第六十四話【出港】
瑠璃はロープを引っ張って船を砂浜へと寄せ、なかに飛び乗った。
すぐに振り向いて月へと手を伸ばす。
「どうぞ、お姫様」
「ありがとうございます、私の王子様」
月はちょこを抱っこし、彼の手を握った。
「よいしょぉぉぉ!! …………はぁ、重かった」
「ちょこちゃん、言われてますよ?」
「にゃ~ん!」
「いや、総重量のほとんどがお前だから」
「そんなことはありません。女の子は甘いスイーツでできているんですから、軽いに決まってます!」
「本当か?」
「本当です。女の子=スイーツだと言っても過言ではありません」
「じゃあちょっと試してみるか」
瑠璃は彼女と唇を重ね、月を味わっていく。
「んん……やっ」
そんな声を上げつつもどこか嬉しそうな様子の月。
脳がしびれる感覚に、思わず抱っこしていたちょこを落としてしまう。
ちょこは猫だけあって上手に着地した。
数秒ほどでキスをやめた瑠璃は、納得したように頷く。
「確かにスイーツだな。というかそれ以上に甘い気がする」
「あの、瑠璃さん」
「ん、なんだ?」
「……もう一回してください」
「進んでない時間がもったいないし、まずは出発しよう。だから、またあとでな」
「むぅー……。私は今したいんですよぅ」
「俺はハンドルのほうを見に行くから、月はキャビンのなかに何かないか探索してみてくれ」
「はぁ…………。わかりました」
月は不満そうな表情をしつつも、ちょことともに小さな部屋のなかへと入っていった。
そんな彼女の後ろ姿を見送ったあと、瑠璃はキャビンの上に移動してハンドルを握る。
しかしエンジンがかかっていないせいで進む気配がない。
「まあ、だよな」
帆がついていないため、風の力を借りるわけでもない。
「ということはどこかにスイッチみたいなのがあるはずなんだけど……おっ、これか?」
そう言ってハンドルの横に設置されていた小さめのレバーを下におろすと、船がゆっくり前進し始めた。
「おぉ、すげぇ」
雲ひとつない青空。
真っ赤な太陽。
涼しい空気を運んでくる潮風。
「いい航海日和だな」
周囲を見渡してみると、いろんなところで魚が飛び跳ねている。
魔物とは違うため、この船を襲ってくることはないだろう。
しかし魔物は別だ。
出発して一分と経っていないにもかかわらず、
「ギョギョォ……」
うなり声を上げながら船の上に一匹の生物が飛び乗ってきた。
それにより船が揺れる。
瑠璃は「なんだあいつ」とつぶやきつつ、キャビンの上から甲板へと下りていく。
なぜか二足歩行の水色の魚。
瑠璃とほとんど同じ身長で、茶色の棒を手に持っている。
相手はたどたどしく歩きながらも棒を振り下ろしてきた。
「遅すぎだろ」
瑠璃は棒を掴んで奪い取り、逆に魚人の顔面を薙ぎ払う。
「ギョッ!?」
「まだまだぁ!!」
拳で強烈な連打を加えていき、最後にハイキックでとどめを刺した。




