にとって正念場となるタイミングだ。
「……はい、これッ」
案の定、勇気を振り絞ってバレンタインチョコを渡してきた。
「おお。ありがとうぞ」
エレナはしどろもどろに言葉を発してきている。
モジモジして目を泳がせる。顔が赤いのは分かる。茹で上がってる。
それだけオレの事を真剣に想っている事だろう。
「ナッセが……好きッ!!」
赤面しながらエレナは吐き出すように告白をした。
結果を分かっていながら、気持ちの整理をつけたくての一言だった。
それを断るのは心が痛む。
それでも、誤魔化したり、はぐらかしたり、嘘ついたりで有耶無耶にするワケにはいかない。
「……でも!」
覚悟を決めて発した時、エレナがピクンと竦んだのが見えた。
申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、オレはちゃんと伝えなければならない。
「ごめん!! オレには付き合っている人がいるんだ……ごめん!」
引導を渡す事になったが、ヤマミと付き合っている以上は避けられない。
それに言うほどエレナの事を恋愛面で好きにはなれなかった。
これがオレの精一杯の答えだと思う。
「ううんッ! き、気にしないでッ!! ヤマミの事が好きなの分かってて、ズルい事しちゃったッ!」
ムリして首を振って笑ってくるのを見て、いたたまれず抱きついた。
「本当に……ゴメンな……!!」
これまで我慢させてきたのだろう。
こういう行為はヤマミが許さないと思うが、それでも“最後”に慰めたかった。
最初で最後の触れ合いでエレナが納得できたらと……。
「バカバカぁ~~なんでよぉ~~!! うえええええぇえ~~~~!!!!」
エレナが泣き崩れてしまい、心が痛む響きにオレは堪えた……。
頭を撫でて宥めていく。
最初に出会ったエレナはすごいボディラインで、魅力的だった。
明るくてハキハキした性格。
出会うタイミングが違ってたら惚れていた可能性もあったかもしれない。
マンションへ神妙な顔で帰っていった。
部屋へ入るとヤマミが「おかえり」と微かに笑んでくる。
「ただいま。……スマン宥める為に抱いた。アレな行為の意味じゃなくてな」
「分かってるわ。私は気にしないわよ。わんわん泣いてたでしょう」
「ああ……」
罪悪感はあったが、話すべき事として自白した。
それにヤマミは小人で偵察だってできる。更に言うなら、なによりもオレの事を真っ直ぐに信じてくれている。
これから真っ当に付き合っていく為に取り繕う必要はない。
「オレが好きなのはヤマミだけだ」
「知ってる。私もあなたが好き」
艶かしい顔を見せたヤマミが立ち上がり、ギュッと抱きしめてきた。
温もりと胸の感触をしばし堪能していると、なだらかに唇を重ね合った。ちゅぷちゅぷ。
愛しい気持ちが高揚し続け、情欲のままにベッドへ倒れていった。
ふう……。




