第五十五話【緊急依頼】
およそ一ヶ月の時が過ぎた。
瑠璃たちはひたすら冒険者ギルドで依頼を受けたり、荒廃した市街地へと出向いてレベル上げを行っていた。
時刻は朝、大通りにて。
「この町、居心地いいですよね~」と月。
「居心地いいなぁ~」と背伸びをしながら瑠璃。
二人の間には丸くて白い猫──ちょこが、てくてくと歩いていた。
サイズこそ変わっていないものの、レベルが上がったおかげでかなり強くなっている。
「瑠璃さん、そろそろ先に進みましょうか。毎日朝から晩までレベル上げをするのはもう飽きました。この町はすごくいいところなんですけど、私たちの目的はダンジョンのなかで暮らすことではないので……」
「まあな。じゃあ、あと一年くらいこの周辺でレベル上げをしてから進むか」
「嫌ですっ!」
「冗談だ。なら今日で最後にしよう。冒険者ギルドで何かクエストをこなして、町中でアイテムを大量に購入して、明日の朝に出発だ」
「いいですね。そうしましょう!」
◇
冒険者ギルドへ行くと、なぜか騒がしかった。
大量の人たちが掲示板に集まっているのはいつも通りなのだが、今日は誰もカウンターへ依頼書を持っていこうとしない。
「おーい、どうしたんだ?」と大声で瑠璃。
背は小さいがかなりごついおっさんことヴィクターが、こちらを振り向き、
「おぉ、お前らか。ちょうどいいところにきた。あの大きな張り紙を見てみろ」
「ん?」
瑠璃たちは人混みを上手いことかきわけて掲示板の前へと移動。
ちょこは月が抱っこしている。
「どれどれ……」
【緊急依頼
廃墟の市街地付近の草原にて、キングバルーンの出現が確認された。
腕の立つ冒険者を複数人募集中!
ここ最近レッドバルーンが狩られすぎたことが原因で出現したと思われる。
出発は本日7:00。
報酬は参加費200ゴールドに加えて、貢献度に応じて上乗せ。】
「なんかすごいことになってますね」と月。
「だろ? 俺も数分前にやってきたんだが、参加する予定だ」
ヴィクターが腰に手を当てて言った。
それから別の冒険者のほうを向き、
「にしても、レッドバルーンを大量に狩ったのはどこのどいつだ? そんなことをしたらキングバルーンが現れるに決まってんだろ」
そこで月は「あっ」という表情を浮かべ、こっそり瑠璃に耳打ちする。
「……あの。私、レッドバルーンを大量に狩っている犯人、知ってるかもしれません」
「奇遇だな。俺も心当たりがある」
「絶対、瑠璃さんですよね?」
「100パーセント俺だと思う」
「これは参加しないわけにはいかないですよ」
「まあ俺が原因じゃなくても、強敵と戦えるなら行くんだけどな」
「ふふっ、瑠璃さんらしいですね」
「ちょこ、手伝ってくれるか?」
そう言って瑠璃が首元を撫でると、ちょこは「にゃ~ん」と気持ちよさそうな反応を返した。
続いて彼は月の顎の下を撫でながら、
「月も手伝ってくれるか?」
「に……にゃーん」
「声小さっ!?」
「仕方ないじゃないですか! こんなに人がいたら恥ずかしいんですよぉ」
「今更だろ」
「まあ確かに、パルスの町で一番のラブラブカップルだと噂になっていますし、今更なんですけど……羞恥心はあります。こういうのは私たちだけの時にしてください」
瑠璃は返答することなく、再び彼女の顎下を撫でる。
「にゃ~ん。……いい加減にしてもらえます?」
「じゃあ乗るなよ」
そんなやり取りをしつつ少しの間待っていると、筋骨隆々で背中に大剣を背負っているギルドマスターがやってきた。
眼帯とワイルドな無精髭が特徴だ。
「おい、お前ら。ここに集まっているのは全員、緊急依頼の参加者で間違いないか?」
その言葉に数人の冒険者が離れていき、瑠璃たちを含めた10人が頷く。




