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第百十六話【瑠璃の怒り】

 鬼は瑠璃の攻撃を無視し、月に向かって太刀を薙ぎ払った。


「月っ!!」


「ひゃっ!?」


 彼女が思わず目を閉じてしまったのと同タイミングで、甲高い金属音が鳴り響く。


 すぐさま目を開けて確認すると、真横にゼータの大剣があった。


 どうやら彼が受け止めてくれたらしい。

 ゼータはあまり余裕がないようで、歯を食いしばっている。


「ネメカトギル!」


 月は頭のなかで【はやくにげろ】と翻訳しつつ、「すみません! ありがとうございます!」と後ろに下がった。


 ゼータは力を振り絞って太刀を弾き、自分から攻撃を加えていく。

 しかし鬼に当たることはない。


 全てたやすく弾かれ、十秒と持たずに蹴り飛ばされてしまう。


 そのまま木の幹に衝突し、わき腹を押さえたまま地面へと倒れた。


 月とちょこからヒールが飛んでくるものの、痛みで動けない様子。


 続いて鬼は後ろを振り返りざまに、ずっと背中を刺し続けていた瑠璃に向かって太刀を思いっきり薙ぎ払った。


「──っ!?」


 一瞬反応が遅れた瑠璃は、ナイフを使って受けることで直撃こそ免れたものの、勢いを全て殺しきれずに真横へ吹き飛んでいく。

 その途中でナイフにひびが入り、時間差で砕けてしまった。

 

 鬼は再び標的を月に定めて勢いよく近づき、ハイキックを放つ。

 彼女は腕でガードするも、そのまま吹き飛ばされた。


 防御力をある程度増やしていたことと、聖なるネックレスによって闇属性の被ダメージを軽減していたこともあり、気絶するほどの威力ではなかった。


 しかしもちろん攻撃はそれだけにとどまらず、凄まじい速度で太刀が迫りくる。


「やべっ」と瑠璃が立ち上がった時にはもう遅い。


 月は距離を取ったり身体を捻ったりして躱すも、すぐに追いつけなくなって太ももを貫かれた。


「いたっ!?」


 即座に引き抜かれたことによって太ももから大量の鮮血が流れ、水色のローブを紫色に染めていく。


 月は涙目になりつつも、ここで負けてたまるかとばかりに杖を向けた。


 しかしすでに鬼が剣を構えており、なんのためらいもなく肩に向かって振り下ろしてくる。


 だが攻撃が月に届くことはなかった。

 瑠璃が相手の手首を掴み、途中で止めていたからだ。


「瑠璃……さん?」と身体を震わせながらつぶやく月。


 彼からの返答はない。


 よく見ると、顔から感情が抜け落ちていた。


 長年一緒にいたはずの月ですら恐怖感を抱くほどの、重たくて凍てつくような雰囲気。


 瑠璃の指が鬼の手首にめり込んでいく。


 相手は抵抗するように太刀をもう片方の手に持ち替え、斬りかかろうとする。

 だが途中で瑠璃に奪い取られた。


 瑠璃は太刀を鬼の首元に突き刺し、両手の親指を双眼に突っ込む。


 相手は声こそ上げていないものの、呼吸が乱れ、痛みに顔を歪めている。


 更に顎へ膝蹴りを入れたことにより、鬼は脳が揺れたまま地面へと倒れた。

 両目を押さえて足をじたばたとさせている。

 痛みで戦いどころではないようだ。


 瑠璃はそんな相手に近づいていき、首元に刺さっている太刀を引っこ抜いた。

 そして、


「……死ねよ」


 鬼の全身に何度も抜き刺しを繰り返していく。


 もはやどちらが鬼かわからない。


 瑠璃の猛攻は相手が死んだ後もしばらく続いた。



 やがて原型がなくなってきた頃。

 彼はふと我に返ったように太刀を捨て、月の元へと向かう。


 今現在月は自分で太ももにヒールをかけながら、ちょこにも回復してもらっていた。


「ヒール。うぅ……痛いですぅ。ひーるぅー」


 目から涙を流しながらも、血を止めるために必死に詠唱を続けている。


 瑠璃は申し訳なさそうな表情で、その様子をじっと見守っていた。

 自分が変に手を出すよりかは回復を待ったほうがいいと判断したからだ。


 ようやく立ち上がることができたゼータも、何も言わずに周囲を警戒している。

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[一言] 瑠璃が怒るとヤバいな!
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