第百三十六話【ビスケットの大迷宮】
大迷宮。
非常に頑丈なビスケットの壁は高さが十メートル以上もあり、決して飛び越えることは不可能だろう。
入り口は一つしかなく、他は全て壁によって囲まれている。
お菓子でできた街を出て、道なりに進むこと数時間。
瑠璃たちはそんなところへ到着していた。
「ここに入れということですよね」と月。
視線の先──入り口の上には、長方形の板チョコにホワイトペンで【だいめいきゅう!】と書かれている。
「他に道が続いているわけでもないし、多分このなかに転移石があるんだろうな」
「なんというか、面倒くさそうです」
「とりあえず今の攻撃力でこの壁を壊せるかどうか試してみる」
瑠璃は入り口のなかへ入り、正面の壁に向かって全力パンチ。
その瞬間、壁ではなく拳からミシッという音が響いた。
「──っ!? ……うわー、めちゃくちゃいてぇ」と眉を顰めながら瑠璃。
「やっぱりだめでしたか」
「つまり普通に攻略するしかない、と……。まあこういうのは俺の得意分野だから任せとけ」
「確かに、瑠璃さんの勘ってほとんど的中しますからね。期待してます」
「おう」
瑠璃は左右に続いている通路を交互に見る。
どちらも見た目は同じで、床、壁、天井などが全てビスケットでできているようだ。
「まずは右から行ってみるか」
「まずは……って、どういうことです? 自信がないから保険をかけているんですか?」
「ちげぇよ。会話のリズム感をよくするために言っただけだ」
「なるほど……」
「というわけで出発!」
瑠璃たちは、幅三メートル、高さ十メートルの通路を進み始めた。
しばらく直線し続け、一方通行の角を左に曲がる。
するとそこには、たくさんの魔物が生息していた。
頭にソフトクリームを乗せた白猫。
真っすぐ伸びている直線に、その一種類が大量発生している。
「…………ちょこちゃん。友達になってきてください」と白猫たちを指さす月。
「にゃ~ん!?」
「そうしたらあの数の敵と戦わなくて済みますから」
「にゃ~ん……」
ちょこは自信がない様子。
「お前無茶言うなよ」
「でも、同じ猫じゃないですか」
「それもそうだな。ちょこ! 俺たちに敵意がないと伝えてきてくれ」
「にゃ~ん!?」
「見た目がちょこに似すぎてて、正直戦意がわかない」
「私も同じ意見です。あの子たちを魔法で焼き殺したりするのは気が引けます」
「……にゃ~ん」
ちょこは渋々といった様子で、一番近くにいたソフトクリームの猫に近づき「にゃ~ん」と話しかけた。
すると相手の猫は少しびっくりしたような反応を見せるも、ちょこに害がないと判断したのか、一歩前に出て「にゃん?」と尋ねてくる。
「にゃ~ん」
「……にゃーん。にゃん?」
「にゃ~ん!」
相手は少し嬉しそうな表情になり、
──直後、爪を立てて襲いかかってきた。
思わず目を閉じてしまうちょこ。
しかし攻撃がたどり着くことはない。
相手は瑠璃の蹴りによって吹き飛び、壁に衝突して地面へと落下した。
「お前今、ちょこに攻撃しようとしただろ」
その瞬間、通路にいるソフトクリームの猫が全員こちらを向く。
表情が穏やかではない。
「せっかく穏便に済ませようと思っていたのに、そういうことなら仕方ない。みんなまとめてかかってこいよ」
「えぇっ!? いくらレベル上げを頑張ったからと言って、あの量が一度にきたらさすがにやばいですよ!?」
「大丈夫だ。最悪俺一人でもなんとかなる」
「……まあ、私も一人でなんとかなりますけどね」
「「「「「にゃー!!」」」」」
瑠璃が打撃。
月が多彩な攻撃魔法。
ちょこが回復魔法。
対する相手は、爪で攻撃してくるだけではなく氷の魔法弾まで発射してくる。
瑠璃は大量のダメージをくらいながらも、一切表情を変えずに冷静に仕留めていく。
攻撃力が異様に高いだけあって、ほとんどがワンパンだ。
「──炎鞭! 瑠璃さん、ジャンプ」
「おう」
瑠璃が跳ぶのと同タイミングで炎の鞭が真下を通過し、複数の猫に衝突した。
お互いの身体能力や反応速度を知っているからこそのコンビネーション。
それにプラスで、ちょこによるヒールが常に瑠璃を癒し続けている。
そんな彼らが、この程度の大群に遅れを取るはずがなかった。




