第九話【獣人の王】
瑠璃たちは発掘場から牢屋を抜ける。
それから階段を上ってお城の玄関へと戻る最中のことだった。
「よう、遅かったな小僧──っ!?」
一瞬にして目の前に現れた獣人を、瑠璃は反射的に殴った。
相手が吹っ飛び、玄関の壁にめり込む。
「ん? なんか近づいてきたから癖でカウンターを入れちゃったけど……あいつ王様じゃなかったか?」
「ちょっと瑠璃さん!? まさかもう終わらせたんです?」
月の問いかけに、彼は首を傾げる。
「いや、直前で手加減したからまだ生きているとは思う。……でも、あいつが例の強い王様なのか? 全然面白くないじゃん」
「今の一瞬を見てわかった。彼は俺たちの常識では測れない。どうやら安心してこの地下大国から脱出できそうだ」
村雨がつぶやいた。
「くそ、小僧め。次は絶対に仕留める」
壁から出てきた獣人の王が、瑠璃を睨みつける。
「あんたさっきと全然雰囲気違うじゃん」
「これは、地下深くでのみ採掘することができる宝石を絞って作った神の雫を飲んだ効果によるものだ。痛みを感じなくなり、身体能力も格段にアップする。……たとえお前がどんなに強かろうと、所詮は人間。今のわしに勝てると思うなよ」
「へぇ、痛みを感じないのか? ……良いこと考えちゃった」
ワープでもしたかのような速度で近づいた瑠璃は、王様の腕を掴んだ。
「お主、なんのつもりだ」
「絶対に痛みを感じない身体か、絶対に痛みを与えることができる俺。……どっちが先に負けを認めるか勝負しようぜ」
「なんだと!?」
「まずは片腕だ」
瑠璃はにやけながら相手の腕を握りつぶした。
血や肉が辺りに飛び散る。
「ぐぅ……貴様、なめた真似をぉ!!」
王様がもう片方の手で瑠璃の顔面を思い切り殴るが、彼は真顔でその場に立ち尽くしていた。
「なんだそのパンチ? もっと本気出せよ」
「なっ、信じられん。このわしの攻撃を受けて無傷だと!?」
「次はこっちの腕だ」
そう言って瑠璃は反対の腕を握りつぶす。
「やめろ!」
「次は右足っと」
チョップで股から下を切断した。
「痛みを感じないと言っているんだ! 今すぐやめないか」
「だからそれを試しているんだろ? 次は左足」
再びチョップで斬り落とした。
四肢をなくして頭と胴体だけになった王様は、バランスを保てなくなり地面へと転がる。
「くっそぉ、人間風情が」
「おぉ~。これでも喚かないところを見るに、痛みを感じないというのは本当らしいな。……勝負は俺の負けだ。というわけで殺すぞ? もう飽きたし」
「ま、待て!」
瞬間、王様の胴体と頭が破裂した。
レベルアップの音が響く。
瑠璃は後ろを振り向きながらみんなに向かって言う。
「これが例の王様ってやつだよな? 他の獣人と大して変わらなかったぞ?」
「ま、マジかよ……」
「本当に勝ちやがった」
「しかも圧倒的すぎるだろ」
「瑠璃さんの人外っぷりが皆さんにも伝わりました?」
「ああ。嫌というほどわかった」
それぞれがいろんな反応を示した。
「じゃあさっさとこの地下帝国から脱出するぞ」
「とはいっても、どうやって出るんだ? 俺たちは全員眠らされて連れてこられたせいで誰も地上への移動方法を知らない」
村雨が冷静に言った。
「ここへ来るときに空けておいた天井の巨大な穴に向かってジャンプをすれば届くし、俺が何往復かして全員を運ぶ」
「そ、それはありがたい」
「ちなみに、誰か次の階層へいくための階段を知らないか? 広すぎて探すのが面倒なんだよな」
瑠璃がみんなを一瞥しながら尋ねた。
「おい、誰か知っているか?」
すぐに全員へ声をかける村雨。
だがしかし、明るい顔を浮かべている者はいない。
「何年もこの階層にいたとはいえ、ずっとあそこで働かされていたわけだし……」
「ああ、外に出たのだって久しぶりだ」
瑠璃は興味なさそうに答える。
「そうか。わかった」
「助けてもらっておいて、役に立てず申し訳ない」
「いや、別に構わない。……とりあえず天井に穴を空けた場所があるから、大通りを走り抜けてそこに向かうぞ。かなりの大穴だから、まだ完全に自然修復はされていないはずだ」
「わ、わかった」
そう会話をし、瑠璃たちはお城を出て大通りを堂々と移動していく。




