第七十話【変異種】
数分後。
瑠璃が全て語り終えると、
「いや、それはさすがの瑠璃さんでも泣きますよ!」
月が眉を顰めて言った。
「だろ?」
「もし私が同じような夢を見ていたら、きっと瑠璃さんに泣きついてました」
「俺はもう落ち着いたけど、月だったら三日間は引きずっていた気がする」
「間違いないです。というか、パートナーが魔物に殺されて夜の海に攫われる夢って……うつ病になってもおかしくないレベルですよ」
「相手を大切に思っている分、余計にな」
「すごくわかります。……けど、どうしてそんな夢を見たんでしょう? もし正夢だとしたら、近いうちに私が死ぬことに──」
「──言うな。怒るぞ」
「……すみません」
「とにかく俺はもう眠れそうにない。夢の仕返しに、次に出現した魔物は最低でも十回以上息の根を止めてやる」
「は……はは。次の魔物さん、ご愁傷さまです」
そんな会話をしていると、突然海のほうからバシャン! という音が聞こえた。
数秒ほど遅れて甲板に魔物が飛び乗ってくる。
瑠璃は相手に視線を向け、
「……マジかよ」
思わずそんな声を漏らした。
──鉄の槍を装備している紫色の魚人。
そう、夢で見たあいつそのものだった。
「えっ、瑠璃さんがさっき話してた魔物の特徴にそっくりじゃないですか?」
月もそのことに気づいたらしい。
「ああ、そうだな……」
そう返答したあと、瑠璃の顔から感情が抜け落ちた。
拳を握り、ゆっくりと相手に近づいていく。
「ギョッ!!」
相手が突いてきた槍をほんの少しだけ横にずれて躱し、顔面をぶん殴った。
「ギョギョッ!?」と床に倒れる魚人。
瑠璃はそのまま馬乗りになり、顔に連打を加えていく。
しかし相手もやられっぱなしというわけではない。
こっそりと腕を動かし、鉄の槍を瑠璃の腹に突き刺そうとして──当たる直前で瑠璃に没収された。
彼はその槍を魚人の片目に突き刺す。
「ギョォォォッ!!」
更にもう片方の目、鼻、口、首の順番に穴を開けていく。
そこで二人の頭上からレベルアップの音が響いた。
どうやら魚人が戦闘不能になったようだ。
それでも瑠璃は止まらない。
「……」
鉄の槍を海に放り投げ、真顔で相手の顔面を殴り続ける。
「あ、あのぉ~。瑠璃さん?」
「……」
「もうその魚人さん……死んでますよ?」
「……」
瑠璃は立ち上がって魚人の足首を摑み、勢いよく持ち上げた。
空中でグルグルと回し、船の床に叩きつける。
衝撃によって顔面から血が飛び散った。
それを十回ほど繰り返した辺りで、
「瑠璃さん! もうやめましょう。これ以上床を汚したら掃除が面倒ですっ!」
月が大きな声で止めに入った。
「仕方ない……。そろそろやめる、かぁ!!」
死体を力強く床に叩きつけ、足首から手を離した。
全身血まみれで、骨が変な方向に曲がっていたり、いろんな物がむき出しになっていたり、見るも無残な姿になっている。
一応この魚人はここら辺の海域にしか生息しない変異種であり、かなりの強敵なのだが、本気になった瑠璃の相手ではなかったようだ。




