第二話【やばい】
瑠璃と月は、秋葉原にあるダンジョンの入り口前へとワープさせられていた。
今は夕暮れ。
いつも通り人口密度が高い。
先ほどアナウンスがあったせいか、普段よりもざわざわとしている。
偶然近くにいた空蝉が二人の姿に気づくなり、走って近づき始めた。
「おい、二人とも。さっきのアナウンスの原因は……確実にあんたたちだよな」
「──ほら、何も出てこなかっただろ? というわけで勝負は俺の勝ちだ」
「むぅぅぅ。なんでわかったんです?」
「勘だ」
「……てっきり四次元の思考回路だからって言うのかと思っていました」
「俺がそんな無意味に四次元を連発すると思うか?」
「いつもしてますけどね」
「……えっ、嘘だろ?」
「残念ながら本当です」
「まあ、細かいことは気にすんな」
「都合が悪くなったら逃げられるのも、もう慣れました」
「で、お前何の用だ?」
瑠璃が空蝉のほうを向いて尋ねた。
「はぁ、やっとか。……で、フォースステージをクリアしたのは、間違いなくあんたたちだよな?」
「まあな」
「やっぱり……。俺はサードステージの湖のある階層に籠ってかなり特訓したから、そろそろいけるだろうと思ってフォースステージへ挑戦する直前だったんだが、すごい偶然だ」
どうやら彼はここ数年、ネッシーなどの凶悪な魔物が出現する第31階層でレベル上げをしていたらしい。
「そうか。それはよかったな」
「それで興味本位で尋ねたいんだけど、フォースステージは全体的にどんなダンジョンだったんだ?」
「やばかった」
瑠璃が即答した。
「……それだけ? もっと具体的にないのか?」
「やばいとしか言えない。……なぁ、月」
「はい。やばい以外の言葉が出てこないですね」
空蝉は首を傾げつつも口を開く。
「う~ん。やばいと言われてもわからない。何がどうやばかったんだよ」
「やばい階層たちがほぼ全部やばかった。だからやばいんだ」
「私が経験してきたなかで、上位を争うレベルの階層ばかりでした。それくらいやばいです」
「はぁ……もういい。やばいというのは充分に伝わった。気を引き締めていくことにしよう」
「おう、がんばれ。……それで月。さっきフォースステージの階層のやばさが上位を争うって言っていたけど、鳳蝶月が選定するダンジョンのやばさランキング、ベスト一位はどこなんだ?」
軽く流し、瑠璃は彼女に尋ねた。
どうやら空蝉のことよりも、月との会話が大切らしい。
「一番やばい階層ですか……。それはもちろん、セカンドステージの異空間の罠ですね」
「ああ、あれはやばかった。結局俺は十年近く閉じ込められていたし」
「はい。私も七年か八年くらいはいたような気がします。……逆に瑠璃さんはどこが一番やばかったんです? やっぱり私と一緒ですか?」
「確かに時間を無駄にしたっていう観点からみると、異空間がやばかったな。だけど死にそうにはなってないし。総合的なやばさを考えると、まあファーストステージ全般だ」
「あー、いろんな武勇伝を聞きましたけど、大体やばいですもんね」
「やばい、がゲシュタルト崩壊してきたからもうやめてくれ」
ふいに空蝉が口をはさんだ。
「あれ、お前まだいたのか」
「あんたたちが言うやばいフォースステージとやらに挑戦する前に、別れの挨拶をしておきたかったんだよ」
「じゃあな、空蝉」
「またどこかで会いましょう、空蝉さん」
「相変わらずあっさりしているな。……ま、いいや。またな二人とも! ファイナルステージへ行くなら、気を引き締めていけよ?」
「いや、俺たちのことよりも自分の心配をしろよ」
「ははっ。それもそうだな」
そう言い残して、空蝉はフォースステージの入り口へと向かっていく。




