第十六話【一年後】
瑠璃と月が第31階層目でレベル上げを始めて一年が経った。
「瑠璃さぁ~ん。そろそろ先に進みませんか? 私もうこの階層飽きました」
月が水面から顔を出しつつ言った。
瑠璃も水面へと浮き上がって答える。
「えー。せっかく月も湖の魔物を倒せるようになってレベル上げの効率が良くなってきたのに」
「それはそうですが。……瑠璃さんはずっと水中にもぐり続けてよく飽きませんね」
「俺の趣味はレベル上げだからな。よっと!!」
瑠璃は、下から襲ってきた巨大な魚を足で蹴り飛ばした。
二人の頭上にレベルアップの音が響く。
「ほら、まだまだ倒すたびにレベルが上がるし、今後こんないい環境があるとは限らないだろ」
「それもそうですね。じゃあ一体倒しても瑠璃さんのレベルが上がらなくなったら先に進みましょう」
「まあ言われなくてもその予定だったけど」
「めちゃくちゃ自分勝手ですね」
「いや、嘘だって。……それに月のレベルアップも手伝っているわけだし、俺は意外と優しいと思うんだが」
「それに関しては本当に感謝しています。ていっ!」
月はそんな声を上げて、近づいてきていた巨大なウツボを蹴り飛ばした。
レベルアップの音が響く。
「にしてもお前強くなったな」
「この一年くらいで急成長しましたから。あと、この湖の魔物たちがすごい経験値を持っているっていうのもあります」
「俺の感覚からすると、多分こいつらの経験値は白竜くらいあるぞ。だからここはめちゃくちゃレベル上げの効率がいい」
「私もそんな気はしていました。でも、先に進んだらもっと効率の良い場所が見つかるかもしれませんよ?」
「いや、絶対にない」
「なんでそう言い切れるんです?」
「四次元の思考回路にたどり着けたらわかる」
「はぁ、またそれですか……。いい加減そこへのたどり着き方を教えてほしいものです」
「だから、そんな欲が出てくる時点で四次元への入り口は封鎖されているんだよ」
「ちなみにその入り口はオリハルコンの扉ですか? だとしたら私多分壊せますけど」
「いや、あの虹色の膜よりももっと耐久性があるやつ。多分俺でも壊せないだろうな」
「……で、瑠璃さんはどうやってそのなかに入ったんです?」
「そもそもその考え方がおかしいんだって。四次元ってのは気づいたらそこにいるものなんだから」
「それっぽいことばかり言ってますけど、私は四次元の思考回路があるなんて一度も信じたことないですからね」
「それはそれでもいいと思うぞ。大抵の人間が三次元のまま死んでいくし」
「そうですか」
◆ ◇ ◆
それから三ヶ月後。
「必殺、水圧蹴り!」
瑠璃はキックによる水圧で、湖の奥底にいる巨大なカメを仕留めた。
レベルアップの音が月の頭上からのみ聞こえる。
「……あれ? 今瑠璃さんのレベル上がらなかったですよね? というわけでそろそろ先に進みましょう!」
よほど飽きていたのだろう。
月が嬉しそうに言った。
「何言ってんだ? ちゃんとレベルアップの音はしていたぞ。月の聞き間違いじゃないのか?」
「いいえ、絶対に違います」
「じゃあ試しに魔物を殺してみろ。必ず聞こえるから」
「それはそうでしょ。さっき上がらずに蓄積された経験値があるんですから」
「いいや、たとえ100体倒しても上がり続ける」
「まあいいです。次一度でも上がらなかったら先に進みますからね」
「いいぞ」
「じゃあ不正ができないように近づいておきます」
そう言って月は彼の側に移動した。
「どうせならもっと近づけよ」
月の肩に腕を回しながら瑠璃がつぶやく。
「ひゃんっ! ……ちょっと、いきなりすぎますよ」
「このほうがいいだろ」
「私としてもこっちのほうが嬉しいんですけど、レベルアップの音が判別しにくいんですよ」
「まあ、大丈夫だ」
「もう少し離れてください。不正は禁止です」
「はぁ。本当に近くにいたかったからやっただけなのに」
「…………検証が終わったら近づきましょ」
月が頬を赤く染めた。
「そういうことならいいけど」
瑠璃は少し残念そうに離れていく。
そして多少の距離を空けて魔物を倒していくこと約30匹目。
月の頭上からのみレベルアップの音が響く。
「ピコーン!!」
瑠璃が明らかに裏声で言った。
「…………あの、瑠璃さん」
「なんだ?」
「バレてますよ?」
「なんのことだかさっぱりわからないな」
「……うん。進みましょう」
「まあ、もう少しレベル上げをしていたかったんだが、月がそう言うなら仕方ない。行くぞ」
「はい」
その後、瑠璃と月が協力して地面を掘ったのだが、かなり下に進んでも次の階層にたどり着けなかったため、結局普通に階段を探すことにした。




