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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第三部
104/135

19 対抗戦 開始



 対抗戦の日がやってきた。

 校庭では、試合に先立って各クラスの応援合戦が始まっている。対抗戦の前哨戦とあって、どのクラスの応援にも力が入っていた。

「おい見ろ! あれがチアガールだぞ、マナブ!」

「おお! あんなに大胆に脚を振り上げるとは! 素晴らしい!」

「やっぱチアガールと言えばポニテだな!」

「おおおお!? 今下着が見えましたぞ!」

「バーカ、あれはアンダースコートって言って、見えてもオッケーなんだよ。でも、見せてもいいってわかってても、いいモンはいいよな!」

「まったくですな!」

 鼻息をふんふん言わせながら女の子たちを凝視するフィルとマナブに、ヨウとカナメが苦笑する。試合前ということで、ヨウたちは一緒に応援合戦を見物していた。

「この後はいよいよ対抗戦だね。お互いに勝ち上がれば、決勝で当たれるね」

「さすがヨウ君、負けることなんて全然考えてないんだね。もちろん、僕たちも勝ち上がって、そしてヨウ君のチームにも勝ってみせるよ」

「カナメ君なら大丈夫だよ。僕のクラスのAチームもとっても強いと思うけど、がんばってね」

「クジョウ君のところだね? 強敵だけど負けないよ。ヨウ君も、一回戦はうちのクラスのBチームだよね。僕たちに劣らず強いチームだけど、がんばってね」

「ありがとう、絶対勝ってカナメ君と戦うよ!」

「僕も期待してる! お互いがんばろう!」

「うん!」

 二人が健闘を誓い合っているその横では、相変わらずフィルとマナブが応援合戦に熱いまなざしを注いでいた。

「おっ? お次はバニーガールかよ!スゲえ! って、おえええっ!? おい、ふざけんな、野郎が混じってんぞ!?」

「げえええぇっ! それがし、男の尻をガン見してしまったですぞ!」

「汚ねーモン見せんな! くそっ、女の子の中に混じってるからタチがりぃ!」

 その後も応援合戦は順調に進行し、最後のクラスが終わるといよいよ対抗戦の準備が始まった。


 対抗戦は二日にわたって行われ、初日に一回戦と二回戦、二日目に各学年の決勝と、今年特別に取り入れられた学年別優勝チームのトーナメント特別戦が行われる。

 従来は初日に一回戦、二日目に二回戦と決勝が行われていたが、今年は特別戦が行われる関係で初日に二戦行われることになった。これが各チームにどのような影響を及ぼすかも、一つの見どころとなりそうであった。

 校庭の三か所に闘技スペースが設けられ、各スペースで一年から三年までの対戦が行われる。一回戦と二回戦は全学年が一斉に試合を行い、決勝戦は各学年ごとに一試合ずつ行われることになる。

 そのようなシステムを採用しているため、一回戦と二回戦は観客の偏りが大きくなりがちであった。特に注目のカードがあったりすると、それ以外の会場ががら空きになる、などということも珍しくなかった。

 応援合戦も終わり、いよいよ対抗戦が始まるということで、ヨウたち出場者はそれぞれの会場の脇に控え、あるいは観客に交じって観戦していた。

 一年生の一回戦はA組Aチーム対B組Aチーム。B組は優勝候補の一角と目されているカナメのチームだ。ヨウたちとしては、絶対に見逃せない一戦である。

 だが、一年生の会場には人がまばらだった。というよりも、出場者と審判、進行係やクラスメイト以外の姿がほとんどない。

 そのクラスメイトも、かなりの人数が欠けている。A組などは、ひょっとすると半分もいないのではないかというありさまだった。

 見れば、三年生の会場も人があまりいないようだ。それどころか、さっきから隣のチアキが心ここにあらず、といった様子で二年生の会場の方をちらちらと見ている。

 その二年生の会場には、生徒が山のように押し寄せて人だかりができていた。確実に三百人以上はいるのではないか。皆が今か今かと何かを待ち焦がれているのが、ヨウのところからも見て取れる。

 そして、観客の目当ての人物が現れた。

 チームメイトの二人と共に、一人の女子生徒が会場へと入っていく。風になびく艶やかな黒髪と愛らしい瞳、桜色のふっくらとした唇。観客の大歓声の中を、微笑をたたえながら悠然と歩くのは、生徒会会長ノリコ・ミナヅキその人であった。

 ノリコの登場に早くも熱狂する会場を見つめながら、チアキが実に羨ましそうな顔をする。

「ああ……見たい見たい見たい見たい! 会長の雄姿! どうして試合時間をずらしてくれないのかしら! 私だって見たいのに!」

 ヨウとシズカが、顔を見合わせながら苦笑する。

「チアキ、こっちは僕たちが見ておくから、あっちを見に行ってもいいよ?」

「ダ、ダメよ! 私たちはきっちり優勝して、特別戦で会長と戦わなければいけないんだから! 私だけあちらを見に行くなんて許されないわ!」

「真面目だね、チアキちゃん」

 シズカが微笑する。きっと今チアキの中では、ノリコを応援に行きたい気持ちとチームを優勝させてノリコの期待に応える使命感とが葛藤しているんだろうな、と思いながら、ヨウは視線を横に移した。

「まったく、会長はホントスゲえよな」

「ですな。ですがこれではちとカナメ殿がかわいそうですぞ」

「しょうがねーよ、やっぱ会長見たいもんな。でもお前のクラスの奴はエラいよ。結構残ってんじゃん。A組の方は半分くらいしかいないぜ?」

「そのあたりはカナメ殿の人徳でしょうな。聞けばA組のリーダーはおなごばかりはべらせて、男子からは評判悪いらしいですぞ」

「あ、だからA組は女の子ばっか残ってるのか! けっ、イケメン野郎が! 死ね!」

 さっきから、なぜかマナブがB組のところではなくこちらにいる。観客席だからどこにいようと構わないのだが、クラスの方には帰らないのだろうか。

「ところでマナブ、お前さっきから何でこっちにいるんだ?」

「それはもちろん偵察のため……ではなくですな、こうして別の視点から見ることであちらからは見えないものも見えてくるものなのですよ」

「なるほど! お前頭イイな!」

 今何か聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするけれど……。ヨウがマナブに話しかけようとしたとき、会場に出場者が入ってきた。

 先ほどまで落ち着かなそうにそわそわしていたチアキが、少し前に乗り出す。

「いよいよね。カナメのチームの実力、しかと見届けてやろうじゃない」

 ヨウも意識をそちらへと戻した。

「そうだね。リーダーのアライ君の力も見ておきたいし、しっかり見よう!」

「うん!」

 ヨウの言葉に、シズカが元気にうなずく。

 会場にはすでに両チームの選手が入り、係の生徒に何かを手渡されたりと対戦前の準備を始めている。

 今年の対抗戦の初戦が、いよいよ始まる。胸の高鳴りを覚えながら、ヨウはじっと会場を見つめていた。




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