第十六話【洞窟】
分かれ道を20分ほど進んだ辺りで、瑠璃たちは川に到着した。
目の前には小さい木の橋がかかっており、向こう岸へと続いている。
水深が浅いため、橋がなくとも渡れそうだ。
「見た感じ橋の向こうも今までと同じような道のりが続いているけど、特に強そうな魔物は見当たらないな」
全長一メートルほどの黒い蟻。
丸っこい見た目でオレンジ色の猪。
青色のズボンを履いている猿。
「はい。今の私たちなら余裕だと思います」
瑠璃は橋の上を渡りつつ、
「どうする? 新しい魔物がうろついていることだし、何日かレベル上げをするか?」
「本当に好きですね」
「もはや呼吸をするのと同じだからな」
「私は構いませんけど……本格的にレベル上げをするのであれば安全な拠点が欲しいところではあります」
「確かに……。じゃあしばらくは魔物を無視して進むか」
「そうしましょう」
向こう岸の草原を進み始めて30分が経過した。
結局小屋のようなものは一切なく、ただひたすら道が続いていた。
たまに魔物が襲ってくるのだが、森で一週間もレベルを上げ続けていた二人にとっては脅威でもなんでもない。
瑠璃が近距離で倒し、ダメージを負ったら月がヒールで治す。
合計で十匹以上倒したのだが、二人のレベルが上がることはなかった。
単純に森で上げすぎたせいだろう。
そして今現在、目の前には巨大な山があり、道なりに洞窟が続いている。
幅も高さもわりと広い。
一定距離ごとに壁に松明が設置されているおかげで、薄暗い程度で済んでいる。
「いかにも怪しいんですが……」
「けど他に道があるわけでもないし、進むしかないだろ」
「怖いので手を繋いでもらってもいいですか?」
「は? えぇ……マジかよ。もちろんいいに決まってるだろ!」
「なら最初に嫌そうなリアクションをしないでください! 不安になるじゃないですか」
「悪い悪い」
「それは悪いと思っていない時の言い方ですね」
「ほら、行くぞ」と瑠璃は彼女の手を握った。
「あっどうも……って、こんなんじゃ誤魔化されませんから!」
そう言いつつもどこか嬉しそうな様子の月。
二人は恋人繋ぎをしたまま洞窟のなかへと入っていく。
その数秒後、瑠璃は彼女から手を離した。
「えっ、瑠璃さん?」
「月との幸せな時間を邪魔すんな!!」
そう叫びながら、頭上から襲ってきたこうもりをぶん殴った。
「キィー……」
大きめのこうもりは落下しつつも地面にぶつかる直前で浮かび上がり、再び瑠璃に近づいていく。
「うわっ! なんですかあの顔」
月が眉を顰めるのも無理はない。
こうもりは、まるで酒に酔い潰れているおっさんのような顔をしていた。
「気持ち悪すぎだろ」
もう一度瑠璃の拳が命中したことにより、相手は戦闘不能になって地面へと落ちていった。
「この洞窟にはこんなのがたくさんいるんですか?」
「なんか拳が汚れた気分だ」
「あー、気持ちはわかります」
「まあ文句を言ったところで、結局進まないと──」
「──キィー!!」
いきなり地面に倒れていたはずのこうもりが動き始め、月に向かって飛んでいく。
「ひゃっ!?」
「死ね」
途中で瑠璃のハイキックが命中し、相手は壁に衝突。
再び地面へと落下した。
「ふぅ……。ありがとうございます」
「俺が月の危険に気づかないはずがない。……それよりもこいつ、まだ生きているんじゃないか?」
「そういえば……可能性はありますね」
「なんか鬱陶しいから、徹底的にやる。ちょっと待っていろ」
「あ、はい」
瑠璃は動かない相手に近づき、おっさんみたいな顔面を何度も殴り始めた。
元々見るに堪えなかった顔が更にボコボコで醜くなっていく。
だが予想以上に防御力が高いようで、血は出てこない。
少しして。
月が呆れたような表情で声をかける。
「瑠璃さん。もういいんじゃないですか?」
「ストレス発散になるからもう少しやらせてくれ」
「いや、趣旨変わってません? 途中から絶対楽しくなってますよね?」
「否定はしないこともない」
「そうですか」
「おっ、ようやく潰れてきたぞ」
見ると、こうもりの後頭部から血が流れ始めていた。
少しずつ地面に広がっていく。
「……」
「これだけやれば大丈夫だろ。さぁ、先に進もうぜ」
「あ、はい」
瑠璃と月は再び奥へと進み始めた。
どうやらランダムに魔物が待ち構えているらしく、たまに天井からこうもりが襲ってくる。
しかし、先ほどと同じように瑠璃が一方的に倒すため、特に不都合はない。
むしろいい経験値稼ぎになっているくらいだ。




