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164話「開幕篇⑬ 俺は真理ァ!!」

 ──人間は『自分が正しい』と錯覚する生き物である──


 とある著名人が言っていた言葉である。

 人間というものは愚直に『自分は正しい』と思い込む事がある。

 みんなが『間違っている』と思っていても、本人は『正しい事』だと思っているのだ。

 それは時として、自分を悪党だと自覚して悪事を働くよりタチが悪くなる。


 悪逆非道の限りを尽くす独裁者でさえ、自分は『正しい』と盲信しているのだ。

 それも正義を振るうに相応しい、清く正しく選ばれた者だと本気で……。




「人間はそれぞれ自分で正しいと思ってるから、摩擦(まさつ)が起きるんだァ……」

「そうかー?」


 アクトとコンドリオンはサングラスをかけて服を変えて、喧騒する町の中を堂々と歩いていた。

 いつもののように日常を過ごすインド人は頭にターバンを巻き、カレーとナンを食べていた。


「ぱおーん!」


 道路をインド象が人を乗せて闊歩(かっぽ)している。


「あのクソ親父、今すぐ行ってぶっ飛ばしてやりてェ!!」

「おいおいおいおい、待て待て待て待てァ!」

「なぜだアクト? おれは我慢できねェア!!」

「いいから待てってァ!」


 人が変わったように短絡的に憤るコンドリオンを、アクトは必死に引き止める。


 コンドリオン王子は、本来は大人しめな性格。

 一人称は『僕』で、話す時は『~です』『~ます』など丁寧語が目立つ青年。決して某海賊漫画の主人公みたいな性格では断じてねェ!


「おれのクソ親父は全世界をインド化して、勢力拡大して、永遠に世を治める『如来王(ごときおう)』になるっつったからなァ!!」


 両腕を高く伸ばし、(アゴ)が外れそうなほど口を大きく開けて叫ぶ。

 まるで漫画のキャラだ。


「いったん落ち着いて待て待てァ!」

「あいつは待ってくれないぞ?」


 アクトは言葉を失う。

 即直に言ったコンドリオンの言葉は本質を突いていた。

 確かにダウートは止めてくれやしない。己の野望を叶える為に、世界を巻き込んで『六道石(りくドォせき)』を集めようとしている。

 しかも木星から密輸した『怪異の種(ヤクシャ・ビジ)』を世界中にばら撒こうとしている。

 まず犠牲になったのはコンドリオン王子……。


「だから、先に『如来王(ごときおう)』におれはなる!」ド ン!


 アクトはジト目で「なぜその理屈になるァ……」と呟く。

 このままでは、この小説が某海賊漫画みてーになるぞ。メタァ!


 するとカレー川から飛沫を吹き上げて、巨大な恐竜にも似たカレー獣が牙を剥いて現れたァ!?

 人々は目を飛び出させて「出たァ~~!!」「バケモンだァ!!」「逃げろォ~~!!」と驚き戸惑う。

 アクトは「っち!」と妙な舌打ちして刀を──……!


「パオパオのォ~~~~(ピストル)!!!」


 なんとコンドリオンは右腕を象の鼻に変化させて高速で伸ばして、カレー獣をドゴォンと殴り飛ばして空へキラ────ン!

 誰もがポカーン!

 アクトは汗をたらし危機感を覚える。


「……尾○先生に訴えられる前に何とかしないとなァ……」メタァ!


