第四十五話【裏の人間】
「ムカつくんですけど~。店から男呼ぶよ?」と背後から女性の声。
「そういえば、月。やっぱりこの武道着も嫌になってきたんだけど?」
「はい?」
「ピチピチすぎて鬱陶しいから布の服に戻りたい」
「買ったばかりじゃないですか! せめて破れるまでは使ってください。防御力もかなり上がっていますし、さすがにもったいないですよ」
「やっぱり装備ごときに縛られるのは納得がいかないんだよ。……俺を縛ってもいいのは月だけだからな」
「今の言葉、忘れないでくださいね?」
「おい、なんか顔が怖いぞ。やっぱり忘れてくれ」
「もうだめですよ~。とりあえず今日の夜、紐か何かで身体を縛るので覚悟していてください」
「そんなプレイは望んでねぇ!」
「じゃあ普通だったら……」
「普通だったら?」
「いえ、なんでもありません」
「うっざ」と踵を返して歩き出す女性。
「ちなみにだけど、布の服とこの武道着だったら月はどっちが好き?」
「間違いなくこっちですね」
「やっぱりか」
「けど、どちらが瑠璃さんらしいかと言われたら圧倒的に布の服です」
「まあ、だよな」
月は身体を揺らして水色のローブをひらひらとさせながら、
「逆に聞きますけどこのローブと布の服、どちらが私に似合ってますか?」
「同点!」
「それ、どういう意味です?」
彼は数秒ほど時間を空けたあと、低音ボイスでつぶやく。
「月は月だから」
「名言っぽく言っておけばなんとかなるというその魂胆が気に食わないので、ちゃんとわかりやすく言ってもらえますか?」
「要するに、元がいいから何を着ても最高級ってこと」
「けどそのなかでも絶対に一番を決めなければいけないとしたら、どっちですか?」
「う~ん。無理をして決めるのであれば、そのローブかな?」
「あっ、やっぱり」
「一応言っておくと、最高級のなかでもトップに君臨しているのは裸だ」
「…………変態」
「まあな」
「私も、瑠璃さんの裸体…………好きですよ?」と頬を赤く染める月。
「お、おう。やっぱり今日の月はなんかおかしいような……」
そんな会話をしつつも宿屋へと到着した、その時。
「おい、こいつのことか? お前に手ぇ出した馬鹿野郎ってのは?」
後ろから迫力のある声が聞こえてきた。
「そうそう。あたしこの男に触られてマジ嫌な思いしたんだけどぉ」
振り向いてみると、筋骨隆々のスキンヘッド男と、先ほどの扇情的な女性がいた。
「おぉ、楽しくなってきたなぁ」と瑠璃。
「なんでそんなに嬉しそうなんですかっ!? 今、変な言いがかりをつけられて絡まれようとしているんですよ?」
月がツッコミを入れた。
「だって人と戦える機会なんてめったにないじゃん。いつもテレビで格闘技の試合とかを見ている時に、俺が出場したら絶対勝てるような気がしていたんだよ」
「はぁ……。じゃあせめて殺さないようにだけはしてくださいね?」
「任せとけって」
「おい、てめぇら!! さっきからなめてんのか、こら。お前がこいつに手を出したのかって聞いてんだろうが」
「あー、出したよ」
「は?」となぜか声を上げる女性。
まさか認めるとは思っていなかったのだろう。
筋骨隆々の男は指をポキポキと鳴らしながら、
「よくもぬけぬけと……。殺す」
「よし、いいねぇ。頼むから口だけじゃなくてガチで殺しにきてくれよ? なんなら武器を使ってくれても構わない。もちろん俺は拳でいくけど」
「あ?」
「あー、あと月。俺が攻撃を受けたとしても絶対に魔法で援護したり回復したりしないでくれ」
「はい、わかってます」
「というわけで、こちらから勝負の邪魔をすることはないから安心しろ。じゃあもう始めるけど準備はいいか?」
「なんでてめぇが仕切ってんだこら」
「だって楽しみなんだもん。……人を死なない程度に半殺しにして血祭りにあげるの」
突然瑠璃の口から発せられた低音ボイスに、正面の二人の顔色が変わる。




