68章
68.章 料理
深い森に隠された、魔導士の屋敷から、灯りが漏れている。
夕食どき、ダイニングテーブルには様々な
料理が並び、
その前で、弟子のカリナ・オルデウスが腰に手を当て、張り切っている。
「今度こそ上手く出来たはずです。」
そう言って並べられた料理を、師匠に勧める。
「本をみて、その通りちゃんと頑張って作りましたから。」
師匠は緊張感から、顔が引きつる。
「見た目はどうしても……。」
『いや、弟子が頑張って作ったんだ、料理は見た目じゃない。』
一口食べてみる…。
「おぇぇぇぇ…っ。」
師匠はトイレへ駆け込んだ。
弟子のカリナの顔が曇る。
「…ごめんなさい、もう料理は作りません(泣)」
そう言って、かなり落ち込んでいる。
「まぁ。カリナのせいじゃないから。とにかく味覚が違いすぎて、なぁ。」
そう、先生の食べているものは正直、美味しくない。
『作ったものも、気持ち悪い…。』
魔法使いの弟子は考え込み、そこで閃く。
『そうか、先生の食べている物を研究すれば、
きっと先生の美味しいが分かるはず!(←研究大好き)』
とりあえず、先生の作る料理を観察してみる事にする。
「熱した食用油に、ペタ芋の細く切った物を入れる?!それに食塩をかける?!」
「……うわー気持ち悪い…。でも我慢。」
「ルルベの酢漬け…。これも、不味そう。」
作り方、レシピを教えてもらいながら、
自分でも、先生の食べている物を、食べてみる。
「…んーー…。まっずーいぃぃ…」
苦味、塩味、甘味、あと雑味(?)の配分をみて、先生の美味しいを見つける。
『食感…ちょっと手強いです。柔らかければいい、固ければいいというものではない感じ?』
それを、ふむふむとノートに記録していく。
師匠のカシウス・オルデウスは、この世界の食べ物があまりにも不味いので、
屋敷の家庭菜園で少しでも食べられる物を育てている。
もちろん、その家庭菜園も、カリナの研究対象だ。
雨の日も風の日も、菜園で泥まみれで、研究を続けていく。
先生の庭で育てた、玉マンドラは、『タマネギ』というモノに似ているらしい。
他にも、赤ツルドラゴは『ニンジン』にている。収穫は夏である、と。
それらをマロの卵に浸して、薄く切って、食用油で揚げるらしい。
先生の料理は、揚げたり、焼いたり、蒸したり、茹でたり、とにかく、調味料やら何やらで、こねくり回す感じが、全くわたし達の料理と違う。
そもそも、味付けの基本が違いすぎて、全く歩み寄りが出来ない。
カリナは調理場で、夕食の支度を始め、
魔女の大鍋、三つ足のカルドロンをつかいスープをかき混ぜる。
「美味しくなーれ♫美味しくなーれ♫」
とりあえず、民間魔法を唱えながら、料理を作る。
とてつもなく、不味そうだけど、そういうものだと気にしない。
「…できた!でも、味見はしません!」
『多分、コレでいいはず。』
盛り付けも、なんか変だけど、コレでいいらしい。
「さぁ、先生どうでしようか?」
「どうでしょうか、と言われても…。」
キラキラした目で、師匠が食べるのを待っている。
「じゃ、一口だけ。」
「もぐもぐ…。」
「………………。」(飲み込もうと頑張る。)
「………ゔー!!……!!水…!水…!」
「……ど…どうぞ!!」
カリナは慌てて水を渡す。
「ゴホッ……ゴホッ……ちょっと、キツイ。」
師匠の様子を見て、カリナは涙目になってくる。
「………ごめんなさい…」
カリナは、またしても、消え入りそうな声で謝った。
─料理の研究を始めてから、3週間。
そろそろ、師匠は《料理の研究》に付き合ってくれなくなりそうだ。
「もう美味しんだか…不味いんだかわからなくなってきました…」
「もう、最後は奥の手!」
