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216話「大決戦篇㉗ 虚像ァ!」

 消えゆくリョーコの命……。

 意識が深い闇へ沈むのを、もう止められない。

 冷えていく体。六感が薄れていく。なんの感情も沸き立たない。


 これが死────……。


「ごめん」


 ただただ暗闇でしかない意識の奈落でリョーコは沈みながら淡々とした一言。

 冷えていく心でそれが精一杯。

 本来なら、どうしようもない力の差で負けて悔しいあまりに涙を流したくなるほどの感情であふれていただろう。あるいは負けてたまるか、死んでたまるか、と必死に(あらが)う意志をみせていたかもしれない。


「……また死んだ」


 そう、これは並行世界(パラレルワールド)での話。

 ダンジョンの最深部でリッチと戦っている時にナッセをかばって死んだ。


 今回もまた同じ結果になっちゃった……。

 でも安心した。

 なぜなら……、ナッセと一緒に長く歩んでいけたから。


 その時に思い返される。ナッセが真摯な目で力一杯こう告げてきた。


「目標は違えど、同じ『大きな夢』を目指す同志(どうし)だからだぞ!!」


 一番最初の印象は子供みたいなカンジだったけど、意外に戦闘力と意志が強いのには驚かされた。

 それに馬鹿にされたあたしの夢を認めてくれた。

 足手まといの頃でも、一緒に歩んでくれる優しさを持っていた。


 そして斧女子(オノガール)アイドルとして夢を叶える事ができた。本当に嬉しかった。



 …………でもね。


 なんやかんやあって、ずっと言えなかった事があった。

 胸につっかえる感じがずっとあった。

 正直に言えず、後悔がずっと尾を引いている。


 もう死んでしまったから、もう言うね。


 ホントはね、あなたが好き。好きだった……。


 ヤマミに取られたカンジで、行き遅れみたいな後味の悪さが残ったままだけど、好きだったんだよ。


 ……でも言えなかった。遅れてしまった。



「やっぱりナッセをチビだって思ってたからかな……」


 ちょっと背が高ければ、と変に願望を抱いていた。

 もう年が年だし、もう伸びないだろうなと高を括っていた。


 だからバツが当たったのかな…………。


「ごめん」


 違う意味での謝罪。

 されど、きっとナッセは「気にすんなよ」と言ってくれるだろう。

 邪険に「チビで悪かったなぞ」と吐き捨てて、それで不満を終わらせてくれたかもしれない。


 彼はあたしにはもったいないぐらいの人。


 それにショックを受けたものの、同じ妖精王になれるヤマミと一緒ならナッセも大丈夫だろう。

 二人なら、これからずっとやっていける。


 あたしがいなくても────…………。



「それでいいのかよ!」

「え?」


 闇の最中で沈み続けているリョーコは、目の前の光景が信じられなかった。

 困惑した顔のナッセが腕を組んでいる。

 幻か、現か、どちらにしても凍てついた心が熱を帯びるほど。


「オレは気にすんぞ。リョーコ死んじゃったらさ」


 本物でも言いそうな態度と言葉。


「……オレは内気だから言えなかったけど、リョーコは好きだぞ」

「え?」


 熱を帯びた心に感情が蘇る。

 ちょっと待って、と混乱する感情が自身で整理しようとあわてふためく。


「胸が大きいからじゃなくて、オレにも遠慮なく話しかけてくれたり構ってくれたり、勘違いしそうな絡みをしてくる。内心付き合いたいなーって願望もあった」

「えぇ……」

「おい! 引くなよ! 勇気出して言ってるのに!」


 思わずプッと吹き出す。

 ああ、温かい感情。いつもの通りのナッセだ。幻でも本物みたい。

 (なご)んで笑っちゃう。


「オレはお前の中で生まれたニセモンだけどな、惜しいくらい良くできているぞ」

「ナッセ……」


 もう諦めて奥底にしまった恋する心。

 愛おしくてたまらない感情が強くなってくる。本当はすぐ抱きつきたい。甘酸っぱいデートもしたい。


「その心だよ。オレを好きなその感情が、虚像(オレ)を作り出したんだ」

「あなたはあたしの……」


 ナッセは笑んで頷く。


「本物はたぶん、あんたの気持ちには気づいてねぇ」

「……やるせない」

「だがよ、お前が作り出した虚像(オレ)がいる。それでいいじゃねぇか」


 まるで太陽のような眩しさがナッセの背後から溢れてくる。

 日の出のような明るくて清々しい光が満ちてくる。


「なんか、妄想のナッセであたし何やってんだろって思うけどね」

「たはは……」

「でもま、ありがと。なんか元気出た。死んじゃったけど」

「いや」


 ナッセは首を振る。


 神々しい光は更に大きく膨らみ続け、暗闇しかなかった世界は眩しさに包まれていく。

 とてつもないパワーがリョーコの体にまとわりついてくる。


「お前にもあったんだよ。アクトみてぇな特有の力がな」

「え? 心髄(シーズ)??」

「それはインド人特有のな。お前のその力は日本人特有のものだ」

「それは……?」


 驚き戸惑うリョーコに、真剣な眼差しのナッセは頷く。


日章紋(にっしょうもん)!」


 眩い閃光が全てを覆った! カッ!




 ウェールザは、横たわったままのリョーコを看取っている。

 幾ばくかもない命が尽きるまで見届けようと、目を離さない。ダウートさまと敵対する故、助ける義務も義理もない。

 惜しいとは思うが、それは命懸けで戦ってくれたリョーコの為。

 精一杯戦って惜しくも敗れて、死にゆく魂に敬意を払う。


 それが命の生死を左右する“戦い”というものだ。


「私は今日まで多くの敵の命を屠ってきた。故に責務として、小野寺(オノデラ)リョーコは生涯忘れない。お前ほど尊い相手はいなかったからな。もう現れないかもな」

「……勝手に殺すな」


 ウェールザは見開き、ゾワリと竦む。


 ググッと手で支えに上半身を起こそうとするリョーコ。

 ウェールザにとっては信じがたい光景。有り得ない。彼女はただの人間。ナッセやアクトみたいに人外の力を持っていない。

 根性や気合いだけでは片付けられない。


「おまえも……妖精王か? それとも竜王かっ!?」

「ただの……人間。それも普通の日本人としてね」


 リョーコは顔を起こして不敵な笑みを窺わせる。

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