第二十話【再びしりとり】
「ふぅ……」
特に何が起こるわけでもなく洞窟の前まで帰還した瑠璃と月は、同時に胸をなで下ろす。
「なんですかあれ。聞いてませんよ」
「俺も聞いてねぇよ」
「絶対に勝てそうにありませんでした」
「正直、スタート地点にいた牛よりもやばいと思う」
「ですよね」
「……さて、戻るか」
そう言って瑠璃は洞窟の入り口に立てかけていた松明を手に取った。
「それ、まだ燃えていたんですね」
「どういう理屈なのかは考えても無駄だろ」
「私もそんな気がします……。あ、瑠璃さん」
「ん?」
「洞窟に入るということは、あのしりとりが再開されるということなので、次から【ね】で喋り始めてください」
「……っ!」
文句を言いかけた瑠璃だったが、ルールを守る気はあるらしく口を噤んだ。
そのままゆっくりと真っ暗な階段を上り始める。
「……」
月はすぐにしりとりが始まらないことに不満をおぼえて頬を膨らませつつも、彼の服を摘まんで後ろをついていく。
「猫!」
突然瑠璃が叫んだ。
一瞬敵襲かと思ったが、すぐにしりとりだと気づく月。
「…………コミュニケーションはしっかりと取るようにしてください。いきなり単語を放り込まれても意味がわかりませんからね?」
「猫!」
「これは卑怯だと思います。普通にしりとりしてくださいね」
「猫!」
「子どもみたいな真似はやめてください。いいですね?」
「猫!」
「…………」
彼が攻略法を見つけた瞬間だった。
月は「むぅぅ」と不機嫌そうな表情を浮かべる。
「こ、こちらとしては別に猫の一点張りでも全然問題ないんですけど、それだと客観的に見て絶対につまらないですよね?」
「猫!」
「小癪な真似をしないでください」
「イリオモテヤマネコ!」
「…………」
「……」
「こんな展開、本当につまらないです!」
「スペインオオヤマネコ!」
「……」
その後、月が一度も喋ることなく分岐点へと戻ってきた。
瑠璃は壁に向かって勢いよくジャンプし、手に持っていた松明を元の位置へと戻す。
それから彼女のほうを向いて、大きい通路の進行方向を指さした。
進みたいという意思を伝えているようだ。
「こっちであっているんです?」
「スペインオオヤマネコ!」
大声でそう返答し、瑠璃は歩き出した。
月は頬を膨らませつつもあとを追う。
進むこと十分ほど。
ようやく洞窟の外にたどり着いた。
「ふぅ……。これでやっと自由に喋ることができます」
「俺の気持ちがわかったか?」
「まあ……はい。でも、同じ言葉ばかり使うのはずるいですよ!」
「ルール上禁止はされていないからな」
「そうですけど、やられた側は面白くありません」
「元はと言えばお前が【ね】で終わらせるからだろ。猫以外に【ね】から続く言葉なんてあるか?」
「数えきれないくらいありますよ!」
「ま、それは置いといて、やっぱりこっちが正解っぽいな」
瑠璃たちの目の前には草原が広がっており、土の道が続いている。
地面があまりでこぼこしておらず、平坦すぎるほどの平坦。
所々に巨大な木や岩があるくらいで、基本的には草のみだ。
そのため、辺り一面が緑色の絨毯に見えなくもない。
そして薄っすらとだが、かなり遠くに目的地のような物が見える。
ここからだと石造りの建物だということしかわからない。
道なりに進めばそのうちたどり着けるだろう。




