第二十九話【スキル】
かなり遅れて橋を渡り切った月は、その場に座り込んで「はぁぁぁ」と大きなため息を吐いた。
瑠璃はそんな彼女の隣に座って笑う。
「お疲れー。楽しかったな」
「もう二度とごめんですよ」
「……さて、しばらく休憩でもするか。かなり疲れているみたいだし」
「はい。ありがとうございます」
二人は座ったまま周囲を見渡す。
再び山道が続いており、崖と隣り合わせなのも同じだ。
空中に浮いている魔物の姿も見える。
座ったまま五分ほど休憩し、ようやく二人は進み始めた。
「よいしょ!」
さっそく羽の生えている豚に右ストレートを入れる瑠璃。
「ブヒィィィ」
相手がフラフラと落下してきたタイミングで更に膝蹴りを加え、両手で地面に叩きつけた。
その後、一方的に連打を入れ続ける。
相手に一切の反撃を許さない展開。
やがて豚が血まみれで動かなくなった頃、ピコーン! という音が二人の頭上から響いた。
「おっ、レベルが上がったな」
「ですね」
これで瑠璃と月のレベルは26。
この付近を攻略する強さとしては充分すぎるほどだ。
二人はメニューからステータス画面を開き、それぞれ操作していく。
ステータスポイントを好みで振り、スキル一覧へと移動した時、瑠璃がふと悩み出す。
「う~ん」
「ん? どうしたんです?」
「う~~~ん」
「便秘ですか?」
「そうなんだよ。最近食事や水分が充分に取れていないせいか、全然あれが出てこないんだよな。そのせいでお腹が張ったり、腹痛や吐き気があってわりとしんどい。更にそれだけじゃなくて、眩暈や食欲低下も伴っているのが辛いよな。下剤を使えば楽になるんだろうけど、薬に頼るのは身体に悪い気がするし、何より負けた気分になるから使用したくない。だからとりあえず身体を動かしたり、水分を取ったりして自分で治してみようかなと思っているんだけど、もしそれでも治らなければ、医者はこのダンジョンにはいないから月に相談することにするよ。一人で悩むことによって余計ストレスが溜まるから悪循環な気がするし、きっと誰かに頼ったほうがいいよな! だからその時は頼む……って、そうじゃねぇよ!!」
「いや……ツッコミまでが過去最高に長かったですね! 途中から本当に便秘なのかと思って心配しましたよ?」
「便秘なんて生まれて一度もなったことねぇよ!」
「じゃあ何を悩んでいるんです?」
「そろそろ何かスキルを習得しようと思ってな」
「へぇ、とうとうですか」
瑠璃は画面をスクロールしながら、
「とはいっても、ピンとこないんだよなぁ」
「私はもうヒールのレベルを上げて暇なので、ちょっと探してみますね」
「頼む。いいのがあったら教えてくれ」
「は~い」
探し始めてすぐ、月が「あっ、これなんてどうですか?」と言って、
「鼓舞。MPを消費し続ける代わりに攻撃力を二倍にするスキルです」
「それは俺も見たけどMPを使うから却下だ」
「じゃあ【強打】なんてどうです? 天神ノ峰団の団長こと村雨さんが愛用していたスキルですけど」
「ああ、拳で与えるダメージを増やすやつか。MPを使うから却下だ」
「……はやぶさ斬りはいかがでしょう? 一度斬ったらダメージが二倍になるっぽいですよ。これを機に剣を使ってみるのもいいかもしれません」
「MPを消費するから却下だ」
「…………捨て身!」
「一時的に防御力を捨てて攻撃力を増やすスキルだろ? MPを消費するから却下だ」
「………………吸血斬り」
「M──」
「──Pを消費するから却下だ! でしょ?」
「よくわかったな」
「というかスキルを習得する気あります?」
「あるから探しているんだよ」
「使用系のスキルってそもそもMPを使うものなので、瑠璃さんの言い分だったら何もおぼえられないですよ」
「……それもそうだな」
「なので、常時能力を発揮するスキルのほうがいいかもしれませんね」
「それってあれだろ? スキルレベルが低いうちはほとんど効果を発揮しない感じのやつ」
「そうです。たとえばカウンターとか。……物理攻撃を受けると自動で敵にダメージを反射するんですが、スキルレベルと自身の攻撃力に応じて相手に与えるダメージが増えます。とはいっても、その割合はスキルレベルのほうが圧倒的に多いんですけどね。ダメージを食らうのが好きな瑠璃さんにはぴったりかもしれません」
「採用!」
短くそう返答し、瑠璃は【カウンター】のレベルを上げた。
「えっ!? そんなあっさりと決めます?」
「せっかく月が選んでくれたし、実際効果も俺向きだろ」
「まあ、そうですけど……」
「今後は【HPアップ】と【攻撃力アップ】のレベルを上げつつ、こいつを育てていくことにしよう」
そんな感じで瑠璃は【カウンター】のスキルを習得したのだった。




