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218話「大決戦篇㉙ 加速ァ!」

 デリーのクトゥブ・ミナール!

 天高く聳える約七〇メートルほどの塔は世界一高いミナレットで世界遺産になっている。

 そこでクリシュナを前に面の男が待ち構えていた。


 円を書いただけの妙な仮面に黒いフードで全身を覆っている。

 この男こそ八武衆(アート・ディコイト)義征弍無(ギセイニナ)フールニィ・ダマチハラ!

 ド  ンッ!


「この戦いはただの前座だ。……これから迎えるメインデッシュのな」

「それはどういう事だ?」


 落ち着いた物腰のクリシュナは歩み寄り、フールニィは何のアクションも起こさず待っているのみ。


「うう……、場違い感パネェ……」


 カイガンは震える。チラッとフールニィに一瞥(いちべつ)され、ビクッと竦む。

 しかし視線を外されてホッとする。

 クリシュナもカイガンを見やったが気にせず視線をフールニィに戻す。


「時計は持っているか?」

「ああ。懐中時計はな」

「見てみろ」


 クリシュナは懐中時計を手に、パチンとフタを開く。

 秒針がグルグルグルグルグル回り続けていた。一分が一秒で過ぎていくので分針は秒針並みに時を刻んでいる。


「これは……、一時間が一分ぐらいに!?」


 驚くべき速さだ。これだと一日は二十四分で終わる事になる。

 心なしか太陽が早く沈もうとしているようにも……?


「フッ! もっと速くなるぞ?」

「時の加速……!? 一体何の為に!?」

「ダウートさまから話を聞いていなかったか?」

「『解脱(モークシャ)』……!」

「そうだ」


 フールニィは何を思ったか、その辺の台に座り込む。戦う意思すら見せない。


「世界はもう終わる。今更何をしようとも無意味。お前が今『宮殿境門(マハル・ドワール)』を破壊しようとも俺は止めんがな」

「そうか」


 アヌビスっぽい巨大な黒い犬の偶像化(アイドラ)をズオオッと生み出し、黒い後光を背中から展開。

 ビビビビッと光線を放ち『宮殿境門(マハル・ドワール)』を全壊させて粉々に吹き飛ばす。


 バゴガァァン!!


「すぐこれか……」


 フールニィは別に動じる事もなく、落ち着いたままだ。


「って、おいおい! 守る役目してんじゃないのかよー!?」


 思わずカイガンが突っ込む。フールニィは振り向いて「建前上はな」と一言。

 クリシュナは偶像化(アイドラ)を引っ込めていく。

 そうしている間に数分で二時間、三時間が過ぎ去り、沈む太陽で空を橙に染め始めていた。


「午後四時を過ぎた辺りか……」

「って待て待て、時が速くなってくるんならよォ~、どこまで未来へいくんだよ!? ドラ○もんみたいな、未来の道具でも手に入れるつもりなのかよ!?」


 フールニィは面をしているので表情は分からないが、目で笑ってるように見えた。


「それは随分(ずいぶん)気楽な夢だな。もうそんな次元じゃないがな」

「次元じゃないだとー!? ちゃんと説明しろよ!!」

「……『六道石(りくドォせき)』は時空間に影響する奇跡Aランクの秘宝。それを『時計塔(ガリータウア)』を媒介(ばいかい)にする事で、世界全体に影響を及ぼしている。その結果、際限なく時は加速していく」

 ド ン!

「!!!」


 クリシュナは空を見上げる。

 雲がシュワシュワ変形したり分解したりと目に見える速さで流れていく。


「際限なく加速させてどうすんだよっ!?」

「……『如来王(ごときおう)』は世界の始まりから終わりまで非常に長い年月を突き進んで、育んだ魂を神格化(ナーンジャモ)した究極の存在。()()はな」

「だぁ~~!! 難しい話してんじゃねーぞ!!」


 フールニィは「凡人には理解もできぬか」と嘲笑っている。


「要するに、気の遠くなる年月をすっ飛ばして『如来王(ごときおう)』へムリヤリたどり着こうとしている。みんなでな」

「ええっ!?」


 クリシュナの言葉にカイガンは驚き振り向く。


「ご名答。世界は終わるが代わりに究極の存在である『如来王(ごときおう)』は、自ら望む極楽浄土を生み出せるのだ。世界の始まりと終わりを魂で体験する事によってな」

「そうなった試しがあるのか? そんな人が伝えたのか?」


 フールニィはニィと笑う。


「……幾千万年前もの大昔、実際に『そうなった人』が戻ってきて、今世まで伝えたのが我ら木星人の先祖さまだからな」

「マジかよっ!? 木星人ってそういうもんかよっ!?」


 木星ではそういう歴史があるらしいぞ。

 六つある『六道石(りくドォせき)』を集めた人が『解脱(モークシャ)』し、なんか悟って戻ってきて現世に伝えてきた。

 だから今の木星があり、そしてインド人がいるのだという。

 あまりにも大昔すぎて伝承がちょっと違ってるのかもしれない。


「安心するがいい。みんな目撃者となるんだからな」

「『時計塔(ガリータウア)』によってみんなを神格化(ナーンジャモ)させると?」

「そうだ。誰も苦労もせず『如来王(ごときおう)』になれるのだ。光栄だろう?」

「現在の『六道石(りくドォせき)』の持ち主はダウート……」


 本来なら、『六道石(りくドォせき)』を六つ揃えたダウート()()世界の終わりまですっ飛んで行って『如来王(ごときおう)』に神格化(ナーンジャモ)する事も可能。


「だが、なぜ()()()()()()()()()?」

「いーじゃん! 俺もみんなも神様になるんだろ?? みんな自分で好きに極楽浄土作れるなら願ったりだぜ!」

「フッ……」


 クリシュナは()せない、と心に引っかかる疑問を抱いていた。

 それならば『寿(ジュ)()()(イン)()』で地球人をインド人にしたり、『怪異の種(ヤクシャ・ビジ)』を世界に流布しようとしたりする理由が分からなくなる。

 そんな事せず、ただ木星の星獣をミニ木星にして、六道輪廻を繋げて『六道石(りくドォせき)』を集めるだけにすれば済む話だ。


「全世界の人をインド人にしたのは、邪魔されないようにする為か?」

「まぁ間違ってないがな」


 それ以上は答えなさそう。

 何か隠している。みんなを『如来王(ごときおう)』にして一緒に自分の極楽浄土を作りましょう、って楽観的な目的じゃないようにも見える。


「もう気が済んだだろう? 『宮殿境門(マハル・ドワール)』を好きに破壊させたんだ」

「…………勝ち確定だからか?」

「フッ!」


 わざわざ答えずとも、その顔に表れていた。


 太陽は地平線へ沈み、橙は紫に、そしてやがては星々が煌く夜空へ染まっていく。

 クリシュナは得体の知れない違和感と不審感に眉を潜める。

 もはやダウートの思い通りに世界は回り始めていくしかない。どうしようもない。


「果たして鬼が出るか蛇が出るか……? ()()()()()()()()()


 だからこそアクトの計画に乗った。そして鍵はアバターの対象になったナッセたちにある。

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