 コンドリオンには「せめて“(ゾォ)の~~”シリーズでやってくれァ」と懇願(こんがん)したァ。

 ブーブー不満たれたが、折れてくれたァ。





 カレー・マハルという神殿。


 その実、霊廟(れいびょう)なのだが、ダウートはそれを拠点としていた。

 薄暗い広場、王座で腰を下ろして手下どもを見下ろしていた。威圧感があって萎縮(いしゅく)させられるほどだ。


「だはははは……! まァ、妖精どもはインドから逃げられやしねェ……」

「それはどういう事ですか?」


 手下たちがおずおずと聞いてくる。





 霧が立ち込める山地の町。タージリン。

 その森林で察知(サーチ)妨害の結界を張って、オレたちは即席の建物を設立していたぞ。

 そこでマジンガたちを、数多並べられたベッドに寝かしておいたぞ。

 さながら野戦病院のようである。


「ふう、治療は済んだぞ」

「お疲れさま」


 オレはヤマミと並んで手を重ね合う。

 先ほどのダウート戦で全滅したマジンガたちの怪我を回復魔法(ナース系)で治療していたのだ。とある並行世界(パラレルワールド)僧侶(プリースト)として腕を磨いていた事もあり、その手腕は遺憾(いかん)なく発揮された。


「精神的な疲労もあるから、目を覚ますのは翌日になるかも……」

「そう」

「このままじゃ勝てない。一旦(いったん)は日本へ帰ろう。そんでヤミザキたちと……」


 するとヤマミは首を振る。


「ついてきて!」


 深刻そうなヤマミの顔に、オレは息を呑む。


 霧が掛かっている山脈。オレとヤマミは瞬足で国境付近まで駆け抜けていった。

 やけに霧が深いなと思ったら、唖然とさせられたぞ。

 なんとカレー蒸気の気流が(さえ)るように横切っているではないか! 凄まじい速度で吹き荒んでいる!


 ビュゴゴゴゴゴォ────────────────ッ!!!


「な、なんぞ……?」

「木星のようなジェット気流がインドを包んでいる。その風速は時速にして約1400kmに達する。しかも層が数キロもあるから強引に突き破るのは無理ね」

「時空間魔法あるじゃないか!?」

「できてたら、まずそれを提案してた!」

「うっ……」


 ヤマミの説明によると、意図的に時空(ねじ)られて遮断(しゃだん)されている。

 目に見えない(まく)が包み込んでいるようなもんで、見えている空からですら脱出できない。現時点では魔女クッキー級の時空間魔法でなければ脱出不可能……。

 こんなのは初めてで、恐らくダウートの仕業だろうと思う。だからこそ逆にオレたちは『寿限無印度(ジュゲムインド)』の影響を受けない。


「でもなぜ?? オレたちをインド人化させれば勝ったも同然だろ?」

「こっちも聞きたい!」


 困った顔でヤマミは首を振る。





「インドと木星をより濃密に同期させる為に包囲空間膜を敷く事で、妖精どもを逃がさない事も含め、地球でも六道の世界へ()()に行き交いできるようにしているのだァ……」


 ダウートの語りに手下は唖然とする……。


「って事は、普通では行けない“天道”へ奴らを行かせる為にっ!?」

「本来なら厳しい修行の果てに磨いた至高の魂を持つものでもない限り、辿り着けない境地!」

「妖精王なら確かに行ける!」

「まさか、それが狙いだったのかァ~~!」


 ニヤリと笑むダウート。


「あァ……。悠長(ゆうちょう)に長年厳しい修行をして天道へ行くのでは遅すぎるからなァ……。それに天道(あっち)から戻ってくるのも難しい故に、『六道石(りくドォせき)』を全部集められるのは不可能とされていたァ……」

「おおお~~~~!! さすがは“英雄”ダウートさまだァ~~!!」


 歓喜していく手下ども。

 しかしその影で「どうせ天道には行けねぇクセに!」と手下がボソッと悪態。


「……伸びろ如意金箍棒(にょいきんこぼう)


 なんとダウートの如意棒が瞬発的に伸びて、悪態をついた手下を壁に張り付けて、グチャッと潰れたトマトのように(いろど)ったァ!?

「!!!!」

 そんな悲惨な末路を手下たちはアングリ口を開けて真っ青になっていく。


「『如来王(ごときおう)』になれる俺こそが真理そのもの! 異議あるヤツァ出ろ!」

 ド ン!!


 そんな強い語気(ごき)に、手下どもはビビビビッと竦み上がった!

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