第八話【ファイナルステージ】
ファイナルステージ。
赤いツタのような模様がいくつも描かれている黒の床。
禍々しい紫色の壁。
赤色の柱。
真っ黒の天井。
正面には、赤っぽい紫色の巨大な扉が待ち構えていた。
無音で何も聞こえない。
「これは……やばいな」
「やばいですね」
「とりあえず勝負は俺の勝ちだ。どう見てもオリハルコン部屋より魔王城のほうが近いし」
「そんなことどうでもいいです。ここ、めちゃくちゃ怖くないですか?」
「こいつ。負けたと思った瞬間、話題をそらしやがった」
「違います」
「にしてもマジですごいな。本当にファイナルステージって感じがする」
「正直私……進みたくないです」
瑠璃は後ろを振り返りつつ、返答。
「残念ながら転移用のクリスタルはない。完全に行き止まりだ」
「なんでそんな嬉しそうに言うんですか!」
「だって進まないとこのまま飢えて死ぬんだぞ。ワクワクしないか?」
「全くしません」
月は即答した。
「さて……。もう扉を開けたいんだけど、心の準備はOK?」
「決して良くはないですが、このままここで立ち止まっていても何も始まらないですし。……行きましょう」
「了解」
瑠璃は巨大な扉をゆっくりと押していく。
「あれ? 壊さないんですね」
「最後のステージというからには、何が起こってもおかしくないだろ? だから最下層へたどり着くまでは慎重に行こうと思う。あり得ないかもしれないけど、ドアを攻撃してダメージが反射されたり、地面を壊し続けて底なしの次元のはざまとかに落ちる羽目になるのは嫌だからな」
「確かにあり得ないとは思いますが……次元のはざまのやつは想像したらめちゃくちゃ鳥肌が立ちました」
「ま、敵が出てきたら容赦なく殺すけど。こんな感じで──」
そう言いながら、瑠璃は上空から襲ってきた紫色の羽が四つ生えているコウモリを殴って消滅させた。
「あ、敵は弱いんですね……って、何ですかこの部屋!?」
扉の先に広がっていたのは、まるで生物の胃袋のような空間だった。
床、壁、天井全てが赤っぽい紫色でぷにぷにしており、所々に青色の筋のようなものが通っている。
更にどこからともなく、くちゃくちゃという音が聞こえてくる。
「なんか、生臭いぞ」
「はい……。湖の魔物の死体を地上で丸一日放置した時みたいな臭いがします」
「妙に的確だな。さすがはにおいのプロ」
「誰がですかっ!」
「で、どっちに進む? 右の通路か左の通路か。それとも部屋の中心にある地下へと続いている階段か」
「う~ん。私としては階段ですかね」
「じゃあそうしよう──」
「──もし仮に変なところへたどり着いても、私のせいにしないでくださいよ?」
「…………もちろんだ」
「今の顔。絶対する気でしたよね?」
「俺がそんなことするはずなるだろ」
「あるのかないのかどっちなんですか」
「そんなことするはずあいって」
「【ある】と【ない】を配合しないでください」
「要するにだ。俺の月に対する気持ちは、愛ってことだ」
「ちょっと上手くて嬉しいことを言われたので、許すことにします」
「ありがとう。はぁ、助かった」
「……やっぱりする気だったんですね」
「というわけで階段を下りていこう」
「もし変なところへたどり着いた場合、瑠璃さんのせいにしますから」
「いや、どっちのせいにするとかいう考えはもうやめないか? 俺と月は二人でひとつだろ」
「えっ」
「将来一緒になるんだから、正解も間違いも全部共有していこうぜ」
「……う〜ん。なんか納得がいきません」
そんな会話をしつつ、二人はぷにぷにした紫色の階段を下りていく。
30秒ほど進んだ所で、壁から突然魔物が出てきた。
「ひゃっ!? ……気持ち悪いです」
全長五メートルほどの黄色い芋虫。
舌がとてつもなく長い。
「おい、月を不快にさせるな」
瞬間、芋虫が破裂して殴った方向へと液体が吹き飛んでいく。
かなり手加減したパンチのため、周りの壁が壊れることはなかった。
「瑠璃さんってやっぱり力の調節が上手いですよね」
「だろ? 俺は世界一手加減が得意だと自負している。正直、レベルがカンストして以降まだ一度も本気を出していないし、マジで一回暴れてみたいけどな」
「やめてください。多分地球そのものに影響が出ます」
「それは言いすぎだろ……と否定したいところだが、なんか一日くらいあれば壊せそうな気がする」
「私はとんでもない人と一緒にいるのかもしれません」
「とんでもないのは月もだろ。一週間くらいあれば地球を壊せるんじゃないか?」
「どうでしょう? 想像がつきませんし、そもそもやりたくないです」
「それは俺もだ」
「あ、行き止まりですね」
正面を見ながら月が言った。
ぷにぷにの物体で階段が閉ざされており、代わりに真っ赤な宝箱がひとつ置いてある。
「一応私のほうが罠の知識があるので、まず確認させてください」
「おぉ、珍しいな」
「もっとも、瑠璃さんに普通の罠は通用しないでしょうけど、今回はファイナルステージなので」
「確かに。月にしてはまともな意見だ」
「私はいつもまともです」
そう言いつつ月は宝箱のそばへ移動し、観察していく。
裏の蝶番に何も仕掛けられていないか。
なかから変な音がしないか。
それから、正面の止め金具を念入りに見つめて頷く。
「大丈夫そうですね」
「じゃあ俺が開けてやるよ。もしなかに凶悪な罠が仕掛けられていたら危ないし」
「まあ、ステータスの高い瑠璃さんが開けたほうが安全ですよね。というわけで、お願いします」
「おう。任せとけ」
瑠璃は何の躊躇いもなく開けていく。
「おぉ……」
「へぇ……」
なかには、一本の剣が入っていた。
青い取っ手に銀色の鍔。
透明な刃の中心には、水色の一本線が引かれている。
「かっこいいな」
「これ絶対すごい性能の剣ですよ」
「俺は別にいらないけど、月使うか?」
「いえ、私も必要ありません。逆に戦いにくくて戦闘力が落ちそうです」
「じゃあアイテムボックスにしまっておくぞ」
「はい」
瑠璃は透明な剣を収納し、月とともに階段を戻っていく。
実はこの剣、ダンジョンに存在するなかで一番切れ味が良い武器なのだが、今後使われる機会が訪れることはないだろう。




