第二百七十五話【再挑戦】
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浮遊の魔法などを駆使して、前回よりも早く頂上へと到達した月は、凍えそうな身体を無理やり動かして小屋のなかへと入る。
直後、心地よい暖かさに包まれた。
「ふぅ……」
月は一目散に装備品を外し、フラフラしながらもベッドに倒れ込んだ。
「疲れて動けないですぅ……ゲホッ」
寝転がったままアイテムボックスからおかゆを取り出す月。
そして食べようとするも、この体勢では食べにくいことに気づき、結局起き上がる。
その後、長い時間をかけて完食した月は、そのまま眠りについた。
◇
翌日。
準備万全の月は、転移石の前で立ち止まる。
「ふぅ……」
身体の震えを抑えるために深呼吸をするも、止まる様子はない。
前回の圧倒的なまでの敗北がトラウマになっているのである。
正直、かなり成長した現在ですら、勝てるビジョンが見えていない。
だが自分の寿命がさほど長くないことを感覚的に理解しているため、いつまでも立ち止まっているわけにはいかないのだ。
「ゴホッ…………よしっ!」
月は気合いを入れ、勢いよく転移石に触れた。
◇
決闘場のような白い円形の空間にて。
少しの間待機していると、突然正面の奥が眩く光り始める。
やがて試練の相手が現れた。
この世の物とは思えないほどの美貌の持ち主で、肌の所々が機械でできている女神。
彼女は背中の翼を広げて、
『これより、試験を開始いたします』
直後──姿が消えた。
「っ!? …………」
月は一瞬驚きつつも、冷静に感覚を研ぎ澄ませる。
そして本能的に危険を感じ取った瞬間、横ステップを踏んだ。
すると今まで立っていた場所に複数の光の矢が突き刺さる。
月はそれを確認することなく、この決闘場全てを飲み込むほどの超巨大な爆発を起こした。
どこからか聞こえてくる衝突音。
そこで彼女は確信した。
「存在そのものが消えているわけではなく……見えないだけ?」
試しにもう一度爆発を起こしてみると、再び物体が壁に当たったような音が聞こえてきた。
「やっぱり」
というわけで月は防御を固めつつ、広範囲の攻撃魔法を放ち続ける。
一瞬たりとも集中力を切らさずに戦い続けること30分ほど。
ふいに女神がフラついて倒れそうになったかと思えば、口内から金属製の物体を放出し始めた。
「えっ!?」
続けて全身の至るところからも出てくる。
「……っ!」
月はすぐに気を取り直して攻撃魔法を放つも、効いている様子はない。
やがて女神だったはずの相手は、言葉では形容できないほどぐちゃぐちゃな形の化け物へと変貌した。
化け物は金属音を立てながらも近づいてくる。
そしてトゲトゲの鉄球やハサミなどを使って襲いかかってきた。
反射的に魔法壁を張るが、相手はそれをものともせずにぶち破ってくる。
「──っ!?」
横ステップを踏んだことでギリギリ躱すことには成功したが、代わりに髪を切られてしまい、半分だけショートヘアーのような感じになってしまった。
月は敵から距離を取りつつも、超広範囲の爆発を起こす。
しかし、まるで効いている様子はない。
「それなら──っ」
相手の弱点を探るために、彼女がいろんな属性の魔法を連発しようとした、その瞬間、
──敵の姿が消えた。
月は即座に魔法の詠唱を中断し、広範囲の爆発を起こす。
そして敵が壁にぶつかる音を聞いて位置を割り出し、そこに向かって【火】【水】【土】【風】【雷】【光】【闇】属性の魔法弾をそれぞれ発射した。
その後、死に物狂いで敵の攻撃を避けながらも魔法を命中させていったが、結局月のほうが限界を迎えてしまった。
「むぅぅぅ……」
何度も攻撃を食らってダメージが蓄積していったというのもあるが、敵が一切消耗している様子がないため心が折れたのである。
月は敵からの攻撃を捌きながらも、転移石を目指して後ろへと下がっていく。
とそこで、敵が立ち止まったかと思えば、頭上に真っ黒の球体を出現させ始めた。
「──っ!」
月は本能的に危険を感じ、踵を返して全力疾走する。
その途中に一瞬だけ振り返ってみると、ちょうど球体が発射されたところだった。
「やばっ!?」
月は魔力を使って真横に大ジャンプする。
そのおかげで、間一髪で躱すことに成功した。
月は方向転換をして転移石のほうを向く。
その際に、
「え……」
転移石の真下に空いた穴が視界に入ってきた。
先ほど通り過ぎていった黒い球体が、床を貫通していったのだろう。
その穴からは、虹色の膜が見えている。
一瞬何だろう? と疑問に思う月だが、すぐに切り替えて走り出した。
そして二度目の黒い球体が発射される前に、転移石へと触れる。




