82章
81章. 可逆魔法
『……なんて、愚かなんだろう…』
『…表面的な、司祭の言葉に騙されて…』
『先生の本質にも、気づけなかった…』
『……どうして』
『大嫌いなんて、言ってしまったんだろう……』
『 先生、帰ってきて… 』
そう思って首だけになってしまった、
魔導士カシウスに口づけをする。
『 お願い… 』
無意識の領域での祈り。
人間の限界を越えた、集中力。
強力なトランス状態。
カリナは耳鳴りのような、耳孔が詰まったような静けさに突入する。
人智を越えた、その祈りの力が、
大気にランダムに散らばる魔粒子を引き寄せる。
それが、宇宙の時間軸を、
自らの中心に引き寄せていく。
カリナが中心となり、
空気が、大気が、
全ての宇宙空間の中心が、カリナに移り、
魔粒子が渦を巻き、時間が逆巻く(さかまく)。
これはカリナが、一回目でも、時間逆向を経験したことよって、
再び開いてしまった、時空の歪みだった。
『 先生を、返してください 』
多次元宇宙をスライドさせるように、全く違う、結末を望むチカラ。
魔粒子の光の渦が一点に、集中し、
光さえ吸い込むブラックホールと化したかと思うと、
同時に全てが解放された。
失明するのではというほどの、
目も眩むような光が溢れ、そのすぐあと、
漆黒の緞帳を滑り落とすように、暗転した。
眼を開くと、自分が地に臥していて、
なぜか、師匠のカシウスが覗きこんでいる。
「…カリナ……カリナ……」
『今までのは、夢だったんだろうか?』
それでも生きている師匠を認めると、驚いて飛び起きる。
「…先生!!」
カリナはつい嬉しくて、師匠に抱きついてしまう。
「…ど……どうしたの?!」
「……よがっ…だぁ…せぇ…ん…せぇ…」
カリナは、泣きじゃくりながら、師匠を離さない。
「わたし…先生が死んじゃった…って……」
師匠はああそうか、と少し腑に落ちた。
どおりでなにか、強力な魔法の痕跡が残っているのは、そういうことなのかと。
なにか、強力な、次元の違う魔法。
そして、どうやらそこで自分が、死んだらしい事も。
これは時間が逆向したのか、違う平行宇宙にスライドしたのか、
ただ単に身体の欠損が回復し、蘇生したという事なのか、判別は不能だった。
カリナ自身は何が起きたのか、全く分かっていない。
『なんでもいい、先生が生きていれば…』
カリナは思いを強くする。
緊張の糸が切れ、途端に子供っぽい自分が戻ってくる。
「わーん。先生が、生きてて…良かったぁ…!」
カリナは声を上げ、目から涙がポタポタと落ちる。
「ひどいグス男で、…ぐずっ……みんなに嫌われていたけど…っ……」
カリナはしゃくり上げる。
「………スケベで…っ…本当どうしようもない人間でずけどっ……。
…ぐずっ…それでも先生が生きててくれて良かったです。」
「………。」
「ここぞとばかりに、悪口言ってない?」
「どうでもいいけど、コレはこのままでいいの?」
「!?」
「まぁ、私としては、全然構わないけど…」
「…!!!(汗)」
気がついて、カリナはバッと手を離す。
「……あのー。どうでもいいんですが。
…どさくさに紛れて、お尻を揉むのやめてもらえます……?(ピキッ)」
師匠はめまぐるしく変わる、弟子の様子にふっと笑う。
そして、あらためて感心したように呟く。
「私の弟子は大したもんです。」
カリナはキョトンとした。
自分が何をしたのか、よくわからない。
『…まぁ、いちおう、切り札あったんですけどね…。』
師匠はそう思って、天井まで、ぶち抜かれ、
外が見えるほど半壊した、屋敷のホールから、青空を見上げた。
(続く)
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