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第二百三十二話【宝物庫】

 工場の奥にあるエレベーターで地下五階まで下り、薄暗い廊下を歩くと、金庫のような扉が待ち構えていた。

 叢雲はパスワードの入力と虹彩認証を行い、扉を開ける。


「……あん?」


 しかし宝のような物は見当たらない。

 それどころか、狭い部屋のなかには何も存在していない。

 ただ、奥の壁に赤いボタンがひとつ設置されているだけだ。


「おい、どういうことだ?」


 瑠璃の問いかけに、叢雲は奥へと進みながら、


「あのボタンを押せば隠し通路が現れる仕組みじゃ」


「……ずいぶん厳重なんだな」


「もし間違って誰かに見つかったら大変じゃからのぉ」


 と、その時、


「お待ちください!!」


 背後から女性の声が聞こえてきた。

 振り向くと、町長の側近であるメイドの姿がある。

 

「なぜお前がここにいる?」


 怪訝そうな表情で尋ねる叢雲。

 彼女は肩を揺らしながら、


「はぁ……はぁ……本当にそれを押されるおつもりですか?」


「もちろんだ。わしの使命は、街や住民を守ることではないからな」


「?」


 意図のつかめないセリフに、瑠璃は眉を顰める。


「確かにそれはそうですけど……」


「何、心配はいらん。絶対神様の加護がある限り、全て元通りになるはず。……ただ、わしを含めた全員の記憶がなくなるだけだ」


「…………」


「おぼえていないだけで、わしらはずっとそうし続けてきた」


「…………」


「それともなんだ? お前はこの冒険者どもに肩入れするのか?」


「い、いえ……そんなことは」


「じゃあそこで大人しくしていろ」


 そう言って叢雲がボタンのほうへ向き直ると、正面にはいつの間にか瑠璃の姿があった。


「お、おい、避けてくれ。そんなところにいたら宝物庫へ案内できないじゃろう」


「さっきのお前らの会話を聞いて、おおよそ理解できた。ゆえにこのボタンを押させるわけにはいかない」


「なんじゃと!?」


「余計なことを喋らなければ今頃抹殺に成功していたのに……。それもこれもメイドのおかげだな」


「瑠璃さん、どういうことですか?」


 月の問いかけに、彼は叢雲を警戒しながら、


「おそらくだが、俺の背後にあるボタンを押せば、この街が大爆発か何かで崩壊する」


「ええっ!?」


「「「っ!?」」」


 月だけでなく、ノヴァたちも驚愕の表情を浮かべている。

 輪廻に関しては自分で似たような結論にたどり着いていたらしく、納得したように頷いている。


「こいつらは冒険者を次の階層へ進ませないために生み出された存在だから、崩壊したあとはシステム上元通りになる。だが、俺たち外部の人間は別だ。死んだらそこで終わり」


「そりゃーそうだろ」とノヴァ。


「つまり、このボタンを押された時点で俺たちの負けが確定するってわけだ。……正直、ボタンを押したあとに自分が生き残れるかどうか興味はあるけど、さすがに今回はやめておくか」


「当たり前ですっ! 絶対に押さないでくださいよ!」


「…………それはフリか?」


「違いますっ!!」


 とそこで輪廻が歩き出しながら、


「瑠璃くん、どうする? ウチが配線を弄って起動しないように改造してあげようか?」


「いや、お前の技術力を信用していないわけじゃないけど……さすがに不安だな」


「オレも同意見だ。さっさとこいつら二人をぶち殺して、ボタンに触れることなく立ち去ろうぜ」


「……よいしょ」


 瑠璃は叢雲に接近して彼の腕を掴んだ。

 そして背中へと回し、動けないように固定する。


「くっ、貴様!?」


「こいつは殺してもいいが、メイドまでやる必要ないだろ」


「あぁん? あいつはそれの側近だぞ? いくら俺たちを手助けしてくれたとはいえ、信用できるわけねぇだろ」


 拳をポキポキと鳴らしながら、メイドを睨みつけるノヴァ。

 彼女は怯えたような表情で視線を逸らす。


「まあそれはそうだが、なんとなくその女からは善人の匂いがするんだよな……」

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