236話「如来王篇⑩ 悪循環ァ!」
ダウートの周囲は超高速で時が巻き戻っているぞ。
上空で太陽の川がアーチを描いていたが、徐々に尾を引く円の連続体になっていく。それに伴って昼と夜の点滅が表れていって遅くなっていった。
やがて時間が通常へ戻って、ダウート一人が立つ場所は『カレー・マハル』前!
砂煙が風に流れていく。
「だはははは……! これで、もう邪魔者などいないァ!」
さっきまで大勢で戦争をしていたのに、誰一人いない。
極楽浄土へまとめて送って、その大半が『ウゴゴ木』になってしまったからだ。ダウートが手にする完全の『六道石』がある限り、向こうは戻る手段を持たない。
「万が一の事もあろうから、処分しとかねェとなァ……」
ダウートは『六道石』をグシャッと握り潰して、粉をパラパラ落としていく。
六つが合体しているので、この状態で砕かれれば誰も復元はできない。
もし一欠片でも残っていれば、それを元に復活できるというのに……。
「まずは手始めに我が妻とディアルフからかァ……」
両手を左右に広げ、念じると羽衣の形をしたスーパー聖剣から光の柱が立ち上っていく。閃光が周囲へ散らばっていった。
シュ────ン、と世界の様相が形を変えていくぞ。
すると大勢のインド人が「うおおおおおおお!!」と歓喜を上げて大音響していたぞ。
いなくなったはずの部下を、いた事に改変したぞ。
そしてダウートの前に“インド人顔”の女性が柔らかい笑みを見せていた。
「あなた……!」
「おお! 我が妻ラーナか!」
「どうしたの? 嬉しそうね。ふふっ」
もう見る事が叶わなかったはずの愛しい笑顔に、ダウートはじんわり感激していく。死んだはずの妻がこうして元気で笑ってくれるのは夢のようだ。
もちろん側でディアルフが「ニカッ」と笑う。
ダウートは口元を緩ませて我が息子の頭を撫でる。
「ディアルフ! 待たせたかァ!?」
「ううん!」
ディアルフの明るい笑顔に、ダウートは心を洗われた気分を覚える。
血の繋がった本当の息子なのだから……。
コンドリオンもどこかに存在しているが、難病を抱えた孤児であって息子ではない。
ダウートにとってはもはや興味もないクズゴミ。
どこかで野垂れ死にしても気にしない。とっくに死んでるかも知れない。
「おう!! おかえり!」
「相変わらずだなマスター!」
「やるねェ……」
「黙れ」
熱いサマァツ、冷静なウェールザ、寡黙なブラァーザ、厨二病フシュールもいた。
もちろん極楽浄土にいるのとは別人。
コンドリオンと絆を繋げた記憶は存在しない。
「これで俺は────……!」
パァン!
「!!?」
突然、ディアルフの頭が爆ぜて血飛沫が舞う!
ゆっくりと横へ傾いて地面に沈んでいくのを、ダウートは見開きながら呆気に取られる!
横たわる首のない死体……。
「はーっはははははは!! 見たかぁ!!」
なんとソロモォーン王が高らかに笑いながら、岩山の上に現れたぞ!
「貴様ァ……!」
「へへ! 今度はお前の番だ!! 死ね!」
ソロモォーン王の頭からボコボコと巨大な赤いタコに膨らみ上がっていく!!
その無数の触手には数多の目玉がギョロリと蠢き出す!
タコタコタコタコタコタコタコ、と奇妙な反響音が広がっていく。
「これぞ我が誇るべき偶像化! これが全ての魔術を極めしソロモォーン王なり!!」
巨大な赤いタコは無数の触手を掲げて、数多の目を輝かせた! カカッ!
広範囲を爆裂させ、大地を大きく穿つほどに破壊が及んだ!
それに対し、ダウートは怒りを滲ませ如意棒を振るう!
「不遜なる愚者を打ちのめせ!! 如意金箍棒!!」
しかし衝撃波で逆に如意棒が手から弾かれて宙を舞う! 前と違う! 自分が弱くなっている!? 一体なぜァ!?
見開くダウートは動揺し焦るしかない!!
「ははははッ! 威力値15万3000では貧弱貧弱ゥゥゥゥゥッ!!」
気付けば妻も血塗れで横たわっていて、サマァツ、ウェールザ、ブラァーザ、フシュールも同様だ。
ダウートはその信じられない結果に憤る。
「『天網恢恢』!! そやつはいなかった事にしろァ!! そして、我が妻と我が息子は殺されていないァ~~!!」
光柱が天を衝き、周囲へ閃光が広がっていくァ!
「ダウート!! あなたはダメな男ね!」
なんと豹変したかのような妻が傲慢な顔で罵ってくる。
ディアルフはやせ細っていて虐待の痕が窺えた。
「ラーナァ! 何をしているァ!!!」
「どうもこうも、私たちをほっぽといて他の惑星行ってたんでしょ! さぞかし楽しかったでしょうねぇ?」
「パパ……助けて……」
すると妻は癇癪を起こしてディアルフを張り倒す。
なおも響く叩く音と悲痛な泣き叫びにダウートは冷や汗をかいて呆気に取られる。
ディアルフは底抜けに明るくて笑いが絶えないような男だ。こんなんじゃない!
「ち、違うァ!! そんなものは望んでないァァァァァ!!」
焦ったダウートは再びスーパー聖剣を発動させて、光の柱を生み出す!
今度こそ理想通りに改変をしていく!
優しい妻、明るい息子、そして強い自分!!
「……殺してやるッ!! 殺してやるゥゥゥッ!!!」
なんと殺気立ったコンドリオンが現れて、恨みづらみと睨み据える両眼が悍ましい!
ダウートは背筋に怖気が走ってしまう。ゾクッ!
突然万覇羅弐を発動して“異次元”攻撃を繰り出して妻と息子をボコボコに殺ってしまう!
血飛沫が舞い、グシャグシャな死体が血塗れで転がる!
「この“悪鬼”が何するァァァ!!」
「こんな地獄のようなインドに変えたお前を許さない!! 許さなァァァァァッ!!!」
ド ン!
「!!!」
不治の病気に冒されて口元から血を零しながら、ダウートへの強い恨みを晴らさんと襲いかかってくるァ!!
皮肉にも本物の“悪鬼”として!
「来るなァァァァァ──────ッッ!!!」
再び『天網恢恢』を発動して全てを真っ白に塗り替えた。
……しかし、どんな都合よい理想の世界に整えても、何かしら不都合なものがブチ壊してくる。それは延々と繰り返されていった。
特に息子じゃなくなったコンドリオンが“悪鬼”として出てくる事が多かった。
苦悩するダウートの思惑とは裏腹に、改変ループは彼を嘲るかのように翻弄し続ける。
「何故だァ!! 何故ァ!! そんなもの望んでおらなァァァ~~~~!!!」
ダウートは悲痛な顔で叫び続けるしかなかった……!




