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第三十話【沼】

 それから山道を歩くこと一時間。


 山を下りた先には、辺り一面に沼が広がっていた。


 乾燥している地面がほとんどないため、濁った水を避けては通れないようだ。

 

「うえぇぇぇ……」


 月が残念な顔で残念な声を漏らした。


「これは……ひどい」


 沼には蓮の葉がいくつも浮いており、その上に乗っている小さなカエルがゲコゲコと鳴いている。

 あれは魔物ではなく、ただの生き物だ。

 ゆえに絶命させても経験値を得ることができない。

 

「なんかいますよぉ……」


「カエルのことか? 別に珍しくもないだろ」


「違います。あそこ」


 月が指さした先には、全長一メートルほどのナメクジの姿。


「あー、かわいいな」


「どこがですかっ!?」


 他にも魔物は複数いるらしく、その全てが気持ち悪い。

 

 緑色で硬そうな鱗の蛇。

 全身黄色で比較的大きなバッタ。

 

 そして沼の中心付近に、巨大なカエルの姿が見える。

 真っ赤で全長六メートルはあるだろう。

 動くことなくじっとこちらを見つめており、非常に不気味だ。

 

「私……こんなところ進みたくありません」


「でも戻るわけにもいかないだろ」


「そうなんですけど……。特にあの赤いカエルが怖すぎて、若者の言葉で感情を表すならマジ無理って感じです。というか、あのカエル……なんかずっと私たちを見てません?」


「そう言われたら、確かに見られている気がする。月に一目惚れしたのかもしれない」


「冗談でもやめてくださいよ! あんなのに好かれるなんて、瑠璃さんに嫌われるのと同じくらい嫌です!」


「ありがとう?」


「あ、はい」


「まあ、とにかく行くぞ」


「…………わかりました」


 不承不承ながらも頷き、月は沼に足を踏み入れる。


 すねまで浸かり、冷たい汚水が一瞬にして靴のなかに入ってきた。

 

「あぁぁぁ。この靴、せっかくここまで汚さないように使っていたのにぃ……」と月。


「こればかりは仕方ないな。綺麗な真水で洗って乾かせばまた使えるだろ」


 そう言って瑠璃も沼へと入っていく。

 

「うん、冷たい」


「冷静ですね」


「俺は冷静の塊と言っても過言だと思ったら実はそうじゃなかった男だからな」


「言い回しがわかりにくいです」


「要するに冷静ってことだ」


「あっ、瑠璃さん。ナメクジが一匹こっちにきてます!」


「任せとけ」


「初めての敵なので慎重にお願いしますよ?」


「おう」


 瑠璃はナメクジに向かって走り出した。


 近づいて勢いよく相手を殴り飛ばした瞬間、ナメクジの口元から酸が放出される。

 

 反射的に躱そうとした瑠璃だったが敏捷性が微妙に足りなかったらしく、胸にかかってしまった。


 しかし瑠璃は気にすることなく殴りまくって相手を徹底的に潰していく。

 

 それから「ふぅ……」とため息を吐き、月の元へと戻る。

 その途中で、

 

「あれ、瑠璃さん。服……胸の部分が溶けてますけど」


「ん? …………いやんっ!!」


 妙に甲高い裏声を上げながら両手で乳首を隠す瑠璃。

 

「なんですかそのアニメの女子みたいな反応!?」


「月くんのえっち!」


「…………」

 

「いつまで見てるのっ!!」


「そっちこそいつまで茶番を続けるんです?」とジト目で月。


「よし、冗談はさておき……別になんともないぞ」


 そう言いながら瑠璃は布の服を脱ぎ捨て、自分の身体を確認。

 

 特に外傷はない。


「どうやら衣服だけを溶かす攻撃みたいですね」


「ずいぶん悪趣味なやつだな。……俺はとりあえず上半身裸で攻略していくことにしよっと。どうせ溶かされるかもしれないし、新しく着ても布の服の無駄だ」


「ですね」


「というわけで月。今すぐナメクジにツッコんであの液体を浴びてくるんだ」


「なんでですかっ!?」


「できれば体全身が望ましい」


「馬鹿なことを言わないでください! 絶対に嫌ですからね?」


「構うことはないだろ。俺以外に誰もいないんだし」


「それでも外で裸になるのは……その、恥ずかしいんです!」


「俺は別に恥ずかしくないけど?」


「男と女の基準を一緒にしないでくださいよ」


「まあ安心しろ。月の裸は俺が守ってやる!! あのガン見カエルになんて絶対見せてやらねぇ」


「そうしてください」

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― 新着の感想 ―
[一言] 瑠璃のサービスシーン......月にしか需要ない...... ナメクジ・カエル・ヘビその他生理的嫌悪を催すもの×美少女って、どうしてあんなに嗜虐心がそそられるんでしょうね。異論は認めます。
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