131話「気付かなかった設定ッ! 重婚ッ!!」
二〇〇九年十一月二十五日……。
オレはヤマミと一緒に高架橋沿いの路地を歩いて通学中だぞ。
前に大阪壊滅レベルの大侵攻があった後だから、古い建物が消えて近代化された建物が並んでいる。道路もそれに伴って新しく舗装されてピカピカの黒アスファルトだ。
以前は経年劣化したネズミ色のアスファルト道路でツギハギ部分が所々あった。
「あなた、気をつけてね」
「あんまり無理しないようにね」
ふと住宅から出てくるサラリーマン男と妻と思わしき女性が一人でもう一人は娘??
と思ったら、なんと二人の女性に交互にチューし始めたぞ。それも唇同士で啄んでる。無数のハートマークがブワッと舞ってるぞ。
「む、娘にまで……」
「違うわよ。二人とも妻!」
ヤマミの言葉に「え?」と振り向いた。真顔だ。
「その様子だと夫婦と娘と思ったようね」
「ああ、うん……」
「元いた世界の法律がどんな風だったか知らないけど、念の為言っておくわ」
歩きながらヤマミは説明してくれた。信じがたい。
なんとこの世界ではハーレムにオープンな法律で、一夫多妻制度もあって、婚姻適齢期は男性で十五歳、女性で十三歳と驚くほどの低年齢設定だぞ。
これには面倒な制約が複数かかって始めて成立しているんだそう。
年収が一〇〇〇万を超えるなど条件がなければ、重婚・複婚は認められない。経済的理由で余分に養えないとダメだからってのは分かる。
複数を娶る人数は無制限だが、それに比例して厄介な制約も増えていく。
一六歳未満の妻を妊娠させた場合、出産時に妻か子供を死に至らしめた場合は重罪になるなど、人生終了レベルの重い制約らしい。
他にも色々制約があるが割合。
同性婚や一妻多夫制とか他もあるけど、これも面倒な制約がある。
「たぶん、ポジティブ濃度がネガティブ濃度と等しく釣り合ってるからこそかもね」
「ああそっか。オレのいた世界じゃネガ濃度高すぎるもんな」
説明をカンタンにすっと、ポジ濃度が高いほど奔放で明るい世界観になっていって、ネガ濃度が高いほど残虐で暗い世界観なるっつー感じだ。
「魔界オンラインシステムが元いた世界にも影響してたら、ほぼ全員強制ログインされてたと思うわ。あなたから聞いた限りだと割と悪人多いから……」
「ああ。オレも強制ログインしてたと思う」
マジ、オレだって自分善人って言い切れねーしな。
色々傷付けた事とか後悔するような事とかしてたからなぁ。欲や悪意にまみれれば誰だって悪人になりうる。
この世界に転生して良かった。マジで!
────閑話休題。
「だから二人以上の女性と一緒に歩く男を見かけてたのか……」
「今になって気付くなんてね」
「全部、他の事ばっか考えてて余裕がなかったかな」
その後、アニマンガー学院で勉学に勤しみ、その休憩時にエレナが明るい顔で「ナ~ッセ~!」と腕に抱きつく。
すぐさまヤマミがチョップでペシーン!
「いった~ッ! ジャマミやめてよねッ!」
「私のナッセに変な色目使わないでくれる!」
「ムキーッ! 自分のモノのように言ってッ! 寝取り返してやるんだからッ!」
「元々は彼女だったみたいな言い方やめて!」
ヤマミとエレナがケンカするのも様式美にすら思えたぞ。
「重婚かぁ……」
ふと口にしたら、ヤマミとエレナが恐ろしい顔で振り向いてきたぞ!
「それは認めない!」
「そんなの絶対ヤダヤダヤダッ!!」
オレは「分かった分かった」と宥めた。
リョーコがニヤニヤして「ふ~ん興味あるんだ?」と歩いてくる。
「今更だけど、この世界でこんな重婚オーケーって初めて知ったからなぁ」
「あたしも遠慮したいかな。二人きりってのが特別感出てていいからね~」
側に座って、たこやきを食べ始める。おい!
