第二百二十話【侵入者】
それから三十分が経過した頃。
ガチャッという音が響いたかと思えば、ドアがゆっくりと開き始める。
「……」
電気がついたままの部屋に侵入した人物は、静かにベッドの前へと移動した。
そして月の首元に手を伸ばす途中で、
「なんの用だ?」
「──っ!?」
布団のなかから聞こえた声に反応し、侵入者は後ろへ下がった。
瑠璃は布団から顔を出しつつ、
「やっぱりメイドだったか……。で、どうしたんだ?」
「えぇ……大浴場へ案内しようかと……」
「ふ~ん、なるほど。汗を流してすっきりしたいし、お願いしてもいいか?」
「は、はい」
「月を起こすからちょっと待っててくれ」
「……わかりました」
「あーちなみに、輪廻やノヴァたちはもう起こしに行ったのか?」
「いえ、あなた方が最初です」
「まあだろうな。俺たちが一番人数が少ないし」
「っ」
瑠璃はメイドを横目で監視しつつ、月を起こそうと身体を揺する。
しかし、なかなか目を覚ます気配がない。
「う~ん、やっぱり薬が効きすぎているみたいだ」
「あなた、やっぱり気づいて……」
「ん? なんの話だ? ドリンクに入っていた睡眠薬のことか?」
「どうして……あなたも飲み干していたはずなのに」
「なるほど。カマをかけてみたんだが、その様子だと当たっていたみたいだな」
「くっ……」
「まあ別々の階層に案内したり、部屋の天井に監視カメラが設置されていたことから、元々怪しいとは思っていたが」
メイドは踵を返し、ドアのほうに向かって走り出す。
しかし、
「おい、どこに行くんだ?」
「──っ!?」
追いついてきた瑠璃に腕を掴まれてしまった。
「そもそも俺があの程度の量の睡眠薬で眠るはずないだろ。そこら辺のやつらとは根性が違うしな」
もちろん並外れた根性だけでなく、人外な体質のおかげでもあるだろう。
なんせ、親から受け継いだ遺伝子にプラスして若い時に壮絶な経験をしていたこともあり、身体の構造がおかしくなってしまっているのだ。
たとえば、どれだけアルコールを飲んでも絶対に酔うことがない。
そのため睡眠薬ごときで意識を手放すはずがなかった。
「化け物……」
「そう、俺は……いや、俺たち冒険者は化け物だ。お前らもそれがわかっているから、あえてこんな回りくどいやり方で仕留めようとしたんだろ?」
「そ、それは」
「けど安心しろ。30階にいる輪廻たちも全員起きてるから」
「なっ!?」
「ノヴァたちはわからないけど、まああいつらなら大丈夫だろ」
瑠璃はアイテムボックスから布の服を取り出し、メイドの腕を縛っていく。
「いたっ」
「おぉ悪い、ちょっと強く締めすぎたか……って、なんでお前に気をつかわないといけないんだよ!」
文句を言いつつ、少しだけ拘束を緩める瑠璃。
「ま、待って! トイレに行きたいんだけど」
「なら拘束したあと、トイレに座らせてやるからもうちょっと待ってろ。ようし、次は足だな」
「…………なんで殺さないの? 私はあなたたちを殺そうとしてたのに」
「俺は戦うのは好きだけど、人を殺すのは好きじゃないからな」
「…………」
「あーもちろん、しつこく襲いかかってきたら容赦はしないけど」
「じゃあ私があなたに襲いかかればっ!」
「どうせ無理だからやめとけって。お前もそれがわかってるから大人しくしているんだろ?」
「…………あとでおぼえてなさい。あなたの相手は私だけじゃない──」
「──この街の全員か?」
「なんでそれを……」
「俺は勘がいいからなんとなくわかる時があるんだよ」
「…………」
「さて終了だ。とはいっても普段こんなことしないから、一応動けないかどうかだけ確認してみてくれ」
「何を言っているの? これだけ縛られて動けるはずがないでしょう。そもそも敵に聞くなんて馬鹿じゃない?」
「ははっ、ちがいない」
瑠璃はメイドをお姫様抱っこし、入り口のすぐそばにあるトイレへと移動した。
そして約束通り便器に座らせる。
「じゃあ俺は月を起こしに行くから」
「ま、待って」
「なんだ?」
「……脱がせてよ」
「何を?」
「…………わかるでしょう! し、下着よ」
「トイレに行きたいって……あれマジだったのか? てっきり嘘だとばかり思っていたんだが」
「怖い思いをしたから、弾みそうなのよ」
「はぁ、仕方ないな」
瑠璃はため息を吐きながらも、彼女のスカートに手を伸ばす。
「ちょっ、何してるのよ!?」
「お前が脱がせろって言ったんだろ!」
「あの女の人を起こして、やらせればいいじゃない」
「あー、なるほど。お前頭いいな……じゃあちょっと待っててくれ」
「…………やっぱりいいわよ」
「ん?」
「あなたが脱がせてくれてもいいって言ってるの!」
「えぇぇぇ……」
「なんでそんなに嫌そうなのよ! こんな美人の下着を脱がせられるのに」
「いや、できれば触りたくないし」
「はぁ?」
「客観的に見て美人なのは認めるけど、月以外の女に興味ないからな」
「…………もう漏れそう。早くして!」
「嘘つけ、意地になってるだけだろ」
「うぅぅぅー……ふんっ、もう勝手にしなさい! ばーか!」
「…………わりと会話のテンポが合うし、もっと別の形で出会っていれば友達程度にはなれていたかもな」
そう言い残して、瑠璃はトイレをあとにする。
メイドが頬を赤く染めていたことには気づかないまま。




