168話「六界篇④ 畜生道ァ!」
緑生い茂る深い森林。茂みがモサモサ。木々が無数と空へ伸びていて、葉っぱの天井を敷いている。
リョーコは一人戸惑っていた。
景色が流れ出したと思ったら、見た事もない場所へ放り出されたのだ。
それに加え、彼女の衣装が変わっていた。白黒模様の牛柄のワンピースにスカート。ハイヒールが牛の蹄を模している。
しかも斧は牛を模したオモチャのようなデザインになっていた。
『リョーコ(ちくしょうどうのすがた)』
ド ン!
「なんで牛なのぉ~~~~っ!!」
いつの間にか、森林生い茂る場所にいるし、どこにいるか分からない。
ガサゴソと葉っぱをかき分けながら進んでいく。
とにかくナッセとヤマミが建てた場所へ戻らないと、と焦っている。しかし行けども行けどもめぼしい場所は見えてこない。
「ってか、ここどこなの?? インドのどこか?」
怪訝に眉を潜めて戸惑うしかない。
なんか大きな影が覆ってくる? 見上げると巨大なクマが「グルルルル……」と恐ろしい剣幕で睨んできている。
三メートル程の巨大クマだ。
ビビっていたが気を取り直して「ねぇ、話せるよね……?」と恐る恐る聞いてみる。
「うが────っ!!」
「ダメだああああああああっ!!」
獰猛に太い腕を振り回しながら追っかけてきて、リョーコは一心不乱に逃げ出すしかない!
バキバキ、と大木を薙ぎ倒しながら追ってくるのは恐怖でしかない。
しかし更にでかい影が覆ってきた!?
リョーコとクマは青ざめながらゆっくり見上げると、なんと肉食恐竜で有名なティラノサウルスが一〇メートルもの超巨体で、牙を剥いて「グルル……」と血眼で睨んでくる。
「ぎゃおおおおおおおお────ん!!」
ドスドス踏み鳴らしながらティラノサウルスが襲いかかる!
「いやあああっ! 助けて────っ!!」
「うわあ────っ!! 恐竜だ────っ!!」
リョーコはクマと一緒に併走して逃げ出した。
走りながら「喋れるんかいっ!」と涙目で突っ込む。クマは「いやぁ、空気を読んでみました」と苦笑い。
「こんな緊急事態で空気読むなああああっ!!」
血に飢えたティラノサウルスは木々を薙ぎ散らしながら執拗に追いかけてくる。
「ってか、ここどこなのよ──っ!?」
「ここは『畜生道』だ!」
「ち、ちくしょうどおおおぉ??」
「ああ! 六道輪廻の六界の内、特に苦しみが酷い三大世界の一つだァ!」
リョーコは涙目で「そんなの、あんまりよ──っ!」と喚いたぞ。
すると更に大きな影が覆って、リョーコとクマとティラノサウルスは青ざめながら見上げる。
なんと象のような太い足を生やした三〇メートルほどのクジラが血眼でギョロリと見下ろす。ドスンと大きな足を踏み出してきて木々がバキバキ潰されていく。
「あんな動物、見た事ない!!」
「ここは畜生道! 色んな動物がいるんだ!!」
「ああ! アイツは木星の動物ガウ!!」
なんとティラノサウルスも教えてくれてるぞ。ってか話せんのかいっ。
こんなに話してくれるんなら最初っからして欲しいと、リョーコは涙目で一緒に逃げ出している。
ドスドスと怪獣さながらクジラが「モオオオオ」と吠えながら追いかけてきて、圧倒的恐怖さえ抱く。
「クジラくん! 話せるのなら、ここで止めて!! 不毛だよ!!」
「うるせああああああ!! キサマらはエサじゃああああ!!!」
しゃべってくれたけど、敵意満々! 話通じても情通じず!
しかし更にでかい影が覆ってくる。
リョーコ、クマ、ティラノサウルス、クジラは青ざめて見上げる。
なんと、五〇メートルもの大王イカが空から触手を伸ばしてくるぞ! その触手は鞭のようにしなって森林や岩山を砕きながら迫って来る!
