第二十五話【婚約】
抱きしめ合った状態で三分ほど沈黙が続いた。
先に口を開いたのは瑠璃。
「月。絶対俺の顔見るなよ」
「なんでです?」
「多分赤いから」
「じゃあ私のも絶対に見ないでください」
「……うん」
「……」
「ちなみにだけど、月って今まで誰かとこんなことした経験ってあるのか?」
「瑠璃さんが初めてですよ。そもそも学校とかで男の子と喋ったこともなかったですし」
「俺と同じか」
「そういえば瑠璃さんって、幼馴染とか妹とかいましたか?」
「いや、どっちもいないけど。それがどうしたんだ?」
「漫画やアニメとかだと、男の子ってよくそういう女子と結ばれることが多いんですよ」
「幼馴染はありだとしても、血のつながった妹と結ばれるって頭おかしいんじゃねぇの?」
「そういうものですか?」
「普通の考えだろ」
「……あの、瑠璃さん」
「なんだ?」
「興味本位で聞くんですけど、将来結婚する気ってありますか?」
「ある」
瑠璃は即答した。
「へぇ……」
「けど今はまだしない」
「えっ?」
「ダンジョンを創ったやつに会うまではする気ないから」
「あー、そういうことですか」
「神様か誰かは知らないけど、ダンジョンを創ろうと思った理由を聞いて、月の親のお墓に連れていって土下座させて。……お前と結婚するのはそれからだな」
「私と結婚することは決定事項なんですか?」
「うん」
「……」
「ま、もし嫌だったらその時に断ってくれたらいいよ。俺は月のことを世界で一番大切だと思っているけど、人生を強制する気はないし」
「今のまま行けば承諾すると思います」
「今のまま行けば?」
「今後瑠璃さんが無茶をし過ぎて死んだりしたら、絶対にOKなんて出しませんから」
「安心しろ。俺を殺せるやつはいない」
「それがわかってても、瑠璃さんの生き方は怖いんですよ」
「だったら月が後ろから支えていてくれないか?」
「え……」
「それでさ。これからずっと側にいてくれ」
「……あれ? まさか今プロポーズしてます?」
「いや、まだしてない」
「なんかセリフがめちゃくちゃそれっぽいんですけど」
「そういうのはダンジョンを完全制覇した後って言っただろ?」
「だったら紛らわしいこと言わないでくださいよ」
「……そういえば、最近ずっと疑問に思っていたことがあるんだけど」
「何事もなかったかのように話題を変えましたね。……疑問ですか?」
「ああ。気になって眠たくても寝れないことがあるくらいだ」
「あの瑠璃さんがそこまでなるって、相当ですね。どうしたんです?」
「結婚式を挙げて何日くらい経ったら、子どもを授かることができるんだろうな」
「……はい?」
「コウノトリだってずっと人間全員を監視しているわけじゃないだろ」
「……」
「三日くらいかな?」
「…………知りません」
「まあそうだよな。月だってまだ結婚したことないし、わかるわけないか」
「……」
彼女は本当のことを教えるべきかどうか悩んでいた。
だけど言うのは恥ずかしいし、そもそもどう説明していいかもわからない。
「ま、結婚してからでいいですよね」
月はそうつぶやいた。
「何が結婚してからなんだ?」
「なんでもないです」
それから三十分ほど添い寝をして二人とも気が済んだらしく、ダンジョン攻略を再開する。
土の壁を壊してもうひとつの分かれ道へと合流し、五分ほど走り続けていると、階段を発見した。
「この階層は結構楽だったな」
「そうですか? なんか体感時間が異常に長く感じたんですけど」
「ベッドの罠にかかったり、添い寝したり、いろいろとあったからだろ」
「ですね」
そんな会話をしつつ、階段を下りていった。