「誰が食べても、動物が食べても、美味しく感じる、魔法の薬!!」
そう言って魔法薬『ミスティック・ティア』の粉の入った、薬瓶を眺める。
「この粉を入れると、どんな物もたちまち美味しく感じる。……らしいんだけど…」
そう言いながら、魔術書をパラパラとめくる。
「説明書によると…《注意!》ただし、体に害はないが、たくさん摂取すると、思わぬ症状が…。???」
魔女の鍋カルドロンには、ぐつぐつとスープが煮えている。
「よくわからないけど、たくさん入れてはダメなんですね。」
「了解しました。」
そう呟いて、鍋にむかう。
「……あっ!!」
ところが、カリナは瓶ごと料理に落としてしまった。
「ど…ど…どうしよう。」
「とりあえず、薄めましょう!」
出来上がった料理を見ながら、戦々恐々としている。
「えーと……どうかなぁ。ちょっとだけ、大丈夫か試してみましょう!」
カリナは一口味見をしてみる。
「……んー。美味しっ!」
「モグモグ……止まらない。止まらない、美味しさ!」
「あっ…アレ?なんかボーッとして…。」
そう考えて、窓を見ると、もう夕飯の時間が近づいていた。
「あ……そろそろ、テーブル用意しなくちゃ。」
カリナは、それでも、だんだんと罪悪感を感じはじめる。
「先生……本日もお願いします…」
「まだ…やるの?」
「…あの、……すみません……。」
「はぁ…(ため息)」
先生はこわごわ、口をつける。
「じゃ、今回だけ…」
「もぐもぐ…。」
「…んー。……!!!全然、喰える!」
「というか、それなりに、美味しい。」
「……良かったです…(ホッ)」
カリナはとりあえず、誤魔化せて安堵している。
しかし、罪悪感がもの凄く、とても生きた心地がしない。
「頑張ったね、偉い。偉い。」
師匠は、苦笑しながら、カリナを誉める。
『あの薬はもう2度と使いません、先生ごめんなさい…』
カリナは罪悪感を誤魔化すため、手元の紙にむかう。
今後のデータのため、紙にとりあえず今回、分かったことを書いていく。
先生は背後から近づき、カリナを後ろから覗き込む。
「…どう…しましたか?」
そして、チュッと額にキスをされる。
「頑張ってくれて、ありがとう」
師匠のカシウスはそう言って少し顔が紅くなる。
カリナは頭がボーッとしはじめ、ますます、居たたまれなくなる。
「…本当は……なんれす…、ごめん…なはい…」
カリナは褒められて、ますます涙目だ。
「…………???。」
「……先生…ごめ…んな…はひ…。」
師匠は、カリナの様子のおかしさに気づいて、声をかける。
「もしかして、酔ってます?」
カシウスは、ゴミ箱の空になった薬瓶を見つける。
「…あっ!…こんな物使って!」
カリナの使っていた、空ビンを拾い上げる。
「全く…。魔法の催淫薬を使ったんですね…」
そう言って、カリナの手元の魔術書に、目を落とす。
【《注意!》ただし、体に害はないが、過剰に摂取すると、思わぬ症状が起こります。特に、薬の媚薬、催淫効果で、幻覚を見たり、非常に性的に積極的になります】
「…ならほど、催淫薬が神経に作用して、味覚変化を起こして、味付けを美味しくしようとした訳ですね。」
そう言いながら、寝室にカリナを、横抱きで運んでいく。
「…もう、おかしな魔術書を信じてはダメですよ」
ベットに寝かされながら、カリナは寝言でつぶやく。
「…ごめん…なは…ぃ…
…もう…2度と…しま…へぇん…(眠…)」
寝言で謝罪を繰り返す、弟子を見下ろす。
「そんなに無防備だと、襲ってしまいますよ……」
そう言ってキスをした。
あとがき
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