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165話「六界篇① プラーナの謎ァ!」

 カレー蒸気の気流がインドを囲むと共に、時空の捻れで包まれていて、外部へ脱出する事は不可能になっていたぞ。

 山脈を立ち込める霧は、その気流から漏れ出ている蒸気。

 オレとヤマミはその事実に絶句していた。


 空を見上げれば、ミニ木星。


「……ダウートを倒せば元通りになるんかな?」

「例え、そうだったとしても現時点で倒すのは無理でしょ」


 すると足元がグラグラッと揺れ始めた?

 思わず踏ん張ろうと腰を低くしていくが、地震の揺れではない事に気づく。なんと地面が液体化するかのように流動的に流れ始めたのだ。

 地面も、草木も、山脈も、空さえも、水に溶けた絵の具のように流れ出していく!!


 一体何が────!?


「いけない! 妖精王に!」「おう!」


 引き離されようとするオレとヤマミは足元に花畑を広げ、背中に六つの羽を展開し、ボウッとフォースを噴き上げて妖精王化した。すぐさま腕を伸ばしあって、間一髪手を繋げた。ガシッ!

 世界の流動化は加速していって、辺り一面は木星の地表のように無数の渦を巻く風へと変わっていった。

 上も下も分からないような光景にオレたちは戸惑うしかない。



 同時にマジンガたちが未だベッドで寝ている間にも、世界の流動化が巻き込んでくる。

 即席の野戦病院さえも溶け出して流れ、同時にベッドも毛布も枕も、そして寝ている人たちを別れさせるように違う気流に流されていく。


 城路(ジョウジ)本家のタツロウとアッキーは「ひええ」と恐怖のあまり抱き合ったまま、無数に渦を巻く風に巻き込まれていった。




 アクトとコンドリオンも、遠くの景色から波打つように景色を溶かして流動化していく事象を目にする。

 何故か町中のインド人は不気味に静まり返っている。

 全員が全員、瞑想(めいそう)するかのように(ぜん)を組んでいるのだ。


「なんなんですか?? あれ??」

「っち! 来たかァ……」


 アクトはコンドリオンの手首を(つか)む。


「あれは“六道輪廻”のプラーナだァ!! 木星では当たり前の事だが、大循環気流によって異なる六つの世界に転移させられるんだァ!」

「そ、そんな事がっ!?」

「お前はダウートに言われるがまま地球で育ってきた坊ちゃんだからなァ! 知らんのも無理もねェ! 捕まってろァ!」

「分かった……!!」


 コンドリオンは両手でアクトの手を握り、そのまま世界の気流に飲み込まれた。




 とある場所でカレー色の巨大な象が「ぱおーん!」と翼のような大きな耳を羽ばたかせていた。

 その象は艶かしい女性のようなツリ目をしていて、顔が正面と左右で三つ。頭上には煌びやかな王冠。前足と後ろ足がそれぞれ四本で、大きな胴体の上にカレーを乗せている。


 ド  ン!!(登場擬音)


 クリシュナことギンジは象と、向こうから押し寄せるプラーナを交互に見ている。


「間に合ったか! カレーシャの召喚!」

「ええ、時間はかかりました。さっさと乗りなさい!」

「分かった」


 カレーシャと呼ばれる奇妙な象の胴体は空洞になっていて、既に乗り込んでいるエレーシャが窓からクリシュナに搭乗(とうじょう)催促(さいそく)

 慌ててクリシュナもバスに乗り込むかのように扉に入り込んだ。そう、胴体は複数の窓があって、側面に扉が二つある。

 なんとネ○バスならぬゾウバスだ!!


「さぁ、プラーナに乗って駆け抜けなさい!!」

「ぱおおおおーん!」


 三つの鼻を高らかに上げて、八本の脚でゆっくりと駆け出していく。

 それはなんと、押し寄せたプラーナの気流に乗って、空中走行していった。まるでナッセの空中手裏剣を足場にして駆け抜けるのと同じような感じだ。


 木星のように無数の渦を巻く大気流の風景に、クリシュナもエレーシャも苦い顔をする。


「モンハンは大丈夫なのか?」

「情報通のようですし、何らかの方法で乗り越えているんでしょうね」

「……しかし、このような事象は初めて見る」

「それが木星で起きている『六道輪廻』なのですよ。プラーナによる大循環気流によって、生命体を六道界ぞれぞれに運んでいくのです。私も話に聞いただけですが、同じく初めて見ますよ」


 クリシュナは“六道輪廻”を思い返す。

 六つの異なる世界は同時に存在していて表裏一体のように現世の世界と連結している。普通なら生命体が寿命を迎えた時、生前の行いによって六つの世界のいずれかに転生される。

 いずれも苦しみがあり、特に酷いのが地獄道、餓鬼道、畜生道の三界。一方で、天道、人間道、修羅道の三界は苦しみが少ない。


「生死の度に輪廻転生を繰り返して六界を巡って永遠の苦しみを味わう。仏教で聞いた通りだ」

「教科書通りですね」

「だが、()()()()()の転移は聞いていない」


 それでも木星では当たり前のように世界が切り替わる概念。

 つまり生きたまま六道輪廻を体験できる。普通ならありえない。仏教の教えがウソなのかどうか分からない。


「まだ謎が多いな。アクトはこの事象を知っていたが、その理由まで知らないように見える」

「隠しているかもしれませんがね……」

「その可能性は否定できんが、隠すメリットがない」

「そもそも、この事象が当たり前なら『六道石(りくドォせき)』は容易に集められるでしょう!」


 そう、矛盾している。

 こんな都合が良い環境なのに、なぜダウートは今まで動かなかったのか?

 その気になれば、このプラーナに流されて六界を巡って集める事ができるはずだ。



「結構なインド人がいたはずが……」


 付近の町には多くのインド人が住んでいる。

 インド全域だけでも人口は14億人以上いるはずなのだ。なのに、この気流の中に一人もいない。


「そうか、そういう事か……!」

「どういう事です?」

「……()()()()()()は生きたまま“六道輪廻”を転移できない。木星人に近いインド人は気流に流されず、一定の世界で在留する。同じインド人でもアクトはより地球人の血が濃いから該当しないか?」

「なぜわざわざカレーフェスを開いたのか、謎は解けましたよ……」


 元々、六道輪廻の概念は()()()()

 それに当てはまらない外来種は生きたままプラーナに流される、という事か?





「────と、思い違いしている頃だろうなァ」


 カレー・マハルの宮殿で、ダウートは不敵に笑う。

 なんとダウートと部下たちはあぐらをかいて両手を重ねたままだ。(ぜん)を組んでいる。


「この“(ジャーン)”を習慣的に行っているインド人のみ、プラーナに流れずに済む道理……!」


 そう、大循環気流で移ろいゆく木星で多くの人々は六界のいずれかに流され続けてきた歴史があり、その過程で一定の世界に留まれる作法を編み出してきた。

 それは幾万年前から繰り返されてきた賜物(たまもの)

 故に、地球に降り立ったインド人でさえも日々の習慣として“(ジャーン)”を無意識に行う。


「流されるのは咎人(とがにん)か、死人の魂か、外来種だけだァ」ドン!


 ダウートは静かに目を瞑り、微動だにしなくなっていく……。

あとがき


 コンドリオン王子も“(ジャーン)”はできるけど『なぜ必要なのか?』までは知らないようです。

 ちなみに性格が元に戻っているのは、まだ完全に“怪異の種(ヤクシャ・ビジ)”に取り込まれていないって事ですかね。

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