表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結月ゆかりは画面を見つめる  作者: hikoyuki
バーチャルガーデン
26/30

結月ゆかりはマウスを握る

 盛大に本題から脱線して【地獄の天使】攻略や【クラシカルクラフター】のお世話をしていた2人だが、あかりが進行を取り仕切ってくれたおかげもあり、無事に製作が再開した。


 脱線した原因は間違いなく完璧を求めすぎたことにある。こうして彼女らは妥協を理解し、自らの創作物だけでなく、市場に散らばる凡ゲークソゲーにも妥協と理解を抱く。完成してるだけで偉いのだと。


「完成してるだけで偉いのは間違いないけど、しっかりクオリティ上げていこうね!」


「了解しました、あかり社長。社長の指示に従いますのでどんどん指示よろしくお願いします。責任の所在もあかり社長管轄でお願いします」


『さすが社長!ささっ、我々はコードを構築いたしますのでタスクの管理もよろしくお願いしますよっ』


「言い出しっぺが損をする、これがこの世界のルールなんだなあ」


 間延びが続かないようにリリース日も決め、それを目標に実装も取捨選択していく。あくまで努力目標であり想定外の事態が発生すればその限りではないが、予定が定められたことにより効率よく作業ができるようになった。


 そして時が流れ——ついに【バーチャルガーデン】がリリースされる。


「本日9時よりリリースいたします。ダウンロードよろしくね……っと」


 あかりはゲーム公式アカウントから事前告知を行うが反響は少ない。当たり前だ。世界では毎日のように新しいゲームがデジタルな世界を駆け巡り、魑魅魍魎が跋扈する戦乱の市場と化している。


 優れたゲームであっても評価されるとは限らないというのに、優れたゲームかどうかもわからないリリース前のゲームが話題になるはずがない。初動のインプレッションを左右するのは実績とプロモーションがすべてだ。


 幸いにしてこの場にはプロモーションのプロが2人もいる。しかしもはや説明するまでもないことだが2人はあくまで開発グループに所属する大勢(3人)のうちの1人として関わっており、宣伝活動に自身の名は使わない。


 あかりは数少ない反応のコメントやサイトをゆかりとサリーに共有していく。


「うぅ……不安でおやつが喉を通らない。大丈夫かな。みんな遊んでくれるかな……」


「ソファーに寝転びながら何を言ってるんですか。ポテチの音も聞こえてますよ」


 言葉と態度が目の前で矛盾しているあかりを、ゆかりは冗談交じりで咎める。


 ゆかりは現状のゲームに対する反応の数を楽観的に捉えていた。なにせこれまで彼女が好んでいた数々のゲームは反応など皆無に等しい。【マジックファンタジー】なんてゆかりが紹介動画を投稿するまで誰も見向きもしていなかった。


 それに比べれば現状は大ヒットに等しい。彼女の基準では発売前にミリオンセラーが確定しているようなレベルであり、鼻歌を歌いながら【マジックファンタジー】のレベル上げまで始めている。


『リリース前にこんなにだらけてる開発グループってある?』


「配信も、同時投稿されるプロモーションムービーも、全部予約済みですからね。ここまで散々チェックも重ねましたし、リリース後にバグ報告やら苦情やらが飛んでくるまではできることが何もないですよ」


「私は広報頑張ってるけどね。次のアップデートの検討でもする?」


「どちらにせよあと3時間もしたら反響で忙殺されますよ。今ぐらいはまったりしましょう。……シェリルさん、なでなでさせてくださいね」


 右手でコントローラーを構えながら左手で【ジェルラット】のシェリルを鷲づかみにし、ゆかりはゲームをのんびりと遊ぶ。


 あくまでマウスをモチーフにしたキャラクターに過ぎないシェリルだが、【バーチャルガーデン】に実装された追加機能によって現在はARマウスとしての機能を備えている。


 シェリルはマウスとして使われるのが好みらしく、最近のゆかりはコントローラーを手放してでもマウスの同時使用……いわゆる『モンゴリアンスタイル』によるプレイを行っていた。なお【マジックファンタジー】においてこの操作方法を行うメリットは特にない。


「シェリルちゃんかわいいよね。でもうちのさいだ姉妹も負けてないよ!」


 さいだたんとさいだちゃん、それから新入りのアストログラス。飲料担当の三姉妹は部屋中で遊び回るキャラクターたちに飲料を提供して回り、場の雰囲気を癒やしてくれた。


 アイテムからキャラクターへと変化したアストログラスは、追加機能の実装によって、グラスの形状のままぴょんぴょんと跳ねるように妖精姉妹に追従していく。


 2人が【アストログラス】に飲料を注ぎ込み、それを周囲に提供する。それぞれ単独では成立しない作業なためかこの3人は特に仲が良く、何をするにも常にグループで一緒に行動していた。


 そんな仲睦まじい彼女らを、あかりは微笑ましく眺めていた。その動きを追っているだけで、他のキャラクターたちも含めた仲睦まじい姿が次々と目に入り、いくら見ていても飽きないくらいで……。


「わわっマウスが暴走する! うちのシェリルちゃんにサイダーを見せないでください!」


「シェリルちゃんはサイダー大好きだもんね。ゆかりちゃんなんか捨ててうちの子にならない?」


「駄目です駄目です! シェリルちゃんがいなくなったらもうパソコンが操作できなくなっちゃいます!」


『2人は相変わらず平常運転だなぁ。まあ他ならぬ開発者が楽しめるゲームになったのなら、悪くはないかな?』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼ 他のオススメ作品 ▼
【VR】ブレイブファンタジー【神ゲー確実】
掲示板形式で進む謎のVRMMOモノ。
卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!
バグと仕様と環境のインフレを主題とした謎のVRMMOモノ。
サキュバスさんがおうちにやってきた
平和な謎の日常コメディモノ。
これが僕らのMMO!
現実のMMOを主題とした謎のエッセイ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