第10話 犯人捜しはしたくないソフィ
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メイドはヘレンという名前だった。とても自信たっぷりにマリエッタ様を指さしている。だとすれば、お部屋に入ったことは事実なのかもしれない。
「マリエッタ様は私の部屋に入ったのかしら?」
「・・・・・・はい、入りました。ごめんなさい。お姉様とお話がしたくて訪ねていったのですけれどいらっしゃらなくて、ドアも少し開いていたのでつい覗いたら、あんまり素敵なお部屋なので中に入って見とれていました。でも、それだけです。なにも触っていません」
彼女の話は信じられた。私のことを恨む理由もないはずだし、今では一緒に過ごす時間が一番長い。ドレスを切り裂く必要はないのよ。
「ヘレン。マリエッタ様が私の部屋の中に入ったのを見ただけで、私のドレスを切り裂いたところを見たわけではないでしょう?」
「マリエッタ様がやったのに決まっています! とても我が儘で今まで散々威張ってきたのですよ? 自分よりも身分が上でお金持ちのソフィ様が入ってきて、絶対に嫉妬したに決まっています」
「ヘレン。私はマリエッタ様よりも決して身分が上ではないわ。出自はシップトン国のラバジェ伯爵家ですから。ただ伯母様がビニ公爵夫人なだけです」
「ビニ公爵夫人の姪御様で、それだけ大事にされているのなら公爵令嬢と変わりません。メドフォード国の他の公爵家には、男性の子供しかおりませんから、ソフィ様と同じぐらい高貴な女性はほとんどおりません」
「ソフィ様。マリエッタ様に騙されていらっしゃるのですわ。彼女はとても意地悪な嫉妬深い令嬢なのです」
マリエッタ様に意地悪をされた令嬢達も、メイドのヘレン側に立っていた。
まだ、恨んでいるのかしら? マリエッタ様は心から謝罪をしていたのに。
そのようなことを言ってくる方達の方こそ、マリエッタ様をよく知らない方達だ。彼女と知り合ったのは最近だったけれど、このような陰湿なことをする方ではない。
けれど、目撃情報とマリエッタ様自身が私の部屋に入ったことを正直に言ってしまったせいで生徒達の半分がマリエッタ様を疑いの眼差しで見た。
「もう犯人を捜すのはやめましょう。誰がやったにせよ、今回だけはお咎め無しに致します」
「どうしてですか? ソフィ様。私、許せません! マリエッタ様は最初の日、ソフィ様にあれだけ暴言を吐いたのですよ」
涙ながらにヘレンは訴えかけてきた。なぜ、彼女が泣くのかわからない。私は今では気にもしていないのに。
「お気持ちは嬉しいですが済んだことです。それから、私はこの学園ではあまり問題を起こしたくありません。ボナデア伯母様を心配させますもの」
ただ、ドレスが台無しになってしまった理由は言わなくてはいけないかもしれない。ボナデア伯母様はとてもがっかりなさるだろう。ボナデア伯母様を悲しませたくないのに。
☆彡 ★彡
週末が訪れた。私を迎えにビニ公爵家からお迎えの馬車がやって来た。修道院を去るときに乗った馬車より、さらに豪奢な馬車に圧倒された。車体は壮麗な装飾品で飾られ、ダイヤモンドやサファイア等の宝石が埋め込まれていた。窓枠は鍍金され、王家と公爵家のエンブレム入りの純金の飾りが馬車の高貴な雰囲気を一層引き立てていた。
扉が開かれると絢爛な絨毯が広がり、柔らかな感触が足裏を包み込む。壁は上質なシルクで覆われ、金箔が施された彫刻が美しく浮かび上がっていた。さらに馬車の中ではルビーやエメラルドで飾られたシャンデリアが輝き、細かなクリスタルが光を反射していた。
座席は最高級の革で作られ、ふわふわのクッションが身体を包み込む。ゴールドの装飾が施されたテーブルには、上品な食器と食花で添えられた小さなケーキが用意され、お茶を楽しむためのティーカップとティーポットが置かれていた。
ゴッサム修道院に迎えに来てくださった時に、ボナデア伯母様が目立たない馬車で来た、とおっしゃった意味がわかった。
「ソフィお嬢様。スザンナと申します。本日から、よろしくお願い致します」
ビニ公爵家の侍女が馬車の横で待機しており、私の専属侍女になると挨拶をしてきた。スザンナは黒髪で瞳は琥珀色だった。上品で美しい容姿を持ち、公爵家の侍女らしく控えめながらも優雅に見えた。そのような女性からとても丁寧にお辞儀をされ、私はどうしていいかわからない。ラバジェ伯爵家の侍女よりずっと洗練されていて、自信と風格に満ちていたのよ。私が馬車に乗り込み席に座ると、すぐにビニ公爵邸に向けて出発したのだった。
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