Episode.11
今までの経緯をおおよそ理解し、新たなページを捲ろうとしたタイミングで、ふいに嫌な予感がした。
月が周囲を確認すると、隣に男性が立っている。
彼がメモ帳に書かれていた夫の瑠璃だろう。
であれば無害なはずなのだが、月は本能的に立ち上がって彼から距離を取った。
「おい、なんで途中でやめるんだよ」
「も、もう状況は大体理解できたので」
「それでも一応最後まで読もうぜ」
「…………なんでそんなに読みたいんですか?」
「メモを読めばわかると思うぞ」
「……はぁ」
メモをアイテムボックスに収納する月。
「ったく、仕方のないやつだな」
「…………あなたは私の夫なんですよね?」
「そうだが?」
「ならどうして不審というか、私が嫌がるような行動を取るんですか?」
「俺としてはいつも通り接していただけで、そんなつもりはなかったんだが」
「…………私は認知症なので、見おぼえのない方からいきなりグイグイこられるのは不愉快です」
「……それは俺の配慮不足だった。すまない」
「もういいです。私もあなたが夫だと思うように頑張りますので」
「ああ」
「…………で、これからどうしますか? メモ帳のおかげで大体の状況は理解できたんですけど、かなりややこしいことになっているみたいなので、どうすれば絶対神さんとやらに会えるのか、想像もつきません」
「同じく。定期的に景色が変わる意味不明な世界だから、どうしようもないというのが本音だ」
「……ゲホッゲホッ、ゴボッ」
月は突然、大量の血を吐いた。
「おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫……じゃないかもしれないです。実は起きた時からずっと身体が寒くて」
楽園にいた頃は病に蝕まれる速度よりも、レベルアップによって身体が強くなる速度のほうが上回っていたため、むしろ体調自体は徐々によくなっていたのだが、この世界にやってきて以降まだ一度もレベルが上がっていないせいで、再び悪化してきているのだ。
「しんどいなら無理しなくてもいいぞ。しばらくここで休むか?」
「……気持ち的には行動したいですけど、身体的にちょっと休みたいです」
「了解。俺のことは気にせず、ゆっくりしてくれ」
「ゲホッ、すみません」
月はその場に座り込み、しばらくの間ぼーっと正面を見つめる。
数分後。
月はアイテムボックスを開いた。
同時に瑠璃が覗き込んでくる。
彼女はそのことに気づきつつも、無視してアイテムボックスの画面をスクロールしていく。
やがて月は、複数の衣服を取り出して作った敷き布団の上に寝転がった。
更に上から厚めのローブを掛けることによって、かなり寒さが軽減される。
そのおかげで、徐々に眠たくなってきた。
「……おやすみなさい」
「おう、おやすみ」




