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第三十八話【水弾】

 数分後。

 

「瑠璃さ~ん! 平気ですかぁー!」


 川の向こうで手を振りながら月が問いかけてきた。

 

「余裕すぎて牛に追いつかれそうー!」と瑠璃。


 彼の後ろには牛の姿。

 目を真っ赤に光らせて追いかけてきている。

 

「は~い、大丈夫そうですね!」


 瑠璃はスピードを緩めないまま川に飛び込み、月の元へと向かっていく。

 

「あぁ、つめてぇ」


「私もまだ乾いてません……って、あの牛。本当に入ってこないですね」


「だろ?」と瑠璃は一瞬振り向いて、牛が立ち止まっていることを確認。


「さっそく始めてもいいですか?」


「頼んだ。なるべく水爆弾は温存したいから、MPがある限りやっちゃってくれ」


「了解です」


 月は手のひらを牛に向けて口を開く。

 

水弾(すいだん)!」


 直後、MPを消費して創られた水属性の魔法弾が飛んでいき、相手の顔面に命中した。

 

「モォッ!?」

 

 瑠璃が殴った時とは違い、顔を歪めて明らかに痛そうなリアクションをする牛。

 

「ナイス」


「もっといきますよぉ! 水弾!」


 再び顔面に命中した。

 

 瑠璃は川から上がって牛のほうを向き、

 

「ばーか、バーカ、馬鹿、フール!!」


「いや、なんですかその低レベルな悪口? 水弾!」


「悔しかったらこっちまできてみやがれー!!」


 どうやら瑠璃は牛を挑発する役目のようだ。


「相手がこないのをいいことに、めちゃくちゃ調子に乗ってますね。水弾!」


「うっしっしぃ~!」


「いや、その年でうっしっしぃ~って。水弾!」


「なんだお前。馬鹿にしてんのか?」


「し、してませんよ。水弾!」


「明らかにしてただろ」


「そこまで言うなら、もっとレベルの高い悪口を言ってみてくださいよ! 得意の四次元の回路はどうしたんです?」


「…………」


「あれっ、どうしました? 思いつかないんですか?」


「おい、塩タン!! ヨハネス・フェルメールの【牛乳を注ぐ女】に描かれている茶色のツボの中身……絶対お前の牛乳だろ! 全世界に貴様の恥ずかしい液体が晒されているぞぉ~! 残念だったなハラミ! あとこの際だから言っておくけど、お前のゲップに含まれているメタンガスと二酸化炭素のせいで地球温暖化が進んでんだよ。もう少し控えろタンカルビ! そして最後に、さっきから魔法が止まっているぞ! もっとちゃんと働きやがれ俺好みの貧乳!」


「いきなり私に飛び火しましたね!? というか本当に忘れてました。水弾!」


「どうだ? 俺が放つ罵詈雑言の嵐は。なかなかレベルが高くないか?」


「悪口……なんですかね?」


「どう考えても悪口だろ」


「まあそういうことでいいです。水弾!」


「モォォォ!」と不快そうに顔を顰めつつ、川に入ろうとする牛。


 だがやはり苦手なようで、水面に触れた瞬間足を上げている。


「水弾! というか、さっきから思ってたんですけど」


「ん?」


「水弾! 瑠璃さんめっちゃサボってるじゃないですか」


「普段は俺が戦っているんだから、こういうときくらい別にいいだろ。あいつは月じゃないと倒せないんだよ」


「そうなんですけどね。水弾!」


 とその時、


「モオォ……」


 牛が踵を返して逃げ始めた。

 

「あっ、瑠璃さん!」


「っ、任せとけ」

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