とは言え、リョーコもエレナも重婚はイヤだって言ってくれてるから、安心した。
急にエレナ辺りが重婚しようってなったら慌てるもん。
奔放な性格だから言いそうな雰囲気だったけど、そもそもヤマミと一緒になるのってエレナ的にイヤだもんなぁ……。
「断っておくけど、重婚するケースって滅多にないから!」
ヤマミが座り込んで、リョーコのたこ焼きの一個を爪楊枝で失敬する。
オレにも「いいわよ」ってたから戴いたぞ。
リョーコは十二個セットを三箱以上常備してるらしい。よゆーよゆーって本人も言ってるしな。
フクダリウスをチラ見する。
確か妻子いたよなぁ。でも性格的に重婚しなさそう。
決闘者のミコトは分からんが、堅物なコマエモンは恋愛とか結婚とか縁がなさそう。ノーヴェンは……。
するとドガァッと窓側が吹き飛んで、人影が飛び込んできて竦む。
「あなた! 弁当持ってきましたわ!」
「オー、イエス……! 忘れてましター」
ノーヴェンにツカツカ歩んだと思ったら弁当を机に乗せてきたぞ。
見た所、黒装束で包むがボンキュボンでナイスバディの美しいくノ一って感じのポニーテール美女だなぞ。
「……知り合い??」
キッと女忍者がこちらへ振り向く。殺気剥き出しだなぞ。
ノーヴェンは二回拍手し「ここはスクールデース」と女忍者を落ち着かせた。
「紹介が遅れましター。婚約者の黒野サキアなのデース」
「先ほどの無礼をお許し下さい」
サキアって女忍者が頭を下げて無礼を詫びた。
「は、初耳だなぞ……」
「前に婚約者がいたけど、事故で死んでしまいまして代わりに」
「事故……??」
「ええ。アレは事故デス! 事故デース! 事故デェェエス!」
なんか涙流して震えているからこれ以上の追求はしないでおこう。
くわしくは78~79話の「ノーヴェンのデート!」だぞ。メタァ!
するとボインボイン胸を揺らした熟女っぽい人がやってきたぞ。
ウェーブ金髪ロングでタレ目のおしとやか美女。ピンクな身なりが高級っぽい。
「あなた! 水筒忘れてましてよ!」
「オー、イエス! 忘れてましター」
オレはヤマミと一緒にジト目……。
ハッとしたノーヴェンはゴホンと咳払いして、立ち上がってサキアともども二人の肩に両手を置いて自信満々に笑む。
「紹介しまショウ。第二の婚約者であるコマラ・ティモロウなのデース! ヨーロッパ旅行で意気投合してましテー」
「マァ、よろしくってねぇ!」
「熟女もラブでして、このように娶ってマース!」
腰をクイッとする変態メガネ紳士と両脇の婚約者。
この場にいた生徒たちは固まってしまった……。オレもヤマミもエレナもリョーコも脱力してる……。しらけてしまったっていうかな…………。
「もう一人、婚約者がいるのですガ……」
クイッとメガネを薬指で押し上げてフチから反射光を煌めかす。
まだいんのかよ……。まぁ資産家だもんな。よゆーで重婚だろうなー。
夕日の下、ヤマミと一緒に遠い目で帰宅だぞ。
「なんつーか世界違うなアレ」
「そうね」
まさかのノーヴェン重婚事実に未だ驚きが胸中を占めていたぞ。
そういえばヤミザキもそんな風な事あったっけ。すっかり忘れてたけど、複数の妻を娶って王子いっぱい出産させてるもんな。
ヤマミとマミエは同じ母親。コクアやダグナたちは別の母親から、だったっけ。
今更だが、とっくに重婚の設定は以前からあったようだぞ……。
その日の夜。オレんトコに携帯に電話かかってきた。
知らない番号だぞ。
「あ、僕コクアですっ! ナッセ様、聞いてくださいっ!」
「……勝手に登録すんなぞ」
夕夏家ンとこの第一子王子か。
「すみません。でも聞いて欲しいんですっ! ついに僕にも婚約者が五人できt」
プツン! 反射的に通話を切った。




