167話「六界篇③ 六道石の効果ァ!」
《全く! おまえら笑い死させる気か!》
「わ、わりぃ……」
大仏は寝そべっている。肘を地面に付けて手で顔を支えているポーズだ。
どこぞの格闘ゲームの背景に出てくる仏様みたいだぞ。
と言うのも、地面に書いたダジャレで笑い転げてたからだぞ。収まるまで一時間くらいかかった。笑い過ぎるくれぇだ。
「それはともかく、生け贄とは“天道”らしからぬ要求ね」
《ただで手に入ると思うな!》ド ン!!
さっきとは打って変わって厳かな表情をしてきた。
《この『六道石』は世界の概念を覆しかねない奇跡Aランクの神器。それをホイホイ渡せるか!》
「……じゃあ、どういう効果をもたらすのか聞いていいかぞ?」
《『極楽浄土』への扉を開く“鍵”だ》
オレは「ん?」と首を傾げた。
「ここがそうじゃないのかぞ??」
《そう勘違いする人は多いが、全く違う。似て非なる世界だ。『天道』といっても、所詮は六界の中で至福な世界ってだけで寿命はある。その死の苦しみももちろんある。死せば、またどこか六界へ転生する》
思わずポカンとする。
寝転がっていた大仏さんは座り直して、説明を事細かに教えてくれたぞ。
六道輪廻とは、延々と六界を巡って転生し、永劫の苦しみを味わう概念。
そこから解脱する事ができれば、極楽浄土へたどり着く。
そこでは地獄へ二度と落ちる事はなく、一切の苦痛が存在せず、喜楽のみで満ちた永遠の幸福を味わえる。
なんでも思い通りで、美しいものだけが存在する至高の世界。
《『極楽浄土』へたどり着いた者は『如来王』と呼ばれる。普通なら厳しい修行の果てにたどり着く境地なのだが、『六道石』はその過程をすっ飛ばせるチートアイテムだ!》
ド ンッ!!(強調擬音)
オレは「!!!」と息を飲んだ。
大仏は『六道石』を掴み、握っている手を広げて、オレたちの前で見せ付ける。
厳かな顔でこちらを見据え──!
《授かりたくば、己の大切な人を差し出すのだ!》
オレとヤマミは険しい眼差しを見せ、しばししてから目配せし合う。
ふう、と一息。
「じゃあ要らねぇ」
「うん」
きっぱりと言い切ってみせる。大仏は見開く。
《何故?》
「欲しいのはダウートの野郎だろ? オレは別に欲しくねぇ!」
「ええ。ナッセを差し出してまで、石ころなんて欲しくない」
ヤマミも迷惑そうに目を細める。
《地獄に落ちず、永劫の幸福を味わえるんだぞ?》
「行きたいのは極楽浄土なんかじゃねぇ」と首を振る。
ヤマミと手を繋いで笑んでみせる。
「異世界だァ!! オレたちは憧れた異世界へ行きてぇんだっ!」
「そう! それが私たちの夢っ!」
ド ン!(強調擬音)
大仏は「!!!」と驚く。
するとオレの懐から閃光が溢れてきて、光の帯が幾重も放たれていく!
ビックリしてポケットに手を入れる!
取り出したのは間違いなくカレー色の透き通った宝石!?
「り、『六道石』!!?」
大仏は《ふっふふふふ!》と笑い出す。
《己の野望の為に、自分の大切な人を捨てるようなヤツに『六道石』は来ん!》
勝ち誇ったかのような顔をしてる。
「……って事は、オレたちを試した?」
《うん》
「くっ! してやられたようで、なんか悔しいぞ……」
《ここは“天道”! 欲深いヤツでは『六道石』は手に入らぬ!》
あー納得。だから、あんな事言って試してたのね……。
でも確かにダウートなら、手に入れる為になら自分の大切な人を平気で捨てかねんよな……。
そんだけ欲深いと絶対手に入らねぇって事か。
棚からぼた餅的に手に入れちまった……。
「じ、じゃあ……、そっちが持ってるのは……?」
《もちろんニセモノだ!》
大仏さんが手の上に乗せてるのはソックリのニセモノだった!?
《心せよ! 『六道石』は人を選ぶ! 今、お前を選んだのだ!》
思わず「!!!」と吹き出す。
なんか、意思があって持ち主を選ぶらしい。オレたちが手に入れたと思えるが、実は逆。『六道石』がオレを手に入れたのだ!
でなければ永遠に手に入らない、って事ね。
「とは言え、人間道へ帰れないんじゃな……」
「そうね。そこが問題」
《汝は仮にも“鍵”を手に入れたのだ。それを手に時空間魔法を使うがいい》
「え? ……分かった。やってみる」
ヤマミへ振り向いて『六道石』を渡す。互い手を繋ぎ合って『連動』を発動。
黒い花吹雪を散らしながら渦が拡大していく。ズズズッ!
「ホントだ! できたぞ! 大仏さん、ありがとなー!」
「それではお邪魔しました」
《うぬら二人とも気を付けてな》
清々しい気持ちで、バイバイと手を振り合う。
いなくなった後で、天女があちこちからニョキニョキと生え出してくる。
《せっかくここへ来れたのににょーん》
《もったいないですにょーん》
《ここのどこが不満なのかによーん?》
大仏は満足げに笑んでいる。
《……もっと広い世界を見てみたいんだろう。悟るには、まだまだ若い》
今はまだ生まれたばかりの若い妖精王。
知らない事ばかりで、人間並に知識も精神も未成熟。
しかしこれから広い世界を回って、幾多の経験を重ねて行けば、いずれは仏様を超え『如来王』レベルに達するかもしれん。
《ナッセ、ヤマミ……、ここでいつでも応援しておるぞ。ふふっ》
大仏は天女たちへ振り向いて《聞いて欲しいネタがあるんじゃ!》と、ナッセのダジャレをパクって言い放ってしまう。
やはり大爆笑の嵐が巻き起こったぞ。
《どっははははははははははははははははははははははははは!!!》
こうかは ばつぐんだ!




