第三十七話【空蝉 終】
「あいつ、剣を構えて近づいてくるってことは、やってもいいんだよな?」
瑠璃が不機嫌そうに言った。
「ちょっと待ちましょうよ。警戒しているだけでしょうし。まずは話を聞いてみませんか?」
「月に任せる」
「任されます」
「その代わりお前に何かありそうだったら、俺は容赦なくあいつを殺すからな?」
「その時はお願いしますね」
月は微笑んだ後、未だ遠い位置にいる金髪の男性に向かって話しかける。
「あのぉー。私たちに何か用ですかぁ?」
「……」
金髪の男性は無言で近づいてくる。
「月の問いかけを無視しやがった」
「もう少しだけ堪えてください。私は瑠璃さんに人を殺してほしくありません」
「まあそれは俺もだ。確証はないが、人は殺しても経験値にならなさそうだし、何より好きで同族を殺したいと思わない」
「ならよかったです。瑠璃さんにも人間らしい感情があったんですね」
「おい、それはどういう意味だ」
「そのままの意味です」
「お前ら。冒険者か?」
かなり近づいてきた金髪の男性が、剣を構えつつも尋ねてきた。
「はい。私たちは二人とも冒険者ですけど、あなたは何者ですか?」
「俺は蓋世三兄弟の、空蝉だ」
「えっ……あのレベルランキング三位の人です?」
「ああ」
彼は空蝉終。
現在レベルランキングの第三位にして蓋世三兄弟の団長である。
他二人の団員は数年前に突然ランキングから姿を消したため、実質ソロ活動のようなものだ。
「逆にお前らは何者なんだ? このサードステージにいるくらいだから、ランキング上位に乗っているやつか?」
「はい、私たちは──」
「──私の指輪を返せ」
突然そんな声がしたかと思えば、瑠璃たちの目の前に魔女王が現れた。
まるでワープでもしたかのような出現方法に、月と空蝉が驚きの表情を浮かべる。
「ひゃっ! ま、魔女王」
「お……お前!? なぜこんな所に」
魔女王はそんな二人を無視し、瑠璃のすぐそばまで近づいていく。
「おい、そこの小柄な男。盗んだ指輪を今すぐ返すなら殺すだけで済ませてやる」
瑠璃は無表情で返答。
「ちなみに返さなかったらどうなるんだ?」
「殺すことなく、死よりも辛い痛みを与え続けてやる」
「面白い。やってみろ」
「馬鹿やめろ! お前、魔女王がどれだけ恐ろしいかわかっているのか」
なぜか空蝉が言った。
すると魔女王はそちらを振り向き、口を開く。
「その声は……空蝉か? 久しいな。元気にしていたか?」
「うるさい。お前に仲間を二人殺されたせいで、次の階層へ進めずにいるんだよ!」
「うふふ。あんなしょうもない子たちのことなんてどうでもいいじゃない。あなたは私の好みの子なんだから早く一緒になりましょう」
「その気は一切ない!」
「ま、私はあなたの気が変わるまで待ち続けるだけよ。あまり恋愛関係を力ずくで解決したくはないもの」
魔女王の話によると、どうやら彼女は空蝉のことが好きらしい。
そのため彼だけを殺さずに生かしているのだろう。
「俺は早くレベルを上げてこの階層からおさらばする。殺さなかったことを後悔するんだな」
「どうせあなた程度がいくらレベルを上げたところで次の階層は無理よ。それは自分が一番わかっているのでしょう?」
「うぐっ、だから今必死に特訓をしているんだ」
「私のもとにくればそんなことをせずとも強くしてあげるの──」
「──なぁ、死よりも辛い痛みを与えてくれないならもう行くぞ? なんかめんどいし」
瑠璃が空気を読まずに横入りした。
その瞬間、魔女王の表情が一気に暗くなる。




