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266話「親子団欒! そして将来の語らい!」

 二〇〇九年十二月二二日。


 冬休みに入ったオレたちは地元の富山県へ帰郷していた。

 そんで実家でゆっくりしてる。

 窓の景色は薄暗い雲の下で雪が降っていて「もう冬だなぁ」と情景に耽ってた。


「降ってるね」


 セーターのヤマミがそばに来た。

 オレにしか見せない柔らかい和やかな顔。美しい黒髪。見つめてくる目でドキッとさせられる。


「ああ」


 田舎真っ只中で、広大な田んぼと少しの住宅地。

 ほとんど雪をかぶってて真っ白。

 外へ出れば凍えるだろう。しかし室内は魔導エアコンのおかげで暖かい。文明の利器ありがてぇ。


 二人寄り添って景色を眺めるのも悪くない。




 ……晩は家族で囲んで焼肉鍋だぞ。


 肉、長ネギ、焼豆腐、ところてん、えのきなどの具が黒い鍋でグツグツ沸騰にまみれていた。

 卵を割って小皿に流して(はし)で黄身と白身をかき混ぜる。

 鍋から具を取って、溶きほぐした卵に入れて食べると、熱いのと冷たいのが混合してて相殺されて食べやすい。

 それに醤油が効いてて旨みも引き立たせられている。


「まだあるからね」ほほ!


 優しいお母さんは次の肉を鍋に投入。

 次男ツバサと三男ヤスシは「いえー!」とはしゃいでいる。

 すると父は(はし)を置いた。


「ニュースで見たが、まさか秋季大会を優勝だなんて驚きだぞ」

「ああ、全国は強かったよ」


 父は感慨深い顔している。


「以前は創作士(クリエイター)のような危険な道を進まず、普通に会社へ入って平穏に人生を過ごして欲しかったが……」

「悪い」

「しかしナッセにとってはつまらない生き方かな」

「ああ」


 オレは頷いた。

 元いた世界では夢も希望もなく、虚無に働いて生きるだけの人生だった。

 会社の歯車となって高経済社会を維持して高い水準の生活を送れる。それほど恵まれていたのに、なぜか心が満たされていなかった。


創作士(クリエイター)は危険って分かる。ぜいたくなのは知ってる。けど他と同じ顔して会社で淡々と働くってのも夢がないから……」

「そうか……イヤか…………」


 父は複雑な顔をしている。

 オレたちが(はし)を止めている最中で、ツバサとヤスシは焼肉を食べる競争していた。


「ナッセ、お前の夢は会社には向いていないのだな」

「ああ。異世界へ旅立ってワクワクする冒険をしたいって夢だし」

「私と一緒にね……」


 オレはヤマミと並んで夢を告げた。しばしの沈黙……。


「とは言え、父さんにはナッセを止める資格などない」

「父さん……」

「大阪の人造人間大侵攻も食い止め、四首領(ヨンドン)のヤミザキとダウート二人にも立ち向かった。秋季大会も優勝した。そんな大きくなっていくナッセを、父さんの一存では止められん」


 母はおかわりがなくなったのか空の皿を置いて、父と一緒に並んで座る。


「安全に長生きして欲しいと思って、会社で働いて欲しかったのよ」

「父さんも母さんも、そう願って育ててきたつもりだった」

「ええ……」


 オレは小さい頃から夢を語ったが、その度に父と母に否定されて不貞(ふて)(くさ)れるしかなかった。(第一部のプロローグ)

 親のくせに意地悪しているんだ、と納得いかなかった。

 ……だが、危険な道を歩んで短命で終わるより、長く生きて家族を作って幸せになって欲しいからこそだろう。


「今や誰もが創作士(クリエイター)だ。父さんも母さんもだ。安全な場所などないのだろうな」

「父さん……」


 段々と『普通の領域』が狭まっていって『空想(ファンタジー)』の世界が広がっている今、会社に勤めて安泰に人生を過ごす人は少なくなっている。


「モンスターの襲撃によって村や町が徐々になくなっていくのよ」

「え……?」


 そんな状況が……?


「ニュースでやっていたわ」

「ああ。今思うと悔やまれる。ナッセのように修行していないから、父さんは強くない。家族を守れないかもしれない」


 いつの間にか、現代はファンタジーの世界へ変わっているようだった。


「だからこそ、県内でも城壁で囲んで町を守るようになってきたからねぇ」

「ああ、そういや新しい城壁が見えてたな……」


 駅から実家まで行く道中で、大きな城壁が横切っているのが見えていた。

 射水市、高岡市、富山市は地域範囲を狭めて、それぞれ城壁で囲んで、エンカウント現象を減らしている。

 城壁で囲むと、何故かその中でエンカウントは起こらなくなる。

 制約なのか、魔除けの魔法陣なのか、原因は分からない。


「それに人口だって世界規模で大幅減少してるのよ」

「五〇億あった人口が、今では一〇億未満だ」

「そんな……」


 父と母はニュースを欠かさず見ているので情勢を把握できているようだ。

 オレたちはアニメばっか見てたけど。


「加えて『洞窟(ダンジョン)』は放置していると、増えたモンスターが外に溢れて被害が大きくなる」

「大変よねぇ……。定期的に退治しておかないといけないし……」


 洞窟(ダンジョン)と魔界オンラインシステムは魔女アリエルが設置した概念。

 一見すれば、この混乱極まる状況を起こした元凶なのだろう。


 しかし……!


「こんな世だ。逆に人間同士の戦争は絶えた」


 確かに戦争なんかしてたらモンスターに襲われて一巻の終わり。

 だから同士討ちしてないで、みんなで一緒に戦わなきゃ生き残れない。


「父さん、母さん、良くも悪くも人間は争いから逃れられない宿命。元から安全な場所はどこにもない。日本の平和ボケでオレたちは勘違いしていただけだぞ」


 父と母は互い顔を見合わせる。


「まさか息子から諭されるとはなぁ……」

「ナッセが大人になっただなんて、母さんは嬉しい限りよ」ほほ!


 オレの成長を喜んでくれた。



 アリエルの魔界オンラインは善と悪を分けて、ハッキリした闘争の形にした。

 悪人は強制ログインして、モンスターとなって日々争っている。そして地上にも上がってきて人間社会を踏み荒らしている。


 これまで裏社会などで暗躍していた悪人がモンスターに置き換わっただけ。

 以前からトラブルや悪行の比率は変わっていない。


 モンスター化した分、直接的な襲撃が多くなったくらいか。



「それでも、オレはワクワクする異世界へ行きたいんだ!」

「それを支えるのが私」


 ヤマミと並んで、この世界を切り抜けていく胸を告げた。


「悪かったな。辛気臭い話をして……」

「いや仕方ないよ。人間の人生、悩みの連続。世はいつだって人生を引っ掻き回してくる」

「……はは。だからこそこんな世で、お前は輝こうとしているのだな」

「彼女できて明るくなってきてるもんね」ほほ!


 父は柔らかく笑って「大きくなったな。ナッセ……」と認めてくれた。


 なんだかじんわり嬉しさがこみ上げてくる。

 これまで否定され続けているのが、もう終わった。ちゃんとオレを一人前と見てくれた。ようやくだ。

 晴れ晴れと心が澄み切ってスッキリ。


「これからまだ二年目があるけど、卒業したら異世界へ行くよ」

「たまには帰ってきて、その土産話を聞かせておくれ」

「楽しみね」ほほ!


 オレは口元を緩ませて「ああ!」と答える。




 ツバサとヤスシは「…………」と気まずそうにしていた。

 焼肉を食ってただけだもんなぁ……。

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