第四十話【第一階層・最深部】
それから二人は丸一日かけて、崖の上の屋敷へと戻ってきた。
「で、これをはめたら開くと思うんだけど、先には何があるんだろうな」
扉の前で牛の石版を眺めつつ、瑠璃がそうつぶやいた。
「牛よりも強い魔物が待ち構えていたりしたら嫌ですよ?」
「仮にいたとしても水爆弾があれば余裕な気がする」
「まあ、やばい威力でしたからね」
「……準備はいいか?」
「はい。大丈夫です」
瑠璃は扉のくぼみに石板をはめ込んだ。
数秒ほど遅れてガチャッ! という音が響き、勝手に開き始める。
その先には──石造りの階段が地下へと続いていた。
「あれ?」
「階段……だけですね」
「第一階層の終わりっぽいから、てっきりボスがいるのかと思っていたんだが……ま、下りてみるか」
「はい。もしかすると階段の先にボスと戦う場所があるのかもしれません」
そんなやり取りをし、階段を下りること数分。
行き止まりにたどり着いた。
水色に輝くクリスタルが宙に浮いている。
「なるほど、どこに繋がっているのかわからないやつですね。私は特殊なボス部屋にワープさせられるような気がしますけど、瑠璃さんはどう思います?」
「町!」と彼は即答。
「…………はい?」
「俺の直感がこの先に町があると言っている」
「ここはあくまでダンジョンなのでさすがにそれはないでしょう……と言いたいところですが、鬱陶しいことに毎回瑠璃さんの勘は当たるんですよね」
「鬱陶しいとか言うな。俺だっていつ外れるかわからないし、毎回運頼みなんだよ」
「私が思うに運ではなく、瑠璃さんは本当に何か持ってる気がします。もしかすると、特別な背後霊でも憑いているんじゃないですか?」
「あー、その可能性はあるかもしれない。きっと強運で最強でかっこいいやつが力を貸してくれているのかも」
「案外私が背後霊だったりして」と微笑みながら月。
瑠璃はたっぷり十秒ほど間を空けたあとで、
「…………何言ってんだ、お前」
「すみません、なんでもないです。聞かなかったことにしてください」
「フィギュアスケートの世界選手権でも開催されているのかと思うくらいのスベリ方だったな。四回転ジャンプは無事に成功したか?」
「そ、そんなに馬鹿にしなくてもいいじゃないですか!」
「まあ安心しろ。たとえ月がどんなにつまらない女だろうと、俺は嫌いになったりしない」
「むぅぅぅ」
「なぜなら、すでに好感度が限界突破しているせいで、多少下がってもカンストしていることに間違いはないからな」
「さっきので下がったんですか!?」
「微量だけど減少した。でも、スベったかわいさによる増加率のほうが勝っているから、実質プラスだ」
「あ、それはよかった……です?」
「話が逸れてしまったな。そろそろ町に行こう」
「もう転移先が町なのは確定事項なんですね!?」
「うん」
「ちなみに話を逸らすんですけど、私の瑠璃さんに対する好感度の数値は、毎日びっくりするくらい上がったり下がったりしていますから」
「そうなのか?」
「はい、一日として安定していることがありません。一番ひどかったのは洞窟のなかでお腹の音についていじられた時です。ゼロを下回ってマイナスゾーンに突入しましたからね」
「……以後気をつける」
「一応今はプラスゾーンにいるので安心してください」
「ふぅ、よかった」
瑠璃がそう言って安堵の息を漏らした瞬間、ぐぅぅぅという音が響いた。
向いてみると、顔を真っ赤にして俯いている月の姿。
「…………」
瑠璃は何も言わずにただじっと彼女を見つめている。
反応に困っているようだ。
「い、今、急激にマイナスまで落ちましたよっ!」
「いや、俺のせいじゃねぇだろ!」
「瑠璃さんが悪いんですぅ〜」
彼は顎に手を当てて少し悩んだ後、「……まあ、安心しろ」と前置きし、
「かわいかったぞ」とウインク。
「おめでとうございます。このたび初めて好感度がマリアナ海溝まで到達しました」
「深っ!?」
「とにかく早く先に進みますよ! いつまで立ち止まっているんですか」
「…………今進んでいないのは確実に月のせいだからな?」
「それは……はい。自覚があります」
「まあいいや。町に行くぞ」
「そうしましょう」
そんなやり取りをし、二人はクリスタルに触れた。
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