第百三十二話【世界で一番甘いもの】
巨大な冷蔵庫の前にて。
月がプリンに聞こえないよう、小さい声でつぶやく。
「で、私が一番得意なお菓子というのは?」
「もちろん考えてない」とサムズアップをする瑠璃。
「…………」
「悪かったよ。謝るから、かわいいジト目を向けないでくれ」
「どうするんですか? 私、もう帰りたいんですけど」
「何かないか? 月がマジで得意なスイーツ」
「さっき全部作りました」
「だよなぁ……」
「そもそもあんなわがままな人を満足させられるお菓子を作るなんて不可能なんですよ! 何が、甘さが足りない、甘くないからダメだ、ですか。そんなに甘さが欲しいなら好きな男の人とキスでもしていればいいんです」
「…………ん? 今なんて?」
「そもそもあんなわがままな人を満足させられるお菓子を作るなんて不可能なんですよ!」
「もっと先」
「何が、甘さが足りない、甘くないからダメだ、ですか」
「あと少し先」
「…………ん? 今なんて?」
「一番聞きたいところを飛ばしてんじゃねぇ! しかもそれ俺のセリフだし」
「ふふっ、さすが見事なツッコミですね」
「そんなことはどうでもいいから、早く『そんなに甘さが欲しいなら好きな男の人とキスでもしていればいいんです』って言えよ」
「いや、一文字も間違えることなくおぼえているじゃないですかっ! なら私が言う必要ないでしょ」
「月の口から聞いたら何かひらめきそうな気がするんだって」
「……じゃあ言いますよ?」
「おう、頼む」
「そんなに──」
「──思いついたからもういいや。ありがとう」
「…………」
月はジト目で頬を膨らませた。
そんな彼女のほっぺたを両手で潰しながら、瑠璃がつぶやく。
「女王とあそこにいるプリン野郎をキスさせる」
「えっ……正気ですか?」
「俺の知っている限り月との口づけが一番甘いし、それ以上の甘さは存在しないと思うぞ」
「それはそうですけど、やってくれますかね?」
「大丈夫だ。あいつ以外が作ったプリンを食べたくないと言っていたことから、女王は多少なりともプリンに気があるはずだ。そしてあいつも女王に好意を寄せていると思う」
「なるほど……。でも人間同士でするキスのほうが脳が痺れるというか、とろけてふわっとして甘い気がします」
「それは、俺が女王とキスしろってことか?」
「殺しますよ?」
「いや、お前が言ったんだろ。城内に男の人間は俺しかいないんだから」
「プリンさんとキスして同じ感覚が得られるのかどうか、疑問に思っただけです! いくら女王様が小さくてかわいいからといって瑠璃さんが手を出そうものなら、私、悲しくて息ができないほど泣きますから」
「お、おう……」
「そして瑠璃さんを殺して私も死にます」
「絶対にしないから大丈夫だって! そもそも、月以外とそういうことはしたくないし」
「ならいいんです」
「とにかく、女王とプリンのキス大作戦を実行するぞ?」
「まあ、現状それ以外に可能性はありませんし……そうですね、やってみましょう」
瑠璃はドアの前に立っているプリンの元へと向かい、
「おーい、もうお菓子が完成したから、今すぐ女王様に会いに行くぞ」
「は? ぼそぼそと会話をしていただけじゃないのか?」
「世界一のパティシエールほどになれば、他の人に見えない速度で作ることも可能なんだ」
「それは……素直にすごいな。じゃあ行くか」
そんなやり取りをして、王座の間にいる女王の元へと移動した。