「まさかこれも木星のイカ??」
「あったりまえだろ! 木星を泳ぐ危険なモンスターだ!」
「ガウガウ、木星は未知の動物でいっぱいガウ!」
「ワシもアイツを前に逃げ出すしかない!! デカい分狙われやすいから泣く」
クジラさん、さっきまでエサとか抜かしてなかったワケ?
結局一緒に併走して逃げているぞ。
「クジラさん! 敵なんだからあっち行ってよね!!」
「申し訳なああああい!! 出来心だったんだあああああ!!」
クジラさん涙目で逃げている事から、よっぽどイカには苦しまされているのね。
それにあっちはスイスイ飛行してて触手をウネウネ振るってくるから、逃げ切るのさえ難しい。
すると、森林から小さい影が飛び出し、空中でハンマーを振り上げた!
「はっはーァ!!!」
ドガガァ────ンッ!!!
木星大王イカを叩き伏せて大地に沈めたぞ!! 土砂を巻き上げ、木々を薙ぎ散らす!
大重量による衝撃で大地が大きくズズーンと震えた!
思わず「!!!!」と出る!
そして息絶えたイカの上で、その小さいヤツが降り立った!
「口ほどにもねぇなーァ!」
ド ン!
なんとロリ風貌で、ちょいマッチョなカレンだった!
大会でナッセたちを追い詰めたほどの強豪創作士! まさか出会うなんて!
しかもタヌキだがアナグマだかのコスプレしてる感じ?
「ラ、ラーテルじゃねーか!!」ド ン!
クマが悲鳴に近いビビリ声出してきて驚かされる。
次いでティラノサウルスも「ああ! 哺乳類の中では天敵が存在しないほど最強の動物ガウ!」と驚いている始末。
『ラーテル』
イタチ科の動物。
ハチミツが大好きなのだが、ヒョウ、ライオン、ワニはおろか、ニシキヘビすらも食べてしまえるほどだ。
しかも柔軟な皮の装甲で並大抵では傷が付かない。多少の毒もへーき。
獰猛すぎるので、敵に回したくないタイプ。
その夜、大王イカの死骸のそばで焚き火。
イカの肉片を串に刺して、リョーコたちは平らげていた。
「オメーも来ていたとはなーァ!」
「あはは……」
クマが「知り合いだなんて知らなかったぞ」と身震い。
ティラノサウルスも何故か切り株に腰掛けて「あんな強いとは恐れ入ったガウ!」と気さくに笑う。
クジラも切り株に腰掛けてイカの肉片をガツガツ食べていた。体格の構造が気になる。
「ってかオメーも強いんだろーァ? なぜ逃げてんだーァ?」
「あ、それはそうかも」
そーいえば、と牛デザインの斧を手に取る。
後ろに引いて構えて「いっせーのぉ!」とオーラを放射状に集約させていって地響きを呼び起こす。クマ、ティラノサウルス、クジラはビビッとしてくる。
「スラッシュ・スレイヤーッ!!」
横薙ぎ一閃と振るうと、巨大な三日月の斬撃が飛んでいって、向こうの岩山をザンッと斬り飛ばし、向こうの岩山までザザザンッ!
クマ、ティラノサウルス、クジラは「!!!」と青ざめて竦み上がった!
リョーコが「ん?」と振り向いてきたので、一斉に土下座して命乞い────!!
「襲ってゴメンなさああああい!!」
「あんなに強いとは思わなかったガウウウ!!」
「どうか命だけは!! ワシら必死だったんだああああ!!」
リョーコは「もういいわよ」と、ため息。
「別に能力が封じられているワケではないーァ」
「そっか。そうだよね……。こんな所に飛ばされて動転してた」
「ここが畜生道っつったなーァ?」
「うん。そうみたい。どっか村とか町とかないかな?」
しかしカレンは首を振った。
「そんなもん探したーァ。でもここには全然見当たらねぇなーァ」
ド ン!(強調擬音)
リョーコは思わず「!!!」と愕然!
ここは文明を築くとか概念はないようだった……。




