第五十四話【猫のスキル】
外の正門前。
道から少し外れた草原にて、瑠璃がつぶやく。
「さて、つまらない依頼のことは置いといて、とりあえずレベル上げをするぞ」
「結局そうなるんですね……。まあクエストをクリアしたところでさほどお金はもらえないので、別に構いませんけど」
「戦い方については、いつも通り俺が勢いに任せて魔物を倒すから、月は回復魔法を頼む。それと、絶対にちょこを守るんだぞ」
「はい、任せてください!」
「もしちょこが魔物に殺されるようなことがあれば、お前をちょこちょこにするからな!」
「もちろんで……ってそれ、どういう意味ですか?」
「俺もわからん」
「なら言わないでくださいよ」
そんなやり取りのあと、瑠璃はさっそく赤い風船を一体倒した。
直後、月のほうからレベルアップの音が響く。
「……ん?」と瑠璃。
「あれ? 今私だけレベルアップしませんでした?」
「…………今までは全く同時だったよな?」
「ちょっと待ってくださいね」と月はステータス画面を開いていく。
その間も瑠璃は辺りを見渡して魔物を探している。
「あ……えっ?」
「どうした?」
「私のレベルは上がってなかったです」
「ということは……」
「そういうことですね。パーティー一覧のところに、瑠璃さんのステータスだけじゃなくて、ちょこちゃんのも表示されてます」
瑠璃は「マジで?」と言いながらメニュー画面を操作していき、
「……うん、確かにあるな。しかもレベルが2になっている」
「名前はまだないみたいです。私たちが勝手に名付けて呼んでいましたけど、自分で入力する感じなんですね」
「俺が入れとくよ。えっと、こいつの名前はなんだったっけ? ……おしり──」
「──ちょこ!!」
「おぉそうだった。にしても、おしりからのちょこって……なんか汚いな」
「瑠璃さんがおしりなんて言うからです! ちょこ単体だったらかわいいんですよ!」
「わるいわるい。で、猫の名前はおしり……じゃないな。あぶねぇ……。もう少しで決定するところだった。【ちょこ】っと。はいOKだ」
月はパーティー一覧を確認し、頷く。
「はい、問題ありません」
「で、ちょこのステータスとスキルのポイントも割り振れるみたいだけど……これに関しては二人で相談して育てよう」
「それはもちろんですよ。瑠璃さんに任せたら筋肉バカになりそうな気しかしませんからね」
「何言ってんだお前。俺がそんなことするはずないだろ」
「じゃあどう育てるつもりなんです?」
「攻撃力に極振り」
「筋肉バカじゃないですかっ!!」
「そうとも言う」
「そうとしか言いません」
「ちなみに月はどうする予定なんだ?」
「……う~ん。どのスキルをおぼえさせるかにもよるんですけど、幸運以外の数値を均等に上げたほうがいいと思います」
「まあ、それが妥当だよな」
「私としては、とりあえず殺されにくいようにHPを上げたいです」
「じゃあそうするか」
「というか、そもそもスキルって何をおぼえるんですかね? 私たちと同じなんでしょうか……」
つぶやきつつ、月は画面を操作していき、
「あれ? 三つしかありませんよ?」
「そんなことは…………確かに」
彼女の言う通り、習得できるスキル一覧には、
【猫パンチ】
【ヒール】
【魔法弾】
の三種類しか表示されていなかった。
「バランスがいいですね。前衛にも後衛にもなれるみたいです」
「とりあえず猫パンチにしよう」
「わかりました。魔法弾にしておきますね」
そう言って【魔法弾】のレベルを上げる月。
「おい!」
「あっ、すみません。間違えちゃいました~」
「…………そうか。間違えたのなら仕方ないな」
「次からは気をつけますね~」
「……あっ、間違えてステータスポイントを攻撃力に極振りしてしまった」
「えっ!?」
「けど、間違えたら仕方ないよなぁ〜。次からは気をつけるとしよう」
「…………うわぁ、本当に振ってるじゃないですかっ!」
「わるいわるい」
「攻撃力が強い魔法使いって……」
「ちょこはこれで満足だろ?」
「にゃ~ん」
「ならよかった」
「えっ、ちょこちゃんは満足してませんよね?」
「にゃ~ん」
「ほらぁ!」
「……ちょこは月が大好きか?」
「にゃ~ん」
「……ちょこちゃんは瑠璃さんが好きですか?」
「にゃ~ん」
「俺は月を愛しているか?」
「にゃ~ん」と同じテンポでちょこ。
「いや、お前が答えるんじゃねぇ!」
「どうやらちょこちゃんはノリがいいタイプみたいです」
「というか、そろそろレベル上げを再開するぞ! 全く……月のせいでいつも会話が終わらないんだよな」
「私のせいですか!? ほとんどの確率で瑠璃さんが原因じゃありません?」
「ほら、それが原因」
「……むぅ。瑠璃さんが喋りやすいのがいけないんですっ!」
「月が喋りやすいのがいけない」
「このままだったらまた会話が続いてしまう気がするので、ちょこちゃんに決めてもらいませんか?」
「あ~、それいいな。……なぁちょこ。俺と月だったら、どっちが喋りやすい?」
「にゃ~ん」
「どっちだよっ!!」
「どっちですかっ!!」
困った顔で「にゃ~ん」と鳴くちょこであった。
それから二人と一匹は、町の正門付近でレベル上げを行っていく。




