第二百二十八話【銃弾避け】
魔法障壁越しに見える巨大な工場のなかには、大勢の男性たちだけでなく、一体の人型ロボットが待ち構えていた。
サイズは全長七メートルほどで、両手にそれぞれマシンガンを装備している。
ロボットはこちらに銃口を向け、連射し始めた。
一発の威力が強いせいで、多少減速しながらも風の壁を抜けてくる。
「あっ、ごめん!」
「任せろ」
「オレに任せとけ」
瑠璃とノヴァがユイの前に立ち、それらを弾き飛ばした。
その隙にユイは魔法障壁を更に分厚くし、銃弾を完全にシャットアウトする。
「すごい……」
そんな月のつぶやきに、ユイは笑みを浮かべて、
「このくらい当然よ。アタシは天才だもの」
それから間もなく、風の壁を突破できないことに気づいたようで、敵の銃弾が止んだ。
ユイは魔法障壁を維持しながら、
「これからどうする?」
「とりあえず背後から敵の気配を感じるから倒してくる」
瑠璃の言葉にノヴァは眉を顰めて、
「あ? 後ろ?」
「俺もついさっき気づいたんだが、建物の陰にたくさんいやがる」
とその時、背後から銃弾の音が疎らに響き始めた。
直前で瑠璃のセリフを聞いていたこともあり、ちょうどいいタイミングでユイが全方向に魔法障壁を展開する。
もちろん前方の太い壁は維持したまま。
「瑠璃さん、私も行きます」
「……俺の真後ろをぴったりついてこられるか?」
「愚問ですね。瑠璃さんの動きは誰よりも把握していますから、意識しなくても可能ですよ」
「じゃあ行くぞ」
「はい!」
瑠璃は勢いよく走り出し、風の障壁を無理やり通り抜けた。
破れた部分が修復し終える前に月もくぐり抜ける。
瑠璃は外に出てすぐ、目の前に迫っていた銃弾を右ステップで躱した。
それと同タイミングで月も右ステップを踏み、ギリギリで銃弾を避ける。
続いて全力で三歩走り、一センチだけ左にずれてジャンプ。
着地とともに右斜め前へ走り出し、地面をローリング。
そして起き上がりながらも蹴りを放ち、躱すのが不可能な二発の銃弾を吹き飛ばす。
その後一気に建物の間へ入り、路地裏にいた男性のみぞおちを殴って気絶させた。
「月は左側を頼む」
「が、頑張ります!」
それから路地裏や建物内に潜んでいた敵を全滅させるのに、さほど時間はかからなかった。
狭くて入り組んでいる上に、人外の運動神経を持っている二人にとって、銃を使う相手はさほど脅威ではなかったのだ。
ユイは魔法障壁を部分的に解除して二人を迎え入れつつ、
「お疲れさま」
「おう、案外余裕だったぞ。俺が130人くらいで、月が……三人だっけ?」
「いや、もっと倒しましたからね!? 少なくとも30人は気絶させてます!」
「そうかそうか」
「……にしてもあんたら、マジで息ぴったりだったな」
「あ、ありがとうございます」
素直にお礼を言う月に、ノヴァは「ふっ」と馬鹿にしたような笑みを浮かべて、
「まあ、銃弾を蹴り飛ばす動作まで真似しなくてもよかったけどな」
「うるさいですよっ! あなたや瑠璃さんと違って私は凡人なんですから、あの一瞬でそこまで判断できません」
「ははっ、それもそうか」
「むぅ、なんかムカつきますね……このノーパン野郎」
「あぁん、なんだてめぇ!?」
「おい、月に手を出す気なら俺が容赦しないぞ?」
「ちょっと三人とも、今の状況わかってんの? 揉める暇があったら、これからどうやってあいつらを倒すか考えなさいよ」とユイ。
「あーそうだったな。あのロボットがあまりにも弱そうだから存在を忘れてた」
「やっぱり瑠璃もそう思うか?」
「へ?」
瑠璃とノヴァはそれぞれ指をポキポキと鳴らしつつ、ロボットのほうを向く。
「俺が一人であいつを仕留めるから、お前は周囲のザコを頼む」
「何言ってんだ。あんたが掃除すればいいだろ」
「じゃあ先にロボットを倒したほうが勝ちな」
そう言うなり瑠璃は、風の障壁を無理やり壊しながらも外へと出る。
「あっ、ずりぃぞてめぇ!」
と、その時。
敵たちが一斉に銃を乱射し始めた。
「っ」
数が多すぎて避けられないと瞬時に判断した瑠璃は、踵を返し、修復途中の穴から障壁の内部へと戻ってきた。
そして銃弾が届くのとほぼ同タイミングで壁が元通りになる。
「……ただいま」
「おかえりなさい」
安心したような表情で返答する月。
「ハンッ。抜け駆けしておきながら、ダサすぎるだろ」
「一応銃弾が命中しても耐えられるだろうけど、当たらないに越したことはないからな。いったん避難することにした」
「じゃあそのまま逃げてろ。オレは一人でも行くぜ」
ノヴァは返答を待つことなく駆け出す。
「よっと」
タイミングよく部分的に障壁を解除するユイ。
その穴からノヴァは外へと飛び出し、ロボットに向かってジグザクに進んでいく。
しかし、
「って、うわっ!? イテテテテ!」
結局すぐに戻ってきた。
傷こそ負っていないものの、撃たれた箇所が真っ赤に腫れている。
「……誰がダサいって?」
「チッ、今のはたまたま避ける方向を間違えただけだっての」
「じゃあもう一度チャレンジしてみたらどうだ?」
「っ……」
「お前も途中で気づいただろ? あの量の銃弾を避けるのは不可能だ。……たまにロボットの巨大な弾丸も混じっているしな」
「じゃあどうすんだよ」
「……ユイ、まだMPに余裕はあるか?」
瑠璃に尋ねられ、彼女はステータス画面を確認した。
「…………ええ、まだ半分も消費していないわ」
「それはよかった。じゃあ壁を維持したまま全員であいつらに近づくぞ。で、もし突撃してくるやつがいれば、俺とノヴァでぶっ飛ばす」
「なるほど、いい考えじゃねぇか」
ノヴァが口端を上げた。
ユイは「わかったわ」と頷き、
「じゃあ行くわよ!」
繊細な技術で風の壁を移動させ始めた。




