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第八十二話【熊と甲冑】

 瑠璃たちの目の前には、石造りの塔が立っている。

 雲の上まで続いており頂上が見えない。


「ここにきた瞬間めちゃくちゃ怖くなってきました」


「今の俺たちなら余裕だろ。これもあるしな」


 そう言って彼がアイテムボックスから取り出したのは、白く輝いているナイフ。


 これは第二階層の遺跡で手に入れた武器で、攻撃力が上がらない代わりに聖属性の物理ダメージを与えることができる代物だ。


「瑠璃さんが近距離で戦って、私とちょこちゃんが二人で回復役……でいいですよね?」


「ああ、攻撃魔法は一切使わなくてもいいから、俺の被ダメージにだけ集中してくれ」


「はい!」


「にゃ~ん!」


 瑠璃は短い階段を上がり、さっそくなかへと入って行く。


 内部はかなり広い円形の部屋になっており、複数の柱が立っている。

 また、床の至るところにツタのような模様が描かれている。

 

 生息している魔物は二種類で、どちらも今までとは比べ物にならないほど強そうだ。


 全身真っ黒の鎧を着ていて、両手に槍と盾を持っている甲冑(かっちゅう)

 黒い毛皮を生やした四足歩行の(くま)

 

「あの、最後にひとついいですか?」と月。


「なんだ?」


「もしそのナイフが通用しなかった場合、どうするんです?」


「あいつら二種類とも闇っぽい雰囲気だし、聖属性のダメージを与えたら効くとは思うけど……まあその時は素手だろうな」


「はぁ……。瑠璃さんならそう言うと思いました」


「俺に逃げるという選択肢はない」


「普通に牛から逃げてましたけどね」


「いや、あれは戦略的撤退だから」


「そうですか。早く戦ってもらえます?」


「やっぱり流された……」


 残念そうにつぶやきつつ、一番近くにいた熊へと近づいていく。


 とそこで、相手は瑠璃の存在に気づいたらしく、双眼を真っ赤に光らせながら向かってきた。


「グォォォー!!」


 瑠璃は力強く振り下ろされた爪を紙一重で躱し、通り抜けざまに聖なるナイフで横腹を斬る。


 かなり本気で力を入れたのだが、熊の毛皮が予想以上に硬いせいで三分の一ほどしか刃が通らなかった。


 直後、彼は相手からの反撃がないことに気づく。


「月、ちょこ! 今すぐ外に逃げろ!!」


 熊はダメージを与えてきた瑠璃ではなく、弱く見える一人と一匹を先に倒そうと判断したようだ。

 月もそのことに気づいたらしく「は、はいぃぃぃ!」と返答しながらちょこを抱っこし、急いで階段を下りていく。


「グオォ!」


 熊は勢いを殺すことなく階段を駆け下りていく。

 その途中で、追いついた瑠璃が背中にナイフを突き刺したが、気にしている様子はない。


 足の速さは、瑠璃、熊、月、ちょこの順番になっており、徐々に月との距離が縮まっていく。


「止まりやがれ!!」


 十回ほどナイフの抜き刺しを繰り返した辺りで、ようやく熊は瑠璃を放っておけない存在だと認識したらしく、振り返りざまに爪を薙ぎ払った。


「よっと」


 彼はそれをしゃがんで躱す。

 髪の毛が少しだけ切れて宙に浮いた。


「グオォォォ!!」」


 更に迫りくる左右の爪をなんとか避けつつ、一瞬の隙を見つけてはナイフを刺していく。


 瑠璃のほうが有利なのは明らかだった。

 このまま時間をかければ勝てるだろうと思っていたその時、


「瑠璃さん、背後危ないです!!」


「は?」と声を上げながら一瞬だけ後ろを向くと、甲冑が槍を構えていた。


「おわっ!?」


 反射的に横ステップを踏むも突きを躱しきることができず、横腹に切り傷を負った。


「おい! もう少しで腹の通気性がよくなっていただろうが!!」


 瑠璃は甲冑から槍を奪い取って、その勢いのまま反対側の熊に突き刺そうとする。

 しかし毛皮に塞がれてしまった。

 一切食い込んでいない。

 やはり聖属性の武器でないとダメージを与えるのは厳しいようだ。

 

 それでも甲冑の武器を取り上げることには成功しているため、完全に無意味というわけではない。


 その間にも月とちょこからヒールが飛んできて、横腹の切り傷が徐々に回復していく。


 瑠璃は槍を遠くへと放り投げ、熊の攻撃を躱しながらナイフで胴体を斬った。

 そして甲冑との間に熊を挟むような位置に移動する。


「瑠璃さん、逃げますか?」


「いや、勝てる」


 そんな瑠璃の言葉に月は一瞬、無理をしないでください! と言いそうになるも、彼の楽しそうな顔を見て「わかりました」と頷いた。


「それよりも、もう少し距離を取れ。まだこいつらがどんな攻撃を仕掛けてくるかわからないからな」


「はい!」


「グォォォ!!」


「遅い」


 瑠璃は熊の体当たりを避けながら首元を斬る。

 しかし相手は一切痛がることなく、再び月のほうに向かい始めた。


「チッ」


 彼は再び熊に追いついて背中にナイフを連続で刺していく。


「グオォォォ」


 鬱陶しそうに振り向きざまに振るわれた爪をバックステップで回避し、少しだけ横にずれて背後の甲冑によって放たれた黒色の魔法弾を避けた。


 瑠璃は背後の敵に少しだけ意識を向けつつ、熊に攻撃し続ける。


 とそこで、瑠璃のナイフが目に突き刺さるのと同時に、熊に腹部を殴られてしまった。


 あまりの衝撃に思わずナイフを手を放し、真横に吹き飛んでいく。


「瑠璃さんっ!」


「にゃ~ん!」


 月とちょこが同時に大声を上げた。


「グォォォー!?」


 熊は目に刺さっているナイフを引き抜こうと必死に暴れている。


「くそっ、一瞬油断したな」と立ち上がりながら瑠璃。


 お腹に三本の切り傷が入っており、武道着が破れてしまっている。


 仲間によるヒールによって少しずつ回復してはいるのだが、傷が大きいせいで血が流れ続けている。

 だがその程度で彼が止まることはない。


 甲冑による魔法弾を避けつつ、隙を見計らって熊に飛びかかり、目に刺さっているナイフを回収した。


「グォォォ!!」


 痛みによって暴れる熊。

 両手を不規則に動かしているため、動きが読みにくい。


 それでも瑠璃は無理やりリズムを合わせて攻撃していく。

 その間も甲冑の物理攻撃や魔法を回避している。


 もはや人間という生物が実現可能であろうギリギリの動作を行っていた。


 やがて瑠璃は二体の魔物を倒すことに成功したのだった。

